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「姫様、帰っちゃうんですか?」
答えに困っていると、エマさんにもそう聞かれてしまった。
「……私、まだ決めてないよ」
「それは分かっているよ。でもキーラは何をするか分からないから心配なんだよ。帰らないって言っていても、急に帰りたいって言うかもしれない」
お父さんは私が帰りたいと言っても、返さないって言ってくれたのに、まるで帰ること前提の話し方だ。
多分本当に心配しているんだろうけれど、急に私が帰る事になるなんておかしい。
「……お父さん、もしかして陛下と話した?」
「えっ、いや、そんなこと……」
あからさまにうろたえて、視線が揺れる。
「お父さん?」
「……話をしたよ」
「それっていつのこと?」
「王都に戻ってすぐだ」
「どんな話をしたの?」
「フォルナトルの状況とか、いろいろだよ」
国同士のことならそうだよね。
「……どうして私を呼んでくれなかったの?」
「緊急だったからね。それに話をしている途中で、ダンリーの脱獄の一報が入ったから、キーラを呼ぶまでいかなかった」
そうだろうか?
この部屋に戻って来てから、あの人たちが渡り廊下に現れるまで、結構時間があった。お父さんはどのくらい陛下と話をしていたんだろう?
そしてどんな話をしたんだろう?
「お父さん、陛下は私のこと、何て言ったの?」
「……キーラと話をしたい。そう言っていたよ」
そうじゃないでしょ?
何を言われたのか聞きたいんだよ?
陛下はいつだったか、フォルナトルのことなら何でも分かると言っていた。
何でも分かるのは、もしかしたらフォルナトルだけじゃないのかも知れない……。
きっと、こっちのことも、この世界のことも全部分かるんじゃないだろうか。
そして分かるから、こんな時にお父さんに連絡してきたのかもしれない。
私をルキッシュに来させたように、ちゃんと私がフォルナトルへ帰らなければならない理由を持って。
お父さんはそれを教えられたから、私が帰ると思うんだ。
それは一体どんなことだろう?
私はお父さんの表情をじっと観察した。
でも、お父さんは申し訳なさそうに肩をすくめるだけだ。
この様子だと、絶対教えてくれないだろう。
私は、万感の思いを込めてため息をつく。
そして、テーブルを叩いて立ち上がる。
「エマさん。お父さんを部屋から追い出して!」
「えっ?」
「はい! 姫様」
私の指示にエマさんが立ち上がり、あっという間にお父さんを部屋の外へと押し出した。
「お父さん、私が気の済むまでこの部屋へ立ち入り禁止だから!」
「キーラ? どうして?」
「どうして? それは自分で考えて! 明日のアーサーとの面会、忘れないでね。あと、ここへの連絡はカルロさんで!」
そう言って、扉を閉める。
「キーラ!」
「エマさん、鍵と重石!」
「はい! すぐに」
お父さんは暫く扉の前で叫んでいたけど、無視をしていたら諦めて帰って行った。
「姫様、いいんですか?」
「いいの!」
鼻息荒くテーブルに戻りケーキの続きに向かうと、エマさんがくすくすと笑った。
「ラーシュ様の言う通りですね……」
「何が?」
「何をするか分からないって」
「そうかな?」
「はい、ラーシュ様を目覚めさせたと思ったら、急にいなくなり、落ち込んでいるかと思えば、怒りだす……ちょっと行動が読めません」
エマさんはそれ以上の事を聞きもせず、私と同じようにケーキを食べ、干物についての長い長い感想を述べてから、ゆっくりと部屋を片付けてくれた。
そしていつもよりずっと早い時間に、
「今日はお疲れでしょう。ラーシュ様も、その他の人も近付けないようにしておきますからゆっくりお休みください」
と、部屋を出て行った。
休め、と言われたので、私は言われた通り、すぐに寝ることにする。
ここ一週間はいろいろあったな、とか思いながらベッドへと潜り込み、思い切り手足を伸ばして、寝返りを打った。
バキッ!!
