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しおりを挟む肩を叩かれたような気がして、私は瞼を持ち上げる。
ちょっと眩しくて目を瞬かせていると、今度は声が聞こえた。
「! 見て見て!」
よく知ってる声だ。そう親友の……名前は確か……
「CM入ってる!」
親友が叫んで、考えていたことが霧散する。
親友はどこかを指差していてつられるようにその先を見れば、この町唯一のファッションビルにくっついた街頭ビジョンに、【忘却のアビリティ】の文字が躍っていた。
あ、そっか。今日は【忘却のアビリティ】の発売日だ。
「ラッキー、フルバージョンだよ! やっぱり絵がきれいだなぁ」
「そう?」
「キーラなんて、凄いじゃん。あの髪の毛、どんだけ力入れてんのって思うし、魔法使うとこなんて、主人公たちより綺麗なんだよね、ほら、次のシーン!」
画面の中で、キーラが魔法を使い始める。
キーラの髪が七色に輝いて、次々に魔法が繰り出さる。
エフェクトたっぷりに。土・風・水・炎と背景が変わって最後は悪役らしく闇が広がる。
「次のシーンから攻略対象者の紹介だよ。最初はね……あぁ、青になっちゃた」
「最後まで見てから行ったら?」
「んー、でもバス時間あるから、行ってくる。―――は見てていいよ。最初はカークからだよ」
そう言って、青信号を渡って行く。
その背を見送って画面に目を戻すと、金髪碧眼の男の子が魔法を使うところだった。
綺麗な碧い眼が、敵を睨みつけ、キラキラと輝く髪をなびかせて画面を横切る。
ひらひらと手を動かせば、空気が風のように動いて敵をなぎ倒していく。
―――――あの人が、カーク、なんだ。
金髪、碧眼で、王子様のキャラクターなんて星の数ほどいる。
この前も、その前も、私がゲームで攻略するのはいつもメインの王子様ばかり。
どれも、同じような、王子様だ。
だけど、何でだろう。
この人は、懐かしい。
今までの王子様のキャラクターとはどこか違う。
そう、どこかで、見たことが、あるような気がするんだ。
画面の中で、カークが振り返って両手を広げる。
そこに走り込むのは、ふんわりしたショートカットの女の子。
後ろ姿しか見えないけど、多分主人公なんだろう。
満面の笑顔で、カークがその子を抱きとめると、光の花びらが二人を祝福するように舞いあがった。
瞬間、胸がズキズキと痛んだ。
ついでにイライラした。
嫌だ、見ていたくない。
でも、目が離せない。
――――何だろう? これ? なんなんだろう?
「―――――!!」
ふと、誰かが誰かを呼ぶ声が聞こえた。
辺りを見回せば、信号の向こうで手を振る親友が見えた。
「―――――!!」
親友が、叫んでる。
行けばいいのかな?
信号がまた赤から青に変わる。
「ダメ! ――――! 来ちゃだめ――――っ!」
「え?」
親友が、誰か知らない隣の人に押さえられるのが見えて、足を止めた。
――――なんだろう、なんだか、おかしい。
いつか同じシーンを見たことがある気がする。
ああ、これってもしかして夢なのかな?
確か、このあと右側からトラックがくるんだよね。
「――――――!!」
誰かが、また、私を呼んだ。
「―――ッ!!」
「――ラッ!!」
「キーラッ!!」
あぁ、やっぱりこれは、夢だ。
―――――だって、今は、私がキーラなんだもん。
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