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まだ話は終わってはいなかったけれど、会話が止まった部屋に扉を叩く音が響いた。
「あれ、誰か来たみたい」
「あぁ、エマだよ」
もう夜も遅い時間の訪問者に首を傾げると、お父さんがそう言って扉を開けた。
「キーラが見つかったら、着替えを持ってくるよう頼んでおいたんだ」
お父さんの言葉通り、扉の前にはエマさんが立っていた。
「姫様!」
「エ、エマさん!」
持っていた大きな鞄を放り投げて、エマさんが私に抱きついてきた。
「あんな手紙一枚で突然いなくなられるから、本当に心配したんですよ!」
観光旅行なんて馬鹿みたいな理由、あの状況じゃ家出しましたって言っているみたいなものだった。
「……ごめんなさい」
涙目のエマさんに、私はそう言うことしかできない。
「エマ、キーラも疲れているからそれくらいで許してやってくれ」
抱きついたまま離れないエマさんにお父さんが苦笑いだ。
エマさんは慌てたように私から離れ、申し訳ありませんと肩をすくめた。そして、持ってきた大きな鞄を開ける。
「すぐにお休みの準備をしますね」
「え、いいよ。このまま寝るから」
昨日も寝落ちしてしまったから、お風呂に入りたい欲求はあるけれど、そんなに潔癖じゃない。多少臭くても、こんな旅行中と思えば我慢できる。
何より準備不足は自業自得だ。
「何言っているんですか! ほらこんなに肌も髪も荒れてしまって! 洋服だって下着だって昨日からそのままですよね? 絶対駄目です!」
「……お父さん」
「キーラ、エマも心配してくれたんだから……」
だから何? お父さんはその続きを言うことなく、ニコニコしながら少し見回りをしてくるとか言って部屋を出て行ってしまった。
残された私はエマさんにお風呂場へと放り込まれた。
一日空を飛んで、海にも行った汚れを落とすと、お風呂はすごく気持ちよかった。
お父さんと話をして落ち着いたのもあるのかもしれない。
お風呂からあがるとすっかり疲れてしまっていて、ほわほわしたままエマさんのお世話になりそのままベッドに入れられた。
「……本当にご無事で良かった」
そんなエマさんの安心した声を聞きながら、反省しながらもそのまま眠った。
「姫様、朝ですよ。起きてください」
エマさんの声で起こされた。
窓から太陽の光が入っているのが見えるから間違いなく朝だけど、一瞬しか眠っていないよう感覚しかない。
よほどぐっすり眠っていたんだろう。
何度目かの呼びかけでようやく体を起こすと、エマさんが心配そうに見ていた。
「大丈夫ですか? やっぱりかなりお疲れですね」
「大丈夫。まだ眠いだけ……お父さんは?」
「ラーシュ様なら隣の部屋で姫様をお待ちですよ」
それを聞いて私は準備を急いだ。
エマさんが持ってきてくれたワンピースに着替えて、アレを片手に部屋を出るとちょうどお父さんも部屋を出てきた。
きっと合わせたんだろうな、って思う。
「お父さん、おはよう!」
「おはよう、キーラ。よく眠れたかい?」
「うん」
「じゃあ、帰ろうか?」
笑顔のままのお父さんに頷いて、階段を下りるとカウンターの前でクラインが待っていた。
驚いた顔で、私とお父さんを見比べて、
「君、本当に王族だったんだ」
と、小さい声で言われてしまった。
「……ごめんなさい」
騙していたわけではないけれど、私は思わずそう言っていた。
クラインが慌てたように両手を振って
「あ、いや。謝ってもらいたいわけじゃなく、その……ありがとう」
と、頭を下げる。
不思議に思って首を傾げると、クラインは続けた。
「君のおかげで、父の冤罪も晴れた。それに、魔法陣も直ったよ。父をはめた王族のことも分かった……だから、この宿屋を続けることにしたんだ。本当にありがとう」
どう言うことか良く分からなくてお父さんを見上げると、訳知り顔の笑顔があった。
この事も後で聞かなきゃ。
「私、お礼を言われるようなこと、何もしてないよ。でも、この宿屋が続くのは嬉しい」
「……また、ぜひいらしてください。いつでも大歓迎です」
クラインはもう一度深く頭を下げてから、カウンターから紙袋を持ってきた。
「これ、お土産。少しだけど気持ちだ」
って渡されたけど、ちらっと見えたのは、干物……みたいだ。