「ん?」
腰のあたりに何か堅い物があって、変な音を立てた。
そして、少しだけ魔力を持っていかれた。
「な、なに?」
びっくりして飛び起きて、布団をはがす。
その時、私は完全に忘れていたんだ。
家出する前に、ここに隠した物を。
「あ、これって……」
シーツの上で無残に壊れた箱。その間から光る石が見えた。
【キーラ!】
聞こえたのは、間違えようのない、カークの声だった。
答えに困っていると、エマさんにもそう聞かれてしまった。
「……私、まだ決めてないよ」
「それは分かっているよ。でもキーラは何をするか分からないから心配なんだよ。帰らないって言っていても、急に帰りたいって言うかもしれない」
お父さんは私が帰りたいと言っても、返さないって言ってくれたのに、まるで帰ること前提の話し方だ。
多分本当に心配しているんだろうけれど、急に私が帰る事になるなんておかしい。
「……お父さん、もしかして陛下と話した?」
「えっ、いや、そんなこと……」
あからさまにうろたえて、視線が揺れる。
「お父さん?」
「……話をしたよ」
「それっていつのこと?」
「王都に戻ってすぐだ」
「どんな話をしたの?」
「フォルナトルの状況とか、いろいろだよ」
国同士のことならそうだよね。
「……どうして私を呼んでくれなかったの?」
「緊急だったからね。それに話をしている途中で、ダンリーの脱獄の一報が入ったから、キーラを呼ぶまでいかなかった」
そうだろうか?
この部屋に戻って来てから、あの人たちが渡り廊下に現れるまで、結構時間があった。お父さんはどのくらい陛下と話をしていたんだろう?
そしてどんな話をしたんだろう?
「お父さん、陛下は私のこと、何て言ったの?」
「……キーラと話をしたい。そう言っていたよ」
そうじゃないでしょ?
何を言われたのか聞きたいんだよ?
陛下はいつだったか、フォルナトルのことなら何でも分かると言っていた。
何でも分かるのは、もしかしたらフォルナトルだけじゃないのかも知れない……。
きっと、こっちのことも、この世界のことも全部分かるんじゃないだろうか。
そして分かるから、こんな時にお父さんに連絡してきたのかもしれない。
私をルキッシュに来させたように、ちゃんと私がフォルナトルへ帰らなければならない理由を持って。
お父さんはそれを教えられたから、私が帰ると思うんだ。
それは一体どんなことだろう?
私はお父さんの表情をじっと観察した。
でも、お父さんは申し訳なさそうに肩をすくめるだけだ。
この様子だと、絶対教えてくれないだろう。
私は、万感の思いを込めてため息をつく。
そして、テーブルを叩いて立ち上がる。
「エマさん。お父さんを部屋から追い出して!」
「えっ?」
「はい! 姫様」
私の指示にエマさんが立ち上がり、あっという間にお父さんを部屋の外へと押し出した。
「お父さん、私が気の済むまでこの部屋へ立ち入り禁止だから!」
「キーラ? どうして?」
「どうして? それは自分で考えて! 明日のアーサーとの面会、忘れないでね。あと、ここへの連絡はカルロさんで!」
そう言って、扉を閉める。
「キーラ!」
「エマさん、鍵と重石!」
「はい! すぐに」
お父さんは暫く扉の前で叫んでいたけど、無視をしていたら諦めて帰って行った。
「姫様、いいんですか?」
「いいの!」
鼻息荒くテーブルに戻りケーキの続きに向かうと、エマさんがくすくすと笑った。
「ラーシュ様の言う通りですね……」
「何が?」
「何をするか分からないって」
「そうかな?」
「はい、ラーシュ様を目覚めさせたと思ったら、急にいなくなり、落ち込んでいるかと思えば、怒りだす……ちょっと行動が読めません」
エマさんはそれ以上の事を聞きもせず、私と同じようにケーキを食べ、干物についての長い長い感想を述べてから、ゆっくりと部屋を片付けてくれた。
そしていつもよりずっと早い時間に、
「今日はお疲れでしょう。ラーシュ様も、その他の人も近付けないようにしておきますからゆっくりお休みください」
と、部屋を出て行った。
休め、と言われたので、私は言われた通り、すぐに寝ることにする。
ここ一週間はいろいろあったな、とか思いながらベッドへと潜り込み、思い切り手足を伸ばして、寝返りを打った。
バキッ!!
「ん?」
腰のあたりに何か堅い物があって、変な音を立てた。
そして、少しだけ魔力を持っていかれた。
「な、なに?」
びっくりして飛び起きて、布団をはがす。
その時、私は完全に忘れていたんだ。
家出する前に、ここに隠した物を。
「あ、これって……」
シーツの上で無残に壊れた箱。その間から光る石が見えた。
【キーラ!】
聞こえたのは、間違えようのない、カークの声だった。
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