このやってられない世界で

みなせ

文字の大きさ
上 下
274 / 336

274

しおりを挟む
 瓶の中で首を背中にまわし、両足を投げ出したとても微妙な形で丸くなっているのは、白文鳥を三倍くらいに大きくした、鳥、だった。
 どこをどう見てもセキセイインコの面影はない。だからと言って、文鳥と言うにはくちばしも足も少し長くて、細い。

「これ、生きてる?」

 よく分からなくてじっと見つめていると、白文鳥よりも透明感のある白い羽が小さく上下している。

「生きている、ようだね」

 お父さんが肩をすくめた。

「キーラ、もう一回聞くけど、最後に見た時、あの黒い物は変わりなかったんだね?」
「うん」
「そして、ピーちゃんはぬいぐるみだった」
「うん」
「キーラは、瓶にぬいぐるみを入れて、魔力を与えた」
「……うん」
「……魔力を与えたら、黒い物が光って、中身がなくなった」
「うん」

 そこまで聞いて、お父さんはそっと瓶を持ち上げた。
 鳥が目覚めないよう注意しながら、瓶の状態を確かめて行く。

「蓋はちゃんと閉まっているね、ひびも入っていない……蓋に隙間も……無いようだ……一度出て戻ったと言うわけでもなさそうだ……」

 瓶底にこびりついたお菓子のくずを見ると、湿気に弱そうなものだった。ぬいぐるみを入れた時は気が付かなかったけれど、瓶の蓋はかなりしっかり閉まるタイプのものなのだろう。

――――空気、足りてるのかな?

 ふくふくと羽が動いているから、息をしているのは間違いない。でももう二日もたっている。もし密閉容器なら、空気も限界じゃないだろうか?

「……フンが無いね。食事はどうしているんだろう?」

 お父さんが首を傾げた。

「ピーちゃんは肉を食べてたよね」

 お菓子くずが残ったままだから、食べなかったんだろうと思ってそう言うと、お父さんは微妙な顔をした。

「これが、本当にあの黒い物とぬいぐるみなら……食事もいらないし、フンもしないかもしれない」
「……ピーちゃんはフンしてた……」

 ピーちゃんのおしりの穴は確認済みだし、カゴにはフンがあった。
 お父さんがまた微妙な顔をする。

「キーラ……」

 呆れたような声に、私はお父さんの方を見ないように俯いた。
 やっぱり嫌だよね。鳥が緑色の時はお父さんもピーちゃんの中にいたんだから。

「どうして、瓶にぬいぐるみを入れたんだい?」

 そう聞かれると、どうしても言い訳がしたくなる。

「だって、あの黒い物がすごく寂しそうだったし……ぬいぐるみに懐いていたから……」

 自分的な足し算と引き算では、また緑のセキセインコになる筈だった。

「何か起きるなんて思わなかったし……魔力も、弾いて遊んでただけで、瓶に盗られるなんてもっと思わなかったから」

 すごく楽しかったから、とは言えない。

「……まぁ、やってしまったものは仕方がないね」

 はぁ、と大きなため息を一つして、お父さんは瓶を置いた。
 少し音がしたけれど、鳥は変らず健やかに眠っている。

「フォルナトルでピーちゃんを調べた時、この鳥は変態するって言ってけど、この事なのかな?」
「変態?」
「うん、ピーちゃんの状態は幼鳥で、成長したら変わるって」
「ぬいぐるみ……じゃないのかい?」
「そうだけど、そう言われたの。お父さん、調べられたの覚えてない?」
「……肉をいっぱい食べさせられた時はあったと思うけど……」

 お父さんは、あまり覚えていないな……と眉を寄せた。
 って事は、肉への執着ははお父さんの意識じゃないのか……

「明日、フォルナトル王に見てもらえれば何か分かるかもしれない」
「え、これ見せるの?」
「しょうがないだろう、こうなってしまったんだから」

 そうだけど、なんかすごく怒られ……って言うか、がっかりされそうで怖い。
 そう思って、無言の抵抗をしているとお父さんは枕カバーに瓶を入れて、口をしっかりと閉めた。

「キーラ、明日までこれに触ったら駄目だよ」

 そして物凄くきつい顔で、そう言われた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう
ファンタジー
異世界へと転生してきた悪役令嬢の取り巻き令嬢マリアは、辺境にある伯爵領で、世界を支配しているのは武力だと気付き、生き残るためのトレーニングの開発を始める。 やがて人智を超え始めるマリア式トレーニング。 人外の力を手に入れるモールド伯爵領の面々。 当然、武力だけが全てではない貴族世界とはギャップがある訳で…。 脳筋猫かぶり取り巻き令嬢に、王国中が振り回される時は近い。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...