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玄関ホールでの人の確認が終わって、そこにいた殆どの人は自分の家に戻って行った。残ったのはどさくさにまぎれて王都を出てきた人らしく、そのまま王都へと戻されるそうだ。
「ようやく終わりました」
お昼近くになって、よれよれになったゼストさんがやってきた。
「大きな問題はなかったかい?」
「はい、こちらの自警団の方たちのおかげで滞りなく。それと……」
「ラーシュ様すみません。まさかこんなことになるとは思わなくて……」
ゼストさんに促されてその後ろから現れたのは、ヴィールさんより少し若く見える男だ。お父さんを上目遣いで見上げる姿は、かなりしょげているようだ。
「……その事については王都に戻ってから聞くよ。まぁ、座りなさい」
ため息をつきながらもお父さんは彼らに空いた椅子をすすめた。
テーブルの上には軽食が並んでいる。話の途中でお昼になってしまったので、オーケンさんのおごりで例の食堂から届けてもらったものだ。
「紹介しておこう。ゼストとヴィルドだ。青の町の担当だから、これから暫くは良く会うことになるだろう」
お父さんがそう二人を紹介すると、二人は軽く頭を下げた。
「あなたももしかして……」
オーケンさんがそう言うと、ヴィルドさんは困ったような顔になった。
隣に座ったヴィールさんがヴィルドさんをひじでつつく。
「ヴィルド」
「分かったよ……オーケンさんですよね。貴方のことは曾祖父から良く聞かされていました。逃げるように去ったこの町に残してきてしまったと」
「では貴方は……」
「ヴィルデのひ孫です」
今度はひ孫かぁ。最初から誰が誰だか分からないけど、もう親族の域から溢れでてるんじゃないかな。
「ヴィルデ様の……皆さん、お元気ですか? いつこちらに戻られるのでしょう?」
オーケンさんがまた泣きそうになっている。
「皆、元気ですが……家族はもうこちらに戻ることはありません」
「そんなっ! どうして」
ヴィルドさんの言葉にオーケンさんが悲痛な声を上げた。
「曾祖父たちは、前々王と前王の家が集まることで、また争いが起ることを心配しています」
「私とヴィルドは幼馴染で仲も悪くありませんが、ヴィルケのような奴もいるので、油断できません」
ヴィルドさんに続けて、ヴィールさんも肩をすくめる。
「ですが……」
「ここに戻りませんが、我が家は王都側からヴィール様の支援をすることになっていますので、心配しないでください」
「……そう、ですか」
意気消沈したオーケンさんは、もう泣かなかった。
そのまま流れるようにヴィルドさんの家族のことを聞き始めている。
これからどうするのかとお父さんをみると、お父さんとゼストさんが微妙な顔でヴィルドさんを見ていた。
「お父さん?」
「……ヴィルドはやる気はあるのだけど空回りするんだ。本当はヴィールと一緒にこちらを任そうと思ったのだけどね、あまりにドジだから私の方で預かったんだよ」
お父さんが小さな声でそう言うと、ゼストさんも小さく頷いた。
「根は悪くないのですが、ちょっと軽いと言うか……書類関係の仕事は間違いがないので重宝していますが、現場には出せないんですよ。今回はこの町の王家の者が必要だったので連れてきたのですが……」
はぁ、と本人が向こうを向いている間のため息に実感がこもっている。
確かに、ヴィールさんと違ってなんとなく落ち着きがなさそう。
玄関ホールに溢れた人もヴィルドさんのせいだったし。
「……とりあえず、こっちはこれで終わりかな。後は王都に戻ってからにしよう。もう魔法陣は使えるんだろう?」
「はい、すぐにでも戻れます」
「じゃあ、キーラ、そろそろ王都に帰ろうか」
お父さんがそう立ち上がると、オーケンさんたちも話を止めた。
「私たちは先に王都に戻る。ヴィルドは夜までには戻り報告を」
「はい」
落ち着いた様子で答えるヴィルドさんに、ゼストさんの心配そうな視線が刺さっている。
「ラーシュ王、キーラ様。この度は本当にありがとうございました」
オーケンさんがキラキラした目でまたそう頭を下げた。
私は慌てて手を後ろに隠して、オーケンさんから距離をとる。
もう何度もお礼を言われているから、オーケンさんが本当に感謝しているのは分かる。でもちょっと頭を下げ過ぎだ。
私はそこまでのことをしていない。
ただ逃げたかっただけなのに。
私にはまったく関係ない事なのに、こんなに重くて長い話を聞かせられるのも、何もしていないのにお礼を言われ続けるのも……
そして、こんなにたくさんの人が動くなんて考えもしなかった。
これはきっと、逃げようとした事に対する罰なんだ。
無駄な動きをするなと言う、私への……
「ラーシュ王、キーラ様。このオーケン、ご恩は必ずお返しいたします」
引きつった笑顔の私に、オーケンさんがそんな不穏なことを言う。
―――――いえ、返さなくていいです。
