このやってられない世界で

みなせ

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 青の町の門が見えそうで見えないあたりでフェイは私たちを下ろした。

「じゃあ、僕は帰るね」
「うん、ありがとう。フェイ」
「うん、じゃあね。キーラ!」

 嬉しそうにシタシタと足踏みして、フェイは空へ昇って行った。

「キーラ、その荷物は……」

 恨めしくフェイの影を見上げていると、お父さんにそう聞かれた。
 うろの中でフェイに乗る時も、今もがっしりと抱きしめているのは、枕カバーで包んだお菓子の瓶だ。
 バランスが悪いのに絶対に手を離さないから気になったんだろう。

「……お菓子」

 中身が中身だけに後ろめたさも手伝って、目を反らしながら小さくつぶやく。

「そうか、お菓子、か……じゃあ、行こうか」

 と、片手を差し出される。
 えーっと……手を繋ぐんでしょうか?
 視線だけで見上げると、今度は目の前に手を出してきた。
 しかたなく片手を離しその手を握ると、

「お父さんらしいことしたことないからね」

 って、笑顔で歩き出した。
 私はその後ろを引き摺られるようにして進む。
 門のところには何人ものウロウロする人影があった。
 門番の人たちとは雰囲気の違うその人たちの一人が、お父さんを見つけたらしく駆け寄ってきた。

「ラーシュ様!」
「あぁ、バルド、無事だったよ」

 お父さんがそう言うと、バルドがこっちを見た。
 少しだけ目を細めて、嫌そうに。

「ご無事で何よりです……このまま戻りますか?」
「いや、今日はここにキーラと泊ろうと思う。宿屋があったよね」
「はい……ですが」
「バルド達は先に帰っていてもいいよ。明日の朝には戻る」
「分かりました。手配します」

 まだ何か言いたげにしながらも、バルドは町の中へ走って行き、お父さんと私はそこにいた人たちに見守られながら門をくぐった。

「キーラ、お腹すいてない?」

 すいてるけど、首を横に振る。
 食べる気分じゃない。

「そう、じゃあ、このまま宿に行こう」

 町の中は前来た時よりも少し人が多い。
 服装も違うから、お父さんについてきた王都の人たちなのかもしれない。
 お父さんは迷うことなく宿に入った。

「お待ちしていました!」

 二度目の宿のカウンターでは、すでにクラインが立っていてそう声を上げた。

「部屋は二階です。貸切ですのでお好きな部屋をどうぞ!」
「ありがとう。じゃあすぐ部屋に入らせてもらうよ」

 お父さんは慣れた様子でカウンターを通り過ぎ二階に上がり、前に私が使った部屋へと入った。

「キーラはここでいい?」

 頷く。

「そう、じゃあ、私は隣にするよ……とりあえず座ろうか?」

 と言っても椅子もテーブルも無い。
 この場合はベッドに……だろう。
 お菓子瓶を抱きしめながらベッドの端に腰掛けると、その横にお父さんも座った。

「海は綺麗だった?」

 頷く。

「昨日は何を食べたの?」
「スープとパン」
「美味しかった?」

 また、頷く。

「そう、それは良かった」

 そこで会話とは言えない会話が止まる。
 お父さんはきっとため息をつきたいんじゃないだろうか。
 お父さんは一生懸命話そうとしてくれているのに。

――――――頑張って話をしないと。

 でも、何から話せばいいんだろう?

「キーラ、前に約束したね」

暫く無言でいたら、お父さんがまた話しかけてきた。

――――約束?

「元に戻ったらちゃんと話すって」
「……」
「キーラはそのことがどうしても気になるんだろう?」
「……」
「だから、今日はちゃんと話そう」

 いいね、と覗きこまれると、頷くしかない。

「じゃあ、何が心配なのか、話せるかな?」

 問われて、息をのむ。
 何が心配なのか……。
 そんなの全部だ。全部だけど。

「……は、知って、る?」

 暫く考えて、私はそう言ってみた。
 かすれてしまったので、もう一度。

「予言のこと、知っている?」
「予言?」

 お父さんが繰り返す。
 そして、困ったような顔になった。



 これは、知っているんだろうか。それとも知らないんだろうか?
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