このやってられない世界で

みなせ

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 アーサーが最初に話したのは、お母様の魔法についてだった。

「お嬢様にはオンリンナ家の魔法は変なものが多い、と話した事があったと思います」

 うん、言っていた。覚えてるよ。
 だって私いまだに魔法使えなんだもん。なおさら覚えてるよ。

「カーラ様が覚醒してオンリンナとして発現した魔法が……カーラ様が言うには“封印”の魔法でした」
「覚醒してからなら、私が知らなくて当たり前だな」

 お父さんがほっとしたようにつぶやいた。
 さっきもそんなこと言ってたけど、知らなかったのがそんなに気になるんだ。
 なんだか面白くてお父さんを見上げてニヤニヤしてたら、お父さんがこっちを見た。
 一瞬目を瞠って、ごまかすように咳払いする。

「こちらをご覧ください」

 アーサーが両手の手のひらをこちらに向けた。何を見ればいいのかと首を傾げると、もっと近くへと言われて、お父さんは仕切りへと近付いた。

「指先を見てください」

 さらに手のひらを寄せられて、ようやくその指先すべてにニコちゃんマークが描かれているのが見えた。

「……これは?」
「これがカーラ様の魔法です、一つ一つに私の記憶が封印されていました。封印解除の鍵はお嬢様の魔力で、解除のタイミングは予言の進行具合とお嬢様の状態で変わります。これから話す事は、カーラ様のこの魔法の事を念頭に置いて聞いてください」

 と、始まったアーサーの話は、列車事故―――――お父さんが王に選ばれた時まで遡った。






 お父さんが王に選ばれたことで起きた列車事故で、お父さんとお母様たちは離ればなれになってしまった。本当ならその場に残りお父さんと合流したかったけれど、お母様が妊婦だったことから、問答無用でフォルナトルの王都へ送られたそうだ。

お母様たちはオンリンナの屋敷に身を寄せ、事故の後処理が終わるのを待った。
事故から一ヶ月後、ようやくルキッシュから連絡が来て、アーサーは一人でルキッシュに向かった。

 ルキッシュでお父さんと会ったアーサーは、お父さんから私たちを守るよう命じられ、さらに事故の賠償金の支払いを任せられた。
 いやいやながらまたフォルナトルに戻り、お父さんのことと賠償金の話をお母様に伝えると、なんとオンリンナ家の借金もかなりの額があることが分かった。

「アーサー、お母様はお父さんが生きている事を知っていたの? それに列車事故を事件って……」
「それはこれからお話しします」

 借金はお父さんとお母様、そしてアーサーの持つ資金だけではとても払いきれない額だった。
 金策に疲れたそんな時、お母様がフォルナトル王家から呼び出しを受け、契約結婚を持ちかけられた。
 相手はチェルノ・ヴィスカルと言う名のトクタムの商人で、発明家としてのオンリンナの名を借りるために多額の契約金を払うと言う。

 お母様は悩んだ末にそれを受け入れ、借金をすべて返済することにした。
 チェルノの事は、契約書以上の接触はなく、お母様はもちろんアーサーたちも見た事はなかった。王家が仲介したこともあり、その後深くかんがえることもなかった。

 そして、その数か月後、お母様はオンリンナの屋敷でキーラを出産した。
 その時、アーサーは気が付いていた。

 お父さんが、オンリンナ家にお母様とキーラを見に来ていた事を。
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