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夕食はお父さんとエマさんが一緒だった。
こっちに来てからちゃんとした食事を、他の人と一緒に食べることがなかったので何だか楽しい。
「これは、何だい?」
食事ももう終わりころになって、テーブルの端にひっそりと置かれた小鉢をお父さんが見つけてしまった。
「青の町のお土産? キーラが買ったの?」
「貰ったのもあるよ」
流石に今日の今日で干物料理は出てこなかったので、味見だけでもと思い、残っていた干物を幾つか手でちぎってみたんだ。
でも、あまりの見栄えの悪さに、端っこへと寄せておいた。
だって、赤茶けた厚手の紙にしか見えないんだもん。
「干物か、懐かしいね……」
お父さんはそうすぐに口に放り込んだ。
「あぁ、でも、味は……かなり……違うみたいだね」
暫く噛みしめてから、微妙な笑顔と共にそんな感想を漏らす。
それは、美味しくない、と言うことだろうか。
お父さんの表情を見ながら、私も小さなところを選んで口にする。
まずは、当たり前だけど固い。
柔らかくなるまで待って、ようやく出てきた味は独特だけど、多分悪くない。
そして、いつまで噛んでも、水分ばかり持っていかれて、口の中からなくならない。
―――――また食べたいか、と言われたら……ないかも。
繊維状のそれを噛み砕くことを諦めて、そのまま飲み込む。
味見をしなかった私も悪いけど、肉って言ったからもう少し美味しいかと思っていた。お勧めって言ってたし。
「これ、皆にもう配っちゃったよね? 大丈夫かな」
落ち込みながら、ちらりとそうエマさんを見ると、顔をしかめながらも頷いた。
「青の町の干物は、昔から非常食として使われていますから、大丈夫です」
昔から非常食って、それを知っているなら先に言って欲しかった……。
そしたら無闇に配るなんてしなかったのに!
「……最近いろいろなことがありましたから、皆さんとても喜んでくださいましたよ?」
よ、って言われても全然慰めになってないから。
まぁ、配ってしまったものは仕方がない。あの量の干物がバックの中にいつまでもあるのも困るから、いずれは配ることになっただろう。
何だかやることなすこと運の悪い結果になっていることに落ち込みながら、さっきとは色の違う干物を口に入れてみた。
「あ、これは美味しい」
香辛料の香りと辛みと、すぐに柔らかくなった肉の甘みが絶妙に混じり合って、さっきのものとは全然違い、気持ちよく食べられる。
こっちが行った人はきっと本当に喜ぶだろう、それくらい違った。
「キーラ、もう干物はやめて、デザートを食べよう。ほらお父さんの分もあげるよ」
二個目の干物もはずれだったらしいお父さんは、そうデザートののった皿を押してよこした。
今日のデザートは白いクリームがのった普通サイズのショートケーキだ。
「お父さんの分はお父さんが食べて。私は一つあればいいよ」
「でも、こういうの好きだろう?」
「お父さんは嫌いなの?」
「いや、そんなことはないよ」
「じゃあ、一緒に食べよう!」
私が言うと、お父さんはちょっと嬉しそうにフォークを持った。
「これからは毎日キーラとご飯を食べるよ」
「……お父さん、忙しいでしょう。私は一人で大丈夫だよ」
毎日の食事は給食みたいにお盆にのった状態で現れる。小さな一口サイズのデザート付きで、バラエティーに富んだメニューが毎日の楽しみだ。
お父さんがいつもどんなものを食べているのか知らないけれど、今日の夕食メニューのようなものばかりだと、少し重い。
「忙しいけど、そうでもしないときっとなかなかキーラに会えないからね。……やっと家族らしいことが出来るんだから、私も頑張らないといけないだろう?」
「でも……」
「それに、忙しいと言って会わないでいたら、キーラは家出しちゃうし……キーラはもうすぐ帰ってしまう……のではないのかな?」
あえて考えないようにしていたことを、お父さんがあっさりと口にして、私は目を瞠った。