「あれ、誰か来たみたい」
「あぁ、エマだよ」
もう夜も遅い時間の訪問者に首を傾げると、お父さんがそう言って扉を開けた。
「キーラが見つかったら、着替えを持ってくるよう頼んでおいたんだ」
お父さんの言葉通り、扉の前にはエマさんが立っていた。
「姫様!」
「エ、エマさん!」
持っていた大きな鞄を放り投げて、エマさんが私に抱きついてきた。
「あんな手紙一枚で突然いなくなられるから、本当に心配したんですよ!」
観光旅行なんて馬鹿みたいな理由、あの状況じゃ家出しましたって言っているみたいなものだった。
「……ごめんなさい」
涙目のエマさんに、私はそう言うことしかできない。
「エマ、キーラも疲れているからそれくらいで許してやってくれ」
抱きついたまま離れないエマさんにお父さんが苦笑いだ。
エマさんは慌てたように私から離れ、申し訳ありませんと肩をすくめた。そして、持ってきた大きな鞄を開ける。
「すぐにお休みの準備をしますね」
「え、いいよ。このまま寝るから」
昨日も寝落ちしてしまったから、お風呂に入りたい欲求はあるけれど、そんなに潔癖じゃない。多少臭くても、こんな旅行中と思えば我慢できる。
何より準備不足は自業自得だ。
「何言っているんですか! ほらこんなに肌も髪も荒れてしまって! 洋服だって下着だって昨日からそのままですよね? 絶対駄目です!」
「……お父さん」
「キーラ、エマも心配してくれたんだから……」
だから何? お父さんはその続きを言うことなく、ニコニコしながら少し見回りをしてくるとか言って部屋を出て行ってしまった。
残された私はエマさんにお風呂場へと放り込まれた。
一日空を飛んで、海にも行った汚れを落とすと、お風呂はすごく気持ちよかった。
お父さんと話をして落ち着いたのもあるのかもしれない。
お風呂からあがるとすっかり疲れてしまっていて、ほわほわしたままエマさんのお世話になりそのままベッドに入れられた。
「……本当にご無事で良かった」
そんなエマさんの安心した声を聞きながら、反省しながらもそのまま眠った。
「姫様、朝ですよ。起きてください」
エマさんの声で起こされた。
窓から太陽の光が入っているのが見えるから間違いなく朝だけど、一瞬しか眠っていないよう感覚しかない。
よほどぐっすり眠っていたんだろう。
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「大丈夫ですか? やっぱりかなりお疲れですね」
「大丈夫。まだ眠いだけ……お父さんは?」
「ラーシュ様なら隣の部屋で姫様をお待ちですよ」
それを聞いて私は準備を急いだ。
エマさんが持ってきてくれたワンピースに着替えて、アレを片手に部屋を出るとちょうどお父さんも部屋を出てきた。
きっと合わせたんだろうな、って思う。
「お父さん、おはよう!」
「おはよう、キーラ。よく眠れたかい?」
「うん」
「じゃあ、帰ろうか?」
笑顔のままのお父さんに頷いて、階段を下りるとカウンターの前でクラインが待っていた。
驚いた顔で、私とお父さんを見比べて、
「君、本当に王族だったんだ」
と、小さい声で言われてしまった。
「……ごめんなさい」
騙していたわけではないけれど、私は思わずそう言っていた。
クラインが慌てたように両手を振って
「あ、いや。謝ってもらいたいわけじゃなく、その……ありがとう」
と、頭を下げる。
不思議に思って首を傾げると、クラインは続けた。
「君のおかげで、父の冤罪も晴れた。それに、魔法陣も直ったよ。父をはめた王族のことも分かった……だから、この宿屋を続けることにしたんだ。本当にありがとう」
どう言うことか良く分からなくてお父さんを見上げると、訳知り顔の笑顔があった。
この事も後で聞かなきゃ。
「私、お礼を言われるようなこと、何もしてないよ。でも、この宿屋が続くのは嬉しい」
「……また、ぜひいらしてください。いつでも大歓迎です」
クラインはもう一度深く頭を下げてから、カウンターから紙袋を持ってきた。
「これ、お土産。少しだけど気持ちだ」
って渡されたけど、ちらっと見えたのは、干物……みたいだ。
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