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瓶の中で首を背中にまわし、両足を投げ出したとても微妙な形で丸くなっているのは、白文鳥を三倍くらいに大きくした、鳥、だった。
どこをどう見てもセキセイインコの面影はない。だからと言って、文鳥と言うにはくちばしも足も少し長くて、細い。
「これ、生きてる?」
よく分からなくてじっと見つめていると、白文鳥よりも透明感のある白い羽が小さく上下している。
「生きている、ようだね」
お父さんが肩をすくめた。
「キーラ、もう一回聞くけど、最後に見た時、あの黒い物は変わりなかったんだね?」
「うん」
「そして、ピーちゃんはぬいぐるみだった」
「うん」
「キーラは、瓶にぬいぐるみを入れて、魔力を与えた」
「……うん」
「……魔力を与えたら、黒い物が光って、中身がなくなった」
「うん」
そこまで聞いて、お父さんはそっと瓶を持ち上げた。
鳥が目覚めないよう注意しながら、瓶の状態を確かめて行く。
「蓋はちゃんと閉まっているね、ひびも入っていない……蓋に隙間も……無いようだ……一度出て戻ったと言うわけでもなさそうだ……」
瓶底にこびりついたお菓子のくずを見ると、湿気に弱そうなものだった。ぬいぐるみを入れた時は気が付かなかったけれど、瓶の蓋はかなりしっかり閉まるタイプのものなのだろう。
――――空気、足りてるのかな?
ふくふくと羽が動いているから、息をしているのは間違いない。でももう二日もたっている。もし密閉容器なら、空気も限界じゃないだろうか?
「……フンが無いね。食事はどうしているんだろう?」
お父さんが首を傾げた。
「ピーちゃんは肉を食べてたよね」
お菓子くずが残ったままだから、食べなかったんだろうと思ってそう言うと、お父さんは微妙な顔をした。
「これが、本当にあの黒い物とぬいぐるみなら……食事もいらないし、フンもしないかもしれない」
「……ピーちゃんはフンしてた……」
ピーちゃんのおしりの穴は確認済みだし、カゴにはフンがあった。
お父さんがまた微妙な顔をする。
「キーラ……」
呆れたような声に、私はお父さんの方を見ないように俯いた。
やっぱり嫌だよね。鳥が緑色の時はお父さんもピーちゃんの中にいたんだから。
「どうして、瓶にぬいぐるみを入れたんだい?」
そう聞かれると、どうしても言い訳がしたくなる。
「だって、あの黒い物がすごく寂しそうだったし……ぬいぐるみに懐いていたから……」
自分的な足し算と引き算では、また緑のセキセインコになる筈だった。
「何か起きるなんて思わなかったし……魔力も、弾いて遊んでただけで、瓶に盗られるなんてもっと思わなかったから」
すごく楽しかったから、とは言えない。
「……まぁ、やってしまったものは仕方がないね」
はぁ、と大きなため息を一つして、お父さんは瓶を置いた。
少し音がしたけれど、鳥は変らず健やかに眠っている。
「フォルナトルでピーちゃんを調べた時、この鳥は変態するって言ってけど、この事なのかな?」
「変態?」
「うん、ピーちゃんの状態は幼鳥で、成長したら変わるって」
「ぬいぐるみ……じゃないのかい?」
「そうだけど、そう言われたの。お父さん、調べられたの覚えてない?」
「……肉をいっぱい食べさせられた時はあったと思うけど……」
お父さんは、あまり覚えていないな……と眉を寄せた。
って事は、肉への執着ははお父さんの意識じゃないのか……
「明日、フォルナトル王に見てもらえれば何か分かるかもしれない」
「え、これ見せるの?」
「しょうがないだろう、こうなってしまったんだから」
そうだけど、なんかすごく怒られ……って言うか、がっかりされそうで怖い。
そう思って、無言の抵抗をしているとお父さんは枕カバーに瓶を入れて、口をしっかりと閉めた。
