294 / 336
294
しおりを挟む
キーラは正攻法ではフォルナトルから国外へ出られない。
お母様が残したアーサーの記憶には、それが契約であるとは記されてなくて、フォルナトル王に、キーラが国外に出る事を認めることが必要だとだけあった。
だからアーサーはルキッシュ側から、キーラではなく、オンリンナと言う家名で交渉した。
「お嬢様がオンリンナの爵位を賜ったと聞いたので、利用しました。フォルナトル王が応じるかは分かりませんでしたが」
「陛下は、ルキッシュに行っても行かなくてもいいって言ってたよ。でも行くべきだとも……私に必要だからって。それに、お父さんがピーちゃんだってのも知ってた」
アーサーは、少し驚いたようだ。目を瞠ってから、深く息を吐いた。
「リーナにお父さんの……ルキッシュの話をしたのも陛下だよ」
「そう……でしたか……では、フォルナトル王は……カーラ様も……」
何か考えているのか、ぶつぶつとアーサーが何か言っている。口を押さえているので良く聞こえないけれど、お母様の名前を何度もつぶやくのがすごく気にかかる。
「ねぇ、アーサー、それって本当に全部お母様が考えたの? お母様とカークや陛下……フォルナトル王はよく会ってたんでしょう? ならこの話しもしていたよね」
「いえ、私の記憶では、カーラ様は王家を信用はしていませんでしたよ。お嬢様を王太子殿下に会わせた後は特に……」
「何で?」
「それは……」
アーサーは言いにくそうに顔をしかめた。それでも、私も眉を寄せると、口を開く。
「……カーラ様がおっしゃるには、王太子殿下の執着は女の子を初めて見たせいで、成長しいずれリーナと出会えば、強制力もあるようだからどうなるか分からない、と」
そうか。確かに強制力ってのは良く聞くけど。
でも、カークは……カークには。
「予言が始まって、もし王太子殿下がお嬢様に興味を無くせば、王家はすぐにお嬢様を切り捨てるだろう、と」
「それって、予言どうりにするってこと?」
「カーラ様はそう思われていたようです……まぁ、実際は、目移りどころかさらなる執着を……失礼しました」
執着って……あれは……
「仕方ないよ。カークのあれは習性なんだから」
「習性? それはどう言う意味です」
「あ」
思わずカークの援護を口にしてしまった。アーサーがしかめた顔をさらにしかめている。
えーっと、これなんて言えばいいの!?
大体、アーサー、なんでそんなことも知らないの?
って、私も知らなかったけど……あれ、もしかして。
「アーサー、お母様からフォルナトル王は、奥さんを生涯に一人の人しか選ばないって聞いた事、ある?」
「いえ、ありません……それは……まさか……」
アーサーは、すぐに言葉の意味を理解したようだ。
「お嬢様が、王太子殿下の、その、たった、一人、だ、と、言う事ですか?」
妙なところで区切らないでほしい。
私は、頷くことも首を振るのも嫌で、そのまま目を反らすことで、答えをごまかした。
アーサーが大きく息を吐き出すのが聞こえる。
「そうでしたか……だから、フォルナトルはあんなにもルキッシュに寛大で……お嬢様の扱いも良かった……のですね。それを知っていたら、もう少し王家を信じられたのに……」
「お母様も知らなかったの?」
「でしょうね。そう言う事なら、あの執着も理解できます」
……理解、出来るんだ。
私には、そんなに簡単に分かるのが……分からないよ。
お母様が残したアーサーの記憶には、それが契約であるとは記されてなくて、フォルナトル王に、キーラが国外に出る事を認めることが必要だとだけあった。
だからアーサーはルキッシュ側から、キーラではなく、オンリンナと言う家名で交渉した。
「お嬢様がオンリンナの爵位を賜ったと聞いたので、利用しました。フォルナトル王が応じるかは分かりませんでしたが」
「陛下は、ルキッシュに行っても行かなくてもいいって言ってたよ。でも行くべきだとも……私に必要だからって。それに、お父さんがピーちゃんだってのも知ってた」
アーサーは、少し驚いたようだ。目を瞠ってから、深く息を吐いた。
「リーナにお父さんの……ルキッシュの話をしたのも陛下だよ」
「そう……でしたか……では、フォルナトル王は……カーラ様も……」
何か考えているのか、ぶつぶつとアーサーが何か言っている。口を押さえているので良く聞こえないけれど、お母様の名前を何度もつぶやくのがすごく気にかかる。
「ねぇ、アーサー、それって本当に全部お母様が考えたの? お母様とカークや陛下……フォルナトル王はよく会ってたんでしょう? ならこの話しもしていたよね」
「いえ、私の記憶では、カーラ様は王家を信用はしていませんでしたよ。お嬢様を王太子殿下に会わせた後は特に……」
