このやってられない世界で

みなせ

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 お父さんは、また私をモヤモヤさせるような事を言った。
 何故か分からないけれど、お父さんが口を開くたび、顔をしかめたくなってしまう。

「キーラ?」

 眉を寄せるのも、ため息も我慢して俯けば、さっきと同じように覗きこまれた。
 心配そうな表情に、ますます何とも言えない気分になる。
 この気持ちって、何なんだろう?

 何でこんなにイライラするんだろう?

「……キーラ、続きはまた明日にしようか? 急にいろいろ聞いたから、もう疲れたんじゃないかい?」

 そんなことないと言いかけて、口をつぐむ。
 ずっとお父さんに抱きかかえられているから、体は疲れない。でも頭の方はいっぱいいっぱいだ。
 そういう意味では疲れてる? 疲れているからこんな気分?

 いやいや、待って。そうじゃない。疲れてるんじゃない。
 お父さんの言葉に騙されちゃだめだ。

 お父さんが勝手な事ばかり言うから、ちっとも考えが進まないんだ。
 そうだ。お父さんが悪いんだから。

 一度文句が出てくれば、つられるように思考が動き始める。

 お父さんなんて勝手に王様になって、ゲームの事もお母様の事も何にも知らなくて、なのにうかつに陛下と契約を結んだあげく、ずっと肉ばっかり食べてたピーちゃんだったくせに。
 お母様から直接説明されたアーサーがこんな感じで、言ってる事だってあやふやで正しいかも分からないのに、そんなアーサーの話だけでなにもかも分かってるみたいに、いつも適当なことばっかり言ってる。

 私がこんなに悩んでいるって言うのに!
 こっちの気持ちも知らないで!

 だいたいお父さんとアーサーに憑いてた黒いものが、同じものだって考えてるのが気に入らない。
 だって、アーサーとお父さんは、黒いものがついていたとしても全然違った。
 お父さんの気持ちを読んだピーちゃんは、私をちゃんと助けてくれた。
 でもアーサーは嫌なことばっかり。
 お父さんが言うように黒いものがついてる人の気持ちを読んで動くなら、やっぱりアーサーはずっと私を嫌いだったってことになる。

 つらつらとそこまで考えた瞬間、私じゃない“私”の声が、私の中で響いた。

 “そうだよ。アーサーはいつだって私を嫌いだった”って。


――――え? どういう事?


 アーサーが私を嫌い? そうだった?
 私の記憶では……アーサーは家の事を教えてくれて、一緒にお母様を助けてくれて……

 ちゃんと……ちゃんと……

 あれ、なんでだろう、頭の中がぐちゃぐちゃして良く思い出せない。

 自分のものではない感情が強く胸を締め付けて、すごく苦しくなってお父さんの袖をさらに引く。
 なんかおかしい、そう言いたくて口を開けば、それを遮るように私のじゃない叫びがまた響く。


 “お父さんはアーサーを信じるの?”


 声にはなっていない。でもお父さんは驚いたように目を見開いた。そして、私にしっかりと視線を合わせ、

「……キーラ。私はね、アーサーではなく、カーラを信じているんだよ」

 って、はっきりと良く通る声でそう言った。

 その途端、胸苦しさが消えて、頭の中もすっきりと片付いて、
 私のものじゃないと思っていた声も言葉も、最初からそうであったかようにぴたりと私の中にはまった。


――――そっか、私、アーサーを信じたくなかったんだ。だからお父さんがアーサーを信じるような事を言うから、嫌だったんだ。


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