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私は表情を作らないようにして、睨みつけながら叫んだダンリーを観察する。
ダンリーは、こちらの人らしい、私には見分けがつかないタイプの容姿をしていた。
瞳の色も、髪の色も長さも、顔つきも、これと言った特徴がない。
でももし誰に似ているかと聞かれれば、クラインに雰囲気が近いと思う。
「あんたが選ばれさえしなければ……」
選ばれるって言うのは、候補者のことかな。
でも、それが今回のこととどんな関係があるんだろう。
意味が分からずお父さんを見上げると、不満そうな顔でダンリーを見つめていた。
「お父さん?」
「……くだらないな。そんなくだらないことなら、キーラに会わせる必要はなかった」
私の声に重ねるように、お父さんがそう言って背を向けた。
「待てっ! まだ話は終っていない!」
「ラーシュ様、お待ちください!」
歩き始めてすぐ、ダンリーと誰かが叫んで、お父さんは足を止めた。
肩越しに誰が叫んだのかと見れば、バルドだった。
「ラーシュ様、この男に同意はしませんが、私もキーラ様が何故選ばれたのか疑問です」
「疑問?」
お父さんは深いため息と共に、振り返る。
「どんな疑問だい?」
「守護者が候補者に選ぶのはルキッシュの王家の方です」
「……そうだね。キーラは私の娘だから、王家の血を引いているよ。問題ないだろう」
「そうでしょうか。アーサー様から、キーラ様の母親はフォルナトルの方だと伺いました」
どう言うこと?
お母様がフォルナトルの人間だと何が駄目なの。
「他国の血が混じった方が、今まで候補者に選ばれた事はありません。選ばれるのは純粋なルキッシュの者だけのはずです」
そうか。私がハーフだから候補者になるのはおかしいって言ってるのか。
ダンリーも、バルドも、そしてアーサーも。
そう言えばバルドの態度がおかしくなったのっていつからだろう?
無口で意地悪だったけど、こんな風に嫌悪感を向けられてはいなかったはずだ。
「バルドは、キーラよりもダンリーが選ばれるべきだと言いたいのかい?」
「いえ、そうではありません。私もこの男が選ばれないことは分かります。だからこそ、何故キーラ様が選ばれたのかと……」
「それで、不正があった、と言いたいのかな?」
不快そうにお父さんが言うと、バルドはそうじゃないと首を振る。
「私たちは……守護者を見ることができません。アーサー様が言うには……」
「バルド! 君は私の話よりも、この国の昔からの儀式よりも、この国に居なかった誰かを信じるのかい?」
強い声に、バルドははっとしたように立ちすくんだ。
バルドはアーサーに憧れていた。
序列をつけるなら、お父さん、アーサー、越えられない壁、私だろう。
バルドがおかしくなったのは、お父さんが目覚める前くらいだった。きっとその頃にアーサーが何か私のことをバルドに言ったんだ。
「ダンリー、候補者に選ばれたことがある者たちに言われなかったかい。キーラに手を出してはいけない、と」
お父さんの言葉に、ダンリーが目を瞠った。
「君には分からないかもしれないけれど、キーラは“特別”なんだ。ルキッシュだとか、フォルナトルだとか、王家の血だとか、そんなものは関係ないくらいに」
お父さんが何か変なことを言っている。特別って何だ?
「そんなこと……誰が信じるものか!」
うん、それには私も同意する。
「信じなくてもいい。ただこれだけは言っておく。候補者に選ばれると言うことは“特別”を感じる力を持つってことだと」
「お父さん……私」
何か、分かりかけたものが分からなくなって、私はお父さんの袖を引いた。
これはこれ以上聞いてはいけない、そんな気がするんだ。
「……会わせたし、話もさせた。もう十分だね。彼を牢に戻しておいてくれ」
お父さんもそう思ったのか、今度は呼ばれても振りかえらずに部屋へと向かった。
ダンリーは、こちらの人らしい、私には見分けがつかないタイプの容姿をしていた。
瞳の色も、髪の色も長さも、顔つきも、これと言った特徴がない。
でももし誰に似ているかと聞かれれば、クラインに雰囲気が近いと思う。
「あんたが選ばれさえしなければ……」
選ばれるって言うのは、候補者のことかな。
でも、それが今回のこととどんな関係があるんだろう。
意味が分からずお父さんを見上げると、不満そうな顔でダンリーを見つめていた。
「お父さん?」
「……くだらないな。そんなくだらないことなら、キーラに会わせる必要はなかった」
私の声に重ねるように、お父さんがそう言って背を向けた。
「待てっ! まだ話は終っていない!」
「ラーシュ様、お待ちください!」
歩き始めてすぐ、ダンリーと誰かが叫んで、お父さんは足を止めた。
肩越しに誰が叫んだのかと見れば、バルドだった。
「ラーシュ様、この男に同意はしませんが、私もキーラ様が何故選ばれたのか疑問です」
「疑問?」
お父さんは深いため息と共に、振り返る。
「どんな疑問だい?」
「守護者が候補者に選ぶのはルキッシュの王家の方です」
「……そうだね。キーラは私の娘だから、王家の血を引いているよ。問題ないだろう」
「そうでしょうか。アーサー様から、キーラ様の母親はフォルナトルの方だと伺いました」
どう言うこと?
お母様がフォルナトルの人間だと何が駄目なの。
「他国の血が混じった方が、今まで候補者に選ばれた事はありません。選ばれるのは純粋なルキッシュの者だけのはずです」
そうか。私がハーフだから候補者になるのはおかしいって言ってるのか。
ダンリーも、バルドも、そしてアーサーも。
そう言えばバルドの態度がおかしくなったのっていつからだろう?
無口で意地悪だったけど、こんな風に嫌悪感を向けられてはいなかったはずだ。
「バルドは、キーラよりもダンリーが選ばれるべきだと言いたいのかい?」
「いえ、そうではありません。私もこの男が選ばれないことは分かります。だからこそ、何故キーラ様が選ばれたのかと……」
「それで、不正があった、と言いたいのかな?」
不快そうにお父さんが言うと、バルドはそうじゃないと首を振る。
「私たちは……守護者を見ることができません。アーサー様が言うには……」
「バルド! 君は私の話よりも、この国の昔からの儀式よりも、この国に居なかった誰かを信じるのかい?」
強い声に、バルドははっとしたように立ちすくんだ。
バルドはアーサーに憧れていた。
序列をつけるなら、お父さん、アーサー、越えられない壁、私だろう。
バルドがおかしくなったのは、お父さんが目覚める前くらいだった。きっとその頃にアーサーが何か私のことをバルドに言ったんだ。
「ダンリー、候補者に選ばれたことがある者たちに言われなかったかい。キーラに手を出してはいけない、と」
お父さんの言葉に、ダンリーが目を瞠った。
「君には分からないかもしれないけれど、キーラは“特別”なんだ。ルキッシュだとか、フォルナトルだとか、王家の血だとか、そんなものは関係ないくらいに」
お父さんが何か変なことを言っている。特別って何だ?
「そんなこと……誰が信じるものか!」
うん、それには私も同意する。
「信じなくてもいい。ただこれだけは言っておく。候補者に選ばれると言うことは“特別”を感じる力を持つってことだと」
「お父さん……私」
何か、分かりかけたものが分からなくなって、私はお父さんの袖を引いた。
これはこれ以上聞いてはいけない、そんな気がするんだ。
「……会わせたし、話もさせた。もう十分だね。彼を牢に戻しておいてくれ」
お父さんもそう思ったのか、今度は呼ばれても振りかえらずに部屋へと向かった。
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