229 / 336
229
しおりを挟む
フェイはふよふよと飛んでいる。
青の町から海まではそんなに遠くないらしく、お昼前には着くと言う。
森は相変わらず深いけど、時間が立つにつれ靄は少しずつ薄くなっていく。
『キーラ、海だよ』
靄が完全になくなってところで、フェイが言った。
首を伸ばしフェイの頭から前方を見ると、木々の間に光の反射が見える。
「海……」
『もう少しだから』
フェイは少しだけ高度を上げた。視界に長い砂浜と水平線が入る。
「本当に、海だ……」
『うん、海だよ!』
眼下すぐに森は途切れ、草地になって、長い砂浜になる。
フェイは砂につくくらい低空飛行になった。
風紋が刻まれた白い砂浜にはゴミ一つ落ちていない。
海は少し荒れていて、大きな波が白い水しぶきを上げて打ち寄せている。
でも、砂を巻き上げているのかかなり濁ってるみたいだ。遠くからでも茶色い色が見える。
それでも、ずっと森しか見ていなかったから、遠くまで視界が開けた景色はすごく気持ちがいい。
気分が良くなって思い切り息を吸い込む。
――――あれ、海の匂いじゃない? フェイの側だからかな?
風は前方から吹いている。海独特の潮の香りも磯臭さもない。
波打ち際から少し離れたところでフェイが止まった。
『キーラ、降りて』
「え、あ、うん」
言われたので、空に浮いたままのフェイから飛び降りた。
思ったよりも細かくて軽い砂が、高く舞い上がって風に乗って後方へと流れて行く。
フェイは離れたところで、大人の姿になった。
「子供の姿だと、風で飛んじゃうんだ」
確かに風はすごく強い。
だけど、フェイから離れても潮の香りはしない。どうしてだろう。
「近付いても大丈夫?」
「うん、でも入っちゃだめだよ」
「分かった」
確認して波が押し寄せるぎりぎりまで近付く。
水は濁っていて綺麗じゃない。砂のせいって言うより、もともとそんな色のようだ。そしてやっぱり海の匂いはしなかった。水の匂いはするんだけど。
「キーラ、どう?」
「うん、広くて大きいね。この水って、どんな味がするのかな」
「え、飲みたいの? 美味しくないよ、きっと」
「そうだよね……」
この海が塩味なのかとても気になる。流石に飲む気はないけど。
「フェイ、お菓子だして食べよう! 海を見ながら食べたらきっとおいしいよ!」
「うん」
お菓子って言ったらフェイが笑顔になって、耳のあたりからお菓子を出し始めた。
砂の上にポンポンと出していくけど、ここらあたりの砂は舞い上がることがない。
触ってみると少し硬くなっていた。
「あ」
フェイが変な声を出したのでそっちを見ると、あの黒い物が入った瓶が出てきていた。
―――――そうだった、それも持ってきてたんだった。
「あ。そう言えば」
マントを脱いで、ぬいぐるみを出す。
ずっと忘れていたけど、これも胸元に入れっぱなしだった。
青い鳥を見て、黒い物が瓶の中で飛び跳ねる。
「何か喜んでるみたいだね」
「そうだね」
瓶の隣にぬいぐるみを置くと、黒い物は寄りそうように瓶底にくっついた。
「お菓子、食べようか」
「うん!」
お菓子を食べながら海を見る。
太陽の光をキラキラと反射して、少し離れればとても綺麗だ。
お菓子もお茶もちょうどいい冷たさで美味しい。
「フェイ、連れてきてくれてありがとう。でもどうして連れて来てくれたの?」
「僕の中でそうしろって」
フェイはお菓子を食べるのを止めた。
「キーラがしたいことをさせるようにって」
「したいこと……」
「うん、だってキーラどこかに行きたかったでしょう」
そう首を傾げられて、私は目を見張った。
確かに、逃げたかったんだ。誰もいない所に行きたかった。
「じゃあ、青の町に寄ったのは?」
「うーん、それも、そうするようにって聞こえたんだよ。それに、寝る場所はあの町しかなかったし」
「私は野宿でも良かったよ?」
「僕はいつもそうだからいいけど、キーラは駄目だよ」
「どうして?」
「それは……僕の中でそう言ってたから」
フェイの答えに眉が寄る。
フェイは不思議そうな顔をするばかりだ。
「……そっか」
「うん」
「フェイ、クラウスたちはこれからどうなるのかな?」
「どうなるんだろうね? ラーシュが来たから、きっと良くなるんじゃないかな?」
フェイはまたお菓子を食べ始めた。
「フェイ、帰るときもまた青の町に寄る?」
「どっちでもいいよ。ラーシュはまだあの町に居るみたいだし」
「分かるの?」
「うん。あの町にも小さいけど石があるんだ」
「石?」
「ほら、王都の近くにあるでしょ、丸い石。あれのかけらみたいのがあの町にもあるんだ。ラーシュがそれで僕を呼んでるんだ。青の町からなら、僕に乗って帰るより早く帰れるよ」
私はフェイに乗って帰りたい。まだ、なんとなく顔を合わせたくない。
「キーラは、もっと自分が思ったように動いていいんだと思う」
「フェイ?」
「そうしたほうがいいって、それをするのが“キーラ”なんだって、僕の中でそう言ってるよ?」
フェイがいつもよりずっと大人びた声でそう言った。
――――作者より一言―――――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
明日からの更新は
お正月なので少しお休みします。
次回更新は1月3日になります。
来年もよろしくお願いします。
よいお年をお迎えください。
青の町から海まではそんなに遠くないらしく、お昼前には着くと言う。
森は相変わらず深いけど、時間が立つにつれ靄は少しずつ薄くなっていく。
『キーラ、海だよ』
靄が完全