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よほど疲れていたみたいで、目を覚ましたらお昼に近かった。
遅い朝食をとって、エマさんと二人で優雅にお茶を“たしなんで”いると、カルロがやってきた。
「おい、頼むから、ラーシュ様を許してやってくれ」
思い切りよれよれの疲れた顔で、開口一番そう言うと、そのままぐったりと床に崩れ落ちた。
私はエマさんと顔を見合わせてから、とりあえずそんな男をソファーに座らせ、お茶とお菓子を出してみる。
「ここ一週間ずっと働き詰めだって言うのに……また余計な仕事が……」
お菓子はいらないと言うと思っていたのに、ため息と愚痴を言いながらお菓子を次々に口に運びだした。
エマさんが用意するお菓子はいつものようにかなりの量なのに、フェイ並みのスピードで消えて行く。
それに合わせて、エマさんの顔が無表情になって行くから怖い。
お菓子が三分の一になって、ようやくカルロの手が止まった。
「あー、久しぶりにゆっくり食事した」
何杯目かのお茶を流し込み、満足そうに息を吐く。
お菓子が食事になるのか分からないが、量だけならそう言えそう。
「で、姫様に何の用です?」
低い声でエマさんが言うと、カルロは私へと視線を移した。
「そうだ、まずは頼むからラーシュ様を許してやってくれないか?」
「許すって、別に何もしていないよ?」
カルロの二度目の言葉に、私は肩をすくめる。
「そんなことないだろ。昨日、ここから帰ってきたラーシュ様の荒れようと言ったら! こっちは寝る間もないくらい忙しいって言うのに……」
「……そんなに忙しいの?」
「あぁ、大変だよ。ラーシュ様が目を覚ますまでの間の処理分だけでもかなりあるのに、青の町の騒動にダンリーの脱獄だ。それから、誰かさんの家出……」
「カルロ!」
嫌みな言い方に、エマさんが一喝した。
カルロは顔をしかめて目を反らす。
「それに……アーサー様と前王派の半分が拘束されたから人手もない。忙しいのに、ラーシュ様があの調子だと士気が下がってしょうがない。その上、ここへの連絡係を命じてからの俺への風当たりの強さと言ったら……本当に、なんで俺だったわけ?」
「何でって言われても……消去法?」
「なんだ……消去法かよ」
大きくため息をついて、背もたれへと沈む。
だって、私が知ってる人、少ないし。
「こんな時、適任なのはバルドなんだけどな……」
うん、分かるけど。
「だって……あんなこと言われたら」
「だよな」
「何か言われたんですか?」
「あぁ、ちょっとね」
エマさんの質問を軽く流した。
「バルドが一番驚いたんじゃないか? だから反発するんだろ」
「何で?」
「ラーシュ様に妻と娘がいるなんて一度も聞いたことがなかったから……」
「お父さん、言っていなかったの?」
「あぁ、聞いたことがなかった。バルドはラーシュ様に憧れていた、父ともしたっていたからな……急に娘なんてものが出てきたら……なぁ」
なぁ、って言われても……それは、私のせいじゃないよ。
「俺はあまりバルドのことはよく知らないけど、面倒な奴らしいから」
「友達じゃないの?」
「友達……だけど、深くは無い。バルドとゼストは幼馴染らしいけど、この事に関してはよく分からないな」
「ふーん」
私がバルドのお眼鏡にはかなわなかったってことかな?
それとも、お父さんをとられそうになったって思った、とか?