「何で?」
「それは……」
アーサーは言いにくそうに顔をしかめた。それでも、私も眉を寄せると、口を開く。
「……カーラ様がおっしゃるには、王太子殿下の執着は女の子を初めて見たせいで、成長しいずれリーナと出会えば、強制力もあるようだからどうなるか分からない、と」
そうか。確かに強制力ってのは良く聞くけど。
でも、カークは……カークには。
「予言が始まって、もし王太子殿下がお嬢様に興味を無くせば、王家はすぐにお嬢様を切り捨てるだろう、と」
「それって、予言どうりにするってこと?」
「カーラ様はそう思われていたようです……まぁ、実際は、目移りどころかさらなる執着を……失礼しました」
執着って……あれは……
「仕方ないよ。カークのあれは習性なんだから」
「習性? それはどう言う意味です」
「あ」
思わずカークの援護を口にしてしまった。アーサーがしかめた顔をさらにしかめている。
えーっと、これなんて言えばいいの!?
大体、アーサー、なんでそんなことも知らないの?
って、私も知らなかったけど……あれ、もしかして。
「アーサー、お母様からフォルナトル王は、奥さんを生涯に一人の人しか選ばないって聞いた事、ある?」
「いえ、ありません……それは……まさか……」
アーサーは、すぐに言葉の意味を理解したようだ。
「お嬢様が、王太子殿下の、その、たった、一人、だ、と、言う事ですか?」
妙なところで区切らないでほしい。
私は、頷くことも首を振るのも嫌で、そのまま目を反らすことで、答えをごまかした。
アーサーが大きく息を吐き出すのが聞こえる。
「そうでしたか……だから、フォルナトルはあんなにもルキッシュに寛大で……お嬢様の扱いも良かった……のですね。それを知っていたら、もう少し王家を信じられたのに……」
「お母様も知らなかったの?」
「でしょうね。そう言う事なら、あの執着も理解できます」
……理解、出来るんだ。
私には、そんなに簡単に分かるのが……分からないよ。
0
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろうでも公開しています。
2025年1月18日、内容を一部修正しました。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~
愛山雄町
ファンタジー
エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。
彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。
彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。
しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。
そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。
しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。
更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。
彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。
マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。
彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。
■■■
あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

乙女ゲームのヒロインに転生したらしいんですが、興味ないのでお断りです。
水瀬流那
恋愛
大好きな乙女ゲーム「Love&magic」のヒロイン、ミカエル・フィレネーゼ。
彼女はご令嬢の婚約者を奪い、挙句の果てには手に入れた男の元々の婚約者であるご令嬢に自分が嫌がらせされたと言って悪役令嬢に仕立て上げ追放したり処刑したりしてしまう、ある意味悪役令嬢なヒロインなのです。そして私はそのミカエルに転生してしまったようなのです。
こんな悪役令嬢まがいのヒロインにはなりたくない! そして作中のモブである推しと共に平穏に生きたいのです。攻略対象の婚約者なんぞに興味はないので、とりあえず攻略対象を避けてシナリオの運命から逃げようかと思います!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる