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牢獄から帰るための登りの階段は、かなりきつい。
こっちの方が罰を受けてるみたいだけど、一歩一歩確実に上って行くしかない。
「あれは、どう言うことだ?」
どのくらい上ったころだろう。
そろそろ足が辛くなってきたころ、カルロがそう振り返った。
「あれって?」
「ほら、ラーシュ様のために……結婚って」
「それは……家が貧乏で、もともとの借金もあって、お父さんが作った借金を返しきれなかったから、名前を貸してお金をもらったんだって」
「……びんぼう? ……しゃ、しゃっきん? ……名前?」
その疑問形は、どう受け取ればいいんだろう?
「貧乏は分かるよね?」
「あ、あぁ、借金も結婚も分かるが、ラーシュ様だろ? ラーシュ様は……冒険者で……ずっとこの国に……外貨を……なんで借金……」
だんだんとしどろもどろになって行く。
「お父さん、国外で王様になったでしょ。その時いろいろ壊したみたい」
「あれか!」
カルロが叫んだ。
そっか、それは知ってるんだ。
「その補償金を払うには、お父さんのお金だけじゃ足りなかったんだって」
「……ラーシュ様は何で言わなかったんだ。そんな理由なら、ラーシュ様が国に入れたものを戻せばよかったのに……」
どのくらいのお金をお父さんがルキッシュに送っていたのか知らないけれど、カルロがこう言うってことはかなりの金額だったんだろう。
でもお父さんが一度手放したお金を返してくれなんて言わないだろう。ましてや国のお金を自分のために使うとは……言わないんじゃないかな。
「でも、お父さんの借金だけじゃなく、家にも前からの借金があったから、お母様はその話にのったみたい。名前だけだからって」
その間にもいろいろなことがあったし、お父さんのせいだけじゃないから慌ててそう付け足すと、カルロが気の毒そうな顔をした。
「……そう、か……お前も苦労してるんだな」
―――――いや、そうでもないと思うけど……
面倒なので黙っていると、カルロはまた階段を上りはじめた。
立ち止まったことで、少し体力が回復したようだ。
重くなっていた足がサクサク階段を攻略し、あっという間に上り切った。
階段の終わり、扉を開くとお父さんが心配そうに立っていた。
少し離れた場所からこちらを見ていて、近付くのを躊躇っているようだ。
「お父さん!」
こちらから近付いて声をかけると、お父さんは少し嬉しそうな顔になる。
「キーラ……もう、怒っていないかい?」
「怒ってないよ……でも、もっとちゃんといろいろ教えて欲しい」
「……キーラ」
今度は困ったような顔だ。それでも、お父さんは頷いた。
「分かったよ……一度部屋に戻ろうか?」
「うん」
戻りの道も意外と面倒だ。
二人で開けた鍵を今度は中と外で回さなければならないからだ。
「お父さん、アーサーの事だけど……アーサーってあんな感じだった?」
部屋に戻ってすぐ、私はそうお父さんに尋ねた。
「今のアーサーは、私と一緒にいた時のアーサーのようだよ」
「一緒にいたときって、冒険者の時?」
「そう、キーラの知っているアーサーと違う?」
「うん……違う、と思う」
私がちゃんと知っていると言えるアーサーは、リーナに会ってからのアーサーだけだ。そのアーサーとは、違うと思う。
そして、その前のアーサーに関しては、覚えているけれどそれが本当だという自信がない。それでも、今のアーサーとは違う……気がする。
「私、覚醒してからのアーサーしか知らないし、それに、いろいろあってルキッシュに来るまで、あまりアーサーと接触することがなかった。だから、違うのは分かるけれど、どれが本当のアーサーなのか分からない」
私が首を振ると、お父さんは肩をすくめた。
「……そうだね。私もずっとアーサーに会っていなかったから……今のアーサーは私の知っているアーサーに近いけれど、何か違う気がするんだ」
「違う?」
「何と言うか、作っている、と言えばいいんだろうか」
「作る?」
「そうだ、演技している、って感じだ」
「じゃあお父さんは、アーサーが嘘ついていると思ってるの?」
「アーサーが私のことを分かるように、私だってアーサーのことは良く分かる。なのに……彼は、まだ私のことを分からない」
「えっ?」
「アーサーをあそこに入れる前、少し試してみたんだけれど、私のことを分かったようなことを言うけれど、なんて言うか……気が付かないんだ」
気が付かない……?