……まさかね。
「どっちにしても……でもなるべく早く関係改善を求める」
「……うん。分かってる」
カルロの言葉に、素直に頷く。
どっちにしろ、陛下と話すにはお父さんも一緒だと思うから……心配ない。
「……落ち着いたから本題だ」
「本題?」
「あぁ、アーサー様に会うんだろう?」
そうだった。
「今から行くことになるけど、大丈夫か?」
カルロが心配そうに聞いてくる。
「大丈夫。すぐ行けるよ」
私はそう言って立ち上がった。
遅い朝食をとって、エマさんと二人で優雅にお茶を“たしなんで”いると、カルロがやってきた。
「おい、頼むから、ラーシュ様を許してやってくれ」
思い切りよれよれの疲れた顔で、開口一番そう言うと、そのままぐったりと床に崩れ落ちた。
私はエマさんと顔を見合わせてから、とりあえずそんな男をソファーに座らせ、お茶とお菓子を出してみる。
「ここ一週間ずっと働き詰めだって言うのに……また余計な仕事が……」
お菓子はいらないと言うと思っていたのに、ため息と愚痴を言いながらお菓子を次々に口に運びだした。
エマさんが用意するお菓子はいつものようにかなりの量なのに、フェイ並みのスピードで消えて行く。
それに合わせて、エマさんの顔が無表情になって行くから怖い。
お菓子が三分の一になって、ようやくカルロの手が止まった。
「あー、久しぶりにゆっくり食事した」
何杯目かのお茶を流し込み、満足そうに息を吐く。
お菓子が食事になるのか分からないが、量だけならそう言えそう。
「で、姫様に何の用です?」
低い声でエマさんが言うと、カルロは私へと視線を移した。
「そうだ、まずは頼むからラーシュ様を許してやってくれないか?」
「許すって、別に何もしていないよ?」
カルロの二度目の言葉に、私は肩をすくめる。
「そんなことないだろ。昨日、ここから帰ってきたラーシュ様の荒れようと言ったら! こっちは寝る間もないくらい忙しいって言うのに……」
「……そんなに忙しいの?」
「あぁ、大変だよ。ラーシュ様が目を覚ますまでの間の処理分だけでもかなりあるのに、青の町の騒動にダンリーの脱獄だ。それから、誰かさんの家出……」
「カルロ!」
嫌みな言い方に、エマさんが一喝した。
カルロは顔をしかめて目を反らす。
「それに……アーサー様と前王派の半分が拘束されたから人手もない。忙しいのに、ラーシュ様があの調子だと士気が下がってしょうがない。その上、ここへの連絡係を命じてからの俺への風当たりの強さと言ったら……本当に、なんで俺だったわけ?」
「何でって言われても……消去法?」
「なんだ……消去法かよ」
大きくため息をついて、背もたれへと沈む。
だって、私が知ってる人、少ないし。
「こんな時、適任なのはバルドなんだけどな……」
うん、分かるけど。
「だって……あんなこと言われたら」
「だよな」
「何か言われたんですか?」
「あぁ、ちょっとね」
エマさんの質問を軽く流した。
「バルドが一番驚いたんじゃないか? だから反発するんだろ」
「何で?」
「ラーシュ様に妻と娘がいるなんて一度も聞いたことがなかったから……」
「お父さん、言っていなかったの?」
「あぁ、聞いたことがなかった。バルドはラーシュ様に憧れていた、父ともしたっていたからな……急に娘なんてものが出てきたら……なぁ」
なぁ、って言われても……それは、私のせいじゃないよ。
「俺はあまりバルドのことはよく知らないけど、面倒な奴らしいから」
「友達じゃないの?」
「友達……だけど、深くは無い。バルドとゼストは幼馴染らしいけど、この事に関してはよく分からないな」
「ふーん」
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それとも、お父さんをとられそうになったって思った、とか?
……まさかね。
「どっちにしても……でもなるべく早く関係改善を求める」
「……うん。分かってる」
カルロの言葉に、素直に頷く。
どっちにしろ、陛下と話すにはお父さんも一緒だと思うから……心配ない。
「……落ち着いたから本題だ」
「本題?」
「あぁ、アーサー様に会うんだろう?」
そうだった。
「今から行くことになるけど、大丈夫か?」
カルロが心配そうに聞いてくる。
「大丈夫。すぐ行けるよ」
私はそう言って立ち上がった。
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