このやってられない世界で

みなせ

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 お父さんの手のひらの上で、ぴょこぴょこと白い鳥が跳ねている。
 その嬉しそうな様子に、お父さんが助けを求めるように私を見た。
 こっちを見ても、何もできないよ。
 白い鳥はお父さんに夢中だし。

「うーん、やっぱり何も感じないな」

 陛下がそう首を傾げる。
 私も良く分からないから同じように首を傾げると、陛下は少し笑った。

「前に見た鳥……ピーちゃんと同じだね」
「同じ? それは、お父さんが中にいた時のピーちゃんと、ですか?」
「そうだよ」

 陛下は頷く。
 やっぱり陛下には黒い物を見れないのか。

「陛下にはピーちゃんや、この鳥がどう言う風に見えてるんですか?」
「普通の鳥……と言えばいいのかな」

 そうなんだ。ただの鳥……なんだ。
 あれ、でもルキッシュにピーちゃんを連れて行くようにと言ったのは陛下だった。

「陛下は、ピーちゃんにお父さんが入っているって最初から知っていたんですよね?」
「知っていたよ」
「その時って、どう見えていたんですか?」
「なんて言うか、ルキッシュ王の意識が、鳥にしがみついていると言う感じ……だね」

 しがみつく……そんな風に見えているんだ。

「悪い物の感じもなかったし、ピーちゃんを調べたエドからも悪い物ではないと報告があった。だから、キーラ嬢の元に戻して様子を見ることにしたんだ」

 ピーちゃんを調べたのはケビンのお父さんだった。ケビンのお父さんはエドって言うのかな?

「お父さんがピーちゃんについているのを知っていて、どうしてすぐにお父さんを元に戻そうと思わなかったんですか?」
「前からルキッシュ王がオンリンナ家に来ていたのは知っていたからね。あの状況だったし、何か考えがあるのだろう……そのうち自分でルキッシュへ戻ると思っていたんだよ……悪い物を感じなかったし、まさかそう言うことになっているとは思わなかったからね」

 と肩をすくめた。

「それにね、ケビンがキーラ嬢とピーちゃんはよく馴染んでいると言うから、なおさらね」

 馴染んでいる、ってどう言う意味だろう?
 ぴーちゃんと? それともお父さんと?

「私が見た時は、ピーちゃんともルキッシュ王ともよく馴染んでいたよ」
「ピーちゃんとも、ですか?」
「ピーちゃんとも。それにね……肉親が側にいることで生まれる安定は何にも勝るんだよ。キーラ嬢には父親が生きていることを伝えたことは無いけれど、きっと感じとっていたんだろうね。ピーちゃん……ルキッシュ王が側にいる事で、君はかなり落ち着いただろう?」

 落ち着いた……のだろうか?
 自分では良く分からない。

「今は……」
「そうだね。その白い鳥もキーラ嬢によく馴染んでいるよ」

 馴染んでるってわりにはお父さんにべったりで、私の方全然見ないけど?
 馴染んでいるってどう言うことなんだろう?
 そう思って、お父さんの方を見ると、お父さんは相変わらず困り顔で固まっていた。

「ルキッシュ王、そろそろ大丈夫じゃないかな?」
「そうですね……『解除』」
「ピィ!」

 お父さんの言葉で、キラキラした壁が消えた。
 白い鳥が声を上げて細くなって、キョロキョロと辺りを見回し、私と目が合った。

「キーラ! キーラガイル!」

 ブワッとまた羽を膨らまして、ピーちゃんの声で、白い鳥がそう叫んだ。
 お父さんに夢中なんじゃなく、今まで気がついてなかったの?

「ピーちゃん?」
「ソウ、オレ、ピーチャン!」
「本当にピーちゃんなの?」
「オレ、ピーチャン! オレ、ピーチャン!」

 バサリと力強い音を立てて、白い鳥はお父さんの手から飛び立った。
 分かっているのか分かっていないのか、そう叫びながら部屋の中をぐるぐると飛びまわる。

「……一つ聞いていいかな?」

 慌てて白い鳥を追いかけていると、陛下にしては低い声がした。

「もしかしてその鳥は話せるのかな?」

 あ……それは言ってなかった。
 私とお父さんは顔を見合わせて、眉を寄せる。
 セキセイインコなら、少しは話す。会話にはならないけれど……。
 話せると言うべきか、言わない方がいいのか。

「それは……」
「キーラ、ピーチャン、オナカスイタ! キーラノマリョク、チョウダイ!」

 ごまかしようが……なさそう。
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