「アーサーはどこにいても私のことを分かるはずなんだ。なのに、昔と同じようにしているけれど、分からないんだよ」
「じゃあ、あそこに入れたのはアーサーが強いからじゃなく、まだ何かしようとしていると思ったから?」
「……そう思いたくはないけれど」
お父さんは寂しそうにため息をついた。
「キーラはアーサーに聞きたいことがあるって言っていたけれど、何を聞くつもりだったの?」
「それは……」
私は眉を寄せた。
―――――だって何も聞けなかった……
こっちの方が罰を受けてるみたいだけど、一歩一歩確実に上って行くしかない。
「あれは、どう言うことだ?」
どのくらい上ったころだろう。
そろそろ足が辛くなってきたころ、カルロがそう振り返った。
「あれって?」
「ほら、ラーシュ様のために……結婚って」
「それは……家が貧乏で、もともとの借金もあって、お父さんが作った借金を返しきれなかったから、名前を貸してお金をもらったんだって」
「……びんぼう? ……しゃ、しゃっきん? ……名前?」
その疑問形は、どう受け取ればいいんだろう?
「貧乏は分かるよね?」
「あ、あぁ、借金も結婚も分かるが、ラーシュ様だろ? ラーシュ様は……冒険者で……ずっとこの国に……外貨を……なんで借金……」
だんだんとしどろもどろになって行く。
「お父さん、国外で王様になったでしょ。その時いろいろ壊したみたい」
「あれか!」
カルロが叫んだ。
そっか、それは知ってるんだ。
「その補償金を払うには、お父さんのお金だけじゃ足りなかったんだって」
「……ラーシュ様は何で言わなかったんだ。そんな理由なら、ラーシュ様が国に入れたものを戻せばよかったのに……」
どのくらいのお金をお父さんがルキッシュに送っていたのか知らないけれど、カルロがこう言うってことはかなりの金額だったんだろう。
でもお父さんが一度手放したお金を返してくれなんて言わないだろう。ましてや国のお金を自分のために使うとは……言わないんじゃないかな。
「でも、お父さんの借金だけじゃなく、家にも前からの借金があったから、お母様はその話にのったみたい。名前だけだからって」
その間にもいろいろなことがあったし、お父さんのせいだけじゃないから慌ててそう付け足すと、カルロが気の毒そうな顔をした。
「……そう、か……お前も苦労してるんだな」
―――――いや、そうでもないと思うけど……
面倒なので黙っていると、カルロはまた階段を上りはじめた。
立ち止まったことで、少し体力が回復したようだ。
重くなっていた足がサクサク階段を攻略し、あっという間に上り切った。
階段の終わり、扉を開くとお父さんが心配そうに立っていた。
少し離れた場所からこちらを見ていて、近付くのを躊躇っているようだ。
「お父さん!」
こちらから近付いて声をかけると、お父さんは少し嬉しそうな顔になる。
「キーラ……もう、怒っていないかい?」
「怒ってないよ……でも、もっとちゃんといろいろ教えて欲しい」
「……キーラ」
今度は困ったような顔だ。それでも、お父さんは頷いた。
「分かったよ……一度部屋に戻ろうか?」
「うん」
戻りの道も意外と面倒だ。
二人で開けた鍵を今度は中と外で回さなければならないからだ。
「お父さん、アーサーの事だけど……アーサーってあんな感じだった?」
部屋に戻ってすぐ、私はそうお父さんに尋ねた。
「今のアーサーは、私と一緒にいた時のアーサーのようだよ」
「一緒にいたときって、冒険者の時?」
「そう、キーラの知っているアーサーと違う?」
「うん……違う、と思う」
私がちゃんと知っていると言えるアーサーは、リーナに会ってからのアーサーだけだ。そのアーサーとは、違うと思う。
そして、その前のアーサーに関しては、覚えているけれどそれが本当だという自信がない。それでも、今のアーサーとは違う……気がする。
「私、覚醒してからのアーサーしか知らないし、それに、いろいろあってルキッシュに来るまで、あまりアーサーと接触することがなかった。だから、違うのは分かるけれど、どれが本当のアーサーなのか分からない」
私が首を振ると、お父さんは肩をすくめた。
「……そうだね。私もずっとアーサーに会っていなかったから……今のアーサーは私の知っているアーサーに近いけれど、何か違う気がするんだ」
「違う?」
「何と言うか、作っている、と言えばいいんだろうか」
「作る?」
「そうだ、演技している、って感じだ」
「じゃあお父さんは、アーサーが嘘ついていると思ってるの?」
「アーサーが私のことを分かるように、私だってアーサーのことは良く分かる。なのに……彼は、まだ私のことを分からない」
「えっ?」
「アーサーをあそこに入れる前、少し試してみたんだけれど、私のことを分かったようなことを言うけれど、なんて言うか……気が付かないんだ」
気が付かない……?
「アーサーはどこにいても私のことを分かるはずなんだ。なのに、昔と同じようにしているけれど、分からないんだよ」
「じゃあ、あそこに入れたのはアーサーが強いからじゃなく、まだ何かしようとしていると思ったから?」
「……そう思いたくはないけれど」
お父さんは寂しそうにため息をついた。
「キーラはアーサーに聞きたいことがあるって言っていたけれど、何を聞くつもりだったの?」
「それは……」
私は眉を寄せた。
―――――だって何も聞けなかった……
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