「キーラ、明日までこれに触ったら駄目だよ」
そして物凄くきつい顔で、そう言われた。
どこをどう見てもセキセイインコの面影はない。だからと言って、文鳥と言うにはくちばしも足も少し長くて、細い。
「これ、生きてる?」
よく分からなくてじっと見つめていると、白文鳥よりも透明感のある白い羽が小さく上下している。
「生きている、ようだね」
お父さんが肩をすくめた。
「キーラ、もう一回聞くけど、最後に見た時、あの黒い物は変わりなかったんだね?」
「うん」
「そして、ピーちゃんはぬいぐるみだった」
「うん」
「キーラは、瓶にぬいぐるみを入れて、魔力を与えた」
「……うん」
「……魔力を与えたら、黒い物が光って、中身がなくなった」
「うん」
そこまで聞いて、お父さんはそっと瓶を持ち上げた。
鳥が目覚めないよう注意しながら、瓶の状態を確かめて行く。
「蓋はちゃんと閉まっているね、ひびも入っていない……蓋に隙間も……無いようだ……一度出て戻ったと言うわけでもなさそうだ……」
瓶底にこびりついたお菓子のくずを見ると、湿気に弱そうなものだった。ぬいぐるみを入れた時は気が付かなかったけれど、瓶の蓋はかなりしっかり閉まるタイプのものなのだろう。
――――空気、足りてるのかな?
ふくふくと羽が動いているから、息をしているのは間違いない。でももう二日もたっている。もし密閉容器なら、空気も限界じゃないだろうか?
「……フンが無いね。食事はどうしているんだろう?」
お父さんが首を傾げた。
「ピーちゃんは肉を食べてたよね」
お菓子くずが残ったままだから、食べなかったんだろうと思ってそう言うと、お父さんは微妙な顔をした。
「これが、本当にあの黒い物とぬいぐるみなら……食事もいらないし、フンもしないかもしれない」
「……ピーちゃんはフンしてた……」
ピーちゃんのおしりの穴は確認済みだし、カゴにはフンがあった。
お父さんがまた微妙な顔をする。
「キーラ……」
呆れたような声に、私はお父さんの方を見ないように俯いた。
やっぱり嫌だよね。鳥が緑色の時はお父さんもピーちゃんの中にいたんだから。
「どうして、瓶にぬいぐるみを入れたんだい?」
そう聞かれると、どうしても言い訳がしたくなる。
「だって、あの黒い物がすごく寂しそうだったし……ぬいぐるみに懐いていたから……」
自分的な足し算と引き算では、また緑のセキセインコになる筈だった。
「何か起きるなんて思わなかったし……魔力も、弾いて遊んでただけで、瓶に盗られるなんてもっと思わなかったから」
すごく楽しかったから、とは言えない。
「……まぁ、やってしまったものは仕方がないね」
はぁ、と大きなため息を一つして、お父さんは瓶を置いた。
少し音がしたけれど、鳥は変らず健やかに眠っている。
「フォルナトルでピーちゃんを調べた時、この鳥は変態するって言ってけど、この事なのかな?」
「変態?」
「うん、ピーちゃんの状態は幼鳥で、成長したら変わるって」
「ぬいぐるみ……じゃないのかい?」
「そうだけど、そう言われたの。お父さん、調べられたの覚えてない?」
「……肉をいっぱい食べさせられた時はあったと思うけど……」
お父さんは、あまり覚えていないな……と眉を寄せた。
って事は、肉への執着ははお父さんの意識じゃないのか……
「明日、フォルナトル王に見てもらえれば何か分かるかもしれない」
「え、これ見せるの?」
「しょうがないだろう、こうなってしまったんだから」
そうだけど、なんかすごく怒られ……って言うか、がっかりされそうで怖い。
そう思って、無言の抵抗をしているとお父さんは枕カバーに瓶を入れて、口をしっかりと閉めた。
「キーラ、明日までこれに触ったら駄目だよ」
そして物凄くきつい顔で、そう言われた。
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