このやってられない世界で

みなせ

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 お母様は消えた三日間の事を、ゲームの事を良く知る人に会う事が出来た、と言っていたという。

「全部ゲーム通りにはならないとは思うけど、少し手を加えておけばよりキーラが安全になると思う。それと、あちら側にはなるべくこちらの情報が漏れないようにしたい……キーラの事は特にね」

 お母様が、ゲームを良く知る人からどんな話を聞いて、そこからどんな筋道を考えたのか、アーサーたちは教えられなかった。
 ただ、キーラとラーシュ-――――ルキッシュとの関係は絶対にリーナ達に隠したいからと、アーサーとマリーにはその事を忘れる魔法をかけさせてほしいと言われたそうだ。

「でも、私がアーサーにお父さんの事聞いた時、覚えていたよね?」
「えぇ、それがカーラ様の封印の魔法のおかげなのです」

 お母様がアーサーにした封印。
 それは新しい偽物の記憶を乗せることから始まった。
偽物の記憶は、オンリンナからお父さんにつながる記憶を抜いて、“リーナ”がオンリンナにやってきた時に、お互い不自然と思わない程度にゲームに近づけたものだと言う。たとえばキーラの父親がラーシュではなくチェルノであるとか、チェルノが最初からオンリンナ公爵だとか……ゲームの進行に必要な部分が書きかえられた、ものだった。
 アーサーの本当の記憶の方は、細かく細かく分けられて封じられた。
 ゲームのストーリーが始まって進んでいくと、記憶をその時の状況と、キーラの状態から取捨選択し、必要に応じて置き換えられるように。
 それはアーサーにも分からないくらい自然に行われていたという。


 置き換えのカギは、キーラの魔力。


「カーラ様が言うには、私は“ゲームのストーリー”をお嬢様の都合良く進めるための案内役、なのだそうです」
「案内役?」
「カーラ様は予言では、早くにお亡くなりになるから、カーラ様の代わりに私がお嬢様を導き守るようにと」
「カーラは自分が死ぬ事を知っていたのか……いや、だが……」

 お父さんはうめくようにそう言って、首を振った。

「ラーシュ様、カーラ様は……」
「いや、今はいい。先に話を聞こう。それで、どうして君はおかしくなったんだい」

 アーサーが何か言いかけたのを制して、お父さんは先を促した。
 アーサーは痛ましげな表情でお父さんを見たけど、すぐに口を開いた。

「それからは、カーラ様は良く王家に通われていましたが、予言について触れることもなく、私の封印が解けることもなく、お嬢様も健やかにされていました。そう、リーナ達が現れるまで特に問題はなかったのです」

 リーナが来てからも、記憶を封じられたアーサーには特に変わった事があったようには思えなかったという。
 だけど、あの日、キーラが覚醒した瞬間……あの日、あの場面。


 アーサーの封印が、一つ、解けた。


「初めに解けた封印はこの指でした」

 アーサーはそう言って、人差し指のニコちゃんマークを見せた。

「ですが、いつからか何かが私に憑いていたのでしょう。封印が解けると同時に、自分の中に二つの思考があることに気が付きました。一つは私自身の記憶、そして、偽物の記憶と、それにまとわりつく何か」
「何か?」
「はい、その何かは、私に偽物の記憶を正しい記憶だと思わせようとする意思を感じました。もしカーラ様の魔法がなければ、私の解放された記憶はすぐに消されていたでしょう。その上、その後すぐにお嬢様が学園から王家に連れ去られ、次の封印を解くことも、その何かを追い出すことも出来ませんでした」
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