言いたかったけど、言えなかった。
あぁ、なんか嫌な予感がまたしてきたよ。
「ようやく終わりました」
お昼近くになって、よれよれになったゼストさんがやってきた。
「大きな問題はなかったかい?」
「はい、こちらの自警団の方たちのおかげで滞りなく。それと……」
「ラーシュ様すみません。まさかこんなことになるとは思わなくて……」
ゼストさんに促されてその後ろから現れたのは、ヴィールさんより少し若く見える男だ。お父さんを上目遣いで見上げる姿は、かなりしょげているようだ。
「……その事については王都に戻ってから聞くよ。まぁ、座りなさい」
ため息をつきながらもお父さんは彼らに空いた椅子をすすめた。
テーブルの上には軽食が並んでいる。話の途中でお昼になってしまったので、オーケンさんのおごりで例の食堂から届けてもらったものだ。
「紹介しておこう。ゼストとヴィルドだ。青の町の担当だから、これから暫くは良く会うことになるだろう」
お父さんがそう二人を紹介すると、二人は軽く頭を下げた。
「あなたももしかして……」
オーケンさんがそう言うと、ヴィルドさんは困ったような顔になった。
隣に座ったヴィールさんがヴィルドさんをひじでつつく。
「ヴィルド」
「分かったよ……オーケンさんですよね。貴方のことは曾祖父から良く聞かされていました。逃げるように去ったこの町に残してきてしまったと」
「では貴方は……」
「ヴィルデのひ孫です」
今度はひ孫かぁ。最初から誰が誰だか分からないけど、もう親族の域から溢れでてるんじゃないかな。
「ヴィルデ様の……皆さん、お元気ですか? いつこちらに戻られるのでしょう?」
オーケンさんがまた泣きそうになっている。
「皆、元気ですが……家族はもうこちらに戻ることはありません」
「そんなっ! どうして」
ヴィルドさんの言葉にオーケンさんが悲痛な声を上げた。
「曾祖父たちは、前々王と前王の家が集まることで、また争いが起ることを心配しています」
「私とヴィルドは幼馴染で仲も悪くありませんが、ヴィルケのような奴もいるので、油断できません」
ヴィルドさんに続けて、ヴィールさんも肩をすくめる。
「ですが……」
「ここに戻りませんが、我が家は王都側からヴィール様の支援をすることになっていますので、心配しないでください」
「……そう、ですか」
意気消沈したオーケンさんは、もう泣かなかった。
そのまま流れるようにヴィルドさんの家族のことを聞き始めている。
これからどうするのかとお父さんをみると、お父さんとゼストさんが微妙な顔でヴィルドさんを見ていた。
「お父さん?」
「……ヴィルドはやる気はあるのだけど空回りするんだ。本当はヴィールと一緒にこちらを任そうと思ったのだけどね、あまりにドジだから私の方で預かったんだよ」
お父さんが小さな声でそう言うと、ゼストさんも小さく頷いた。
「根は悪くないのですが、ちょっと軽いと言うか……書類関係の仕事は間違いがないので重宝していますが、現場には出せないんですよ。今回はこの町の王家の者が必要だったので連れてきたのですが……」
はぁ、と本人が向こうを向いている間のため息に実感がこもっている。
確かに、ヴィールさんと違ってなんとなく落ち着きがなさそう。
玄関ホールに溢れた人もヴィルドさんのせいだったし。
「……とりあえず、こっちはこれで終わりかな。後は王都に戻ってからにしよう。もう魔法陣は使えるんだろう?」
「はい、すぐにでも戻れます」
「じゃあ、キーラ、そろそろ王都に帰ろうか」
お父さんがそう立ち上がると、オーケンさんたちも話を止めた。
「私たちは先に王都に戻る。ヴィルドは夜までには戻り報告を」
「はい」
落ち着いた様子で答えるヴィルドさんに、ゼストさんの心配そうな視線が刺さっている。
「ラーシュ王、キーラ様。この度は本当にありがとうございました」
オーケンさんがキラキラした目でまたそう頭を下げた。
私は慌てて手を後ろに隠して、オーケンさんから距離をとる。
もう何度もお礼を言われているから、オーケンさんが本当に感謝しているのは分かる。でもちょっと頭を下げ過ぎだ。
私はそこまでのことをしていない。
ただ逃げたかっただけなのに。
私にはまったく関係ない事なのに、こんなに重くて長い話を聞かせられるのも、何もしていないのにお礼を言われ続けるのも……
そして、こんなにたくさんの人が動くなんて考えもしなかった。
これはきっと、逃げようとした事に対する罰なんだ。
無駄な動きをするなと言う、私への……
「ラーシュ王、キーラ様。このオーケン、ご恩は必ずお返しいたします」
引きつった笑顔の私に、オーケンさんがそんな不穏なことを言う。
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言いたかったけど、言えなかった。
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