こっちに来てからちゃんとした食事を、他の人と一緒に食べることがなかったので何だか楽しい。
「これは、何だい?」
食事ももう終わりころになって、テーブルの端にひっそりと置かれた小鉢をお父さんが見つけてしまった。
「青の町のお土産? キーラが買ったの?」
「貰ったのもあるよ」
流石に今日の今日で干物料理は出てこなかったので、味見だけでもと思い、残っていた干物を幾つか手でちぎってみたんだ。
でも、あまりの見栄えの悪さに、端っこへと寄せておいた。
だって、赤茶けた厚手の紙にしか見えないんだもん。
「干物か、懐かしいね……」
お父さんはそうすぐに口に放り込んだ。
「あぁ、でも、味は……かなり……違うみたいだね」
暫く噛みしめてから、微妙な笑顔と共にそんな感想を漏らす。
それは、美味しくない、と言うことだろうか。
お父さんの表情を見ながら、私も小さなところを選んで口にする。
まずは、当たり前だけど固い。
柔らかくなるまで待って、ようやく出てきた味は独特だけど、多分悪くない。
そして、いつまで噛んでも、水分ばかり持っていかれて、口の中からなくならない。
―――――また食べたいか、と言われたら……ないかも。
繊維状のそれを噛み砕くことを諦めて、そのまま飲み込む。
味見をしなかった私も悪いけど、肉って言ったからもう少し美味しいかと思っていた。お勧めって言ってたし。
「これ、皆にもう配っちゃったよね? 大丈夫かな」
落ち込みながら、ちらりとそうエマさんを見ると、顔をしかめながらも頷いた。
「青の町の干物は、昔から非常食として使われていますから、大丈夫です」
昔から非常食って、それを知っているなら先に言って欲しかった……。
そしたら無闇に配るなんてしなかったのに!
「……最近いろいろなことがありましたから、皆さんとても喜んでくださいましたよ?」
よ、って言われても全然慰めになってないから。
まぁ、配ってしまったものは仕方がない。あの量の干物がバックの中にいつまでもあるのも困るから、いずれは配ることになっただろう。
何だかやることなすこと運の悪い結果になっていることに落ち込みながら、さっきとは色の違う干物を口に入れてみた。
「あ、これは美味しい」
香辛料の香りと辛みと、すぐに柔らかくなった肉の甘みが絶妙に混じり合って、さっきのものとは全然違い、気持ちよく食べられる。
こっちが行った人はきっと本当に喜ぶだろう、それくらい違った。
「キーラ、もう干物はやめて、デザートを食べよう。ほらお父さんの分もあげるよ」
二個目の干物もはずれだったらしいお父さんは、そうデザートののった皿を押してよこした。
今日のデザートは白いクリームがのった普通サイズのショートケーキだ。
「お父さんの分はお父さんが食べて。私は一つあればいいよ」
「でも、こういうの好きだろう?」
「お父さんは嫌いなの?」
「いや、そんなことはないよ」
「じゃあ、一緒に食べよう!」
私が言うと、お父さんはちょっと嬉しそうにフォークを持った。
「これからは毎日キーラとご飯を食べるよ」
「……お父さん、忙しいでしょう。私は一人で大丈夫だよ」
毎日の食事は給食みたいにお盆にのった状態で現れる。小さな一口サイズのデザート付きで、バラエティーに富んだメニューが毎日の楽しみだ。
お父さんがいつもどんなものを食べているのか知らないけれど、今日の夕食メニューのようなものばかりだと、少し重い。
「忙しいけど、そうでもしないときっとなかなかキーラに会えないからね。……やっと家族らしいことが出来るんだから、私も頑張らないといけないだろう?」
「でも……」
「それに、忙しいと言って会わないでいたら、キーラは家出しちゃうし……キーラはもうすぐ帰ってしまう……のではないのかな?」
あえて考えないようにしていたことを、お父さんがあっさりと口にして、私は目を瞠った。
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