このやってられない世界で

みなせ

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「前に、リーナに近付いたのはルキッシュの方からだと言ったことを、覚えているかな?」

――――言いましたっけ、そんなこと。

「庭でカークと三人でお茶をした時だよ」

 お茶?

「あ、リーナが、私が予言どおりに動かないって……」

 そう言ったら、どんどん思い出してきた。
 そうだ! あの時確かに、陛下はそう言った。
 ルキッシュの方からリーナに接触したって。
 これって、もしかして、さっきからずっともやもやしていたことの答え……?

 あの時はルキッシュのことも、アーサーのことも、お父さんのことも知らなくて、自分とのつながりが分からなかったから、ただただ何でって思って……
 でも、ルキッシュに来たらアーサーがいて、それでなんとなく全部納得したんだ。

「思い出した?」
「はい。でも……」

 いろいろおかしい。
 ルキッシュからリーナに近付いたと言うなら、アーサーからリーナに近付いたことになる。
 お父さんが倒れたことはルキッシュ側からアーサーに知らされたとしても、何のためにアーサーはリーナに近付いたんだろう?
 アーサーは私を排除出来たら、お父さんが目覚めると言ったってことは、それは誰が言ったの?
 アーサーはピーちゃんがお父さんだってことは知らなかった。


……知っていたのは……


「あれ、もしかして、陛下、アーサーに何かしました?」

 なんとなく陛下を見て、陛下と目があって、そしたら自然とそう口にしてしまった。
 特に表情を動かさないまま、陛下が口を開く。

「オンリンナの家令には、何もしていないよ」

 には、って……
 こっちの方が、ぽかんとしてしまう言いざまだ。

「……トクタムにルキッシュ王が倒れたようだと噂を流した、それだけだよ」
「どうして」
「さっきも言ったように、トクタムの動きがまったく分からなくてね。思ったよりこちらの情報が知られているのに、隠していないようなことは理解していない。この情報でトクタムが動くかどうかと、もし動くなら誰がリーナに接触するのか……それが分かると思った」
「それで、アーサーを利用したんですか?」
「私は何もしていないよ……結果的にそうなってしまったけれど、彼はちゃんと分かってやっていた筈だ」
「分かって……? 何を分かっているんですか? だって、アーサーは操られてますよね?」
「……それは想定外だった」

 操られているってことを、陛下は否定しなかった。

「私が見ている間、彼は変わりなかったからね」
「陛下も気が付かなかったんですか?」
「……分からなかったよ。彼は彼なりに、キーラ嬢を守ろうとしていたようだから……そこをつかれたんだろう」

 陛下は肩をすくめ、ため息をついた。

「あの時は、ルキッシュ王の事もあったけれど、キーラ嬢をフォルナトルに置いておきたくなかった。だからトクタムに邪魔されず、キーラ嬢をルキッシュへと連れていける彼の手に乗ったんだ。トクタムに近く、誰でも動きやすいフォルナトルより、人が簡単には入れないルキッシュの方が守りやすいからね」
「……私がフォルナトルにいたら駄目だったんですか?」
「駄目と言うより、危険だった。ルキッシュ王の噂を流した後、急にトクタムの動きがリーナとは関係なく激しくなった……キーラ嬢を狙い始めたんだ」
「どうして私がトクタムに狙われるんですか?」
「それは……予言の立場が入れ換わったからだよ……」
「え?」
「予言では、カークはリーナを選ぶ筈だった。でも実際は、キーラ嬢を選んだ」

 そうだけど、それとトクタムは何の関係があるんだろう。
 首を傾げてしまう。

「トクタムは、ずっと影に隠れてリーナを支援していた。それはリーナを使ってフォルナトルに干渉しようとしていたからだ。だけどリーナは失敗した。そうなるとトクタムにとって必要なのはどっちだと思う?」
「それは……」

 そうなると、私、だろうか?
 ってことは、トクタムは私を捕まえて、カークに言うことを聞かせたいってこと?
 じゃあ、今攻撃しているのは、そのどっちも駄目だったから?


―――――なに、それ。


「操られているなら、どうしてアーサーは私をトクタムに渡さなかったの?」
「彼らの操り方はどうやら、長い時間操ることは出来ないようだ。ミランダ嬢もそうだったけれど、きっかけがあるとあちらの思うように動くんだ。普段はそれを感じているようだけど、逆らえる。……不安定で掴みどころがなくて、私でも見抜けない。解除もできない、不思議なものなんだ」

 そう言われると、アーサーのあのおかしな様子も腑に落ちる。
 なら、私が見ていたアーサーの、いつのアーサーが本当のアーサーなんだろう……

「陛下、アーサーはいつから操られているんですか? そして、一体誰に操られているんですか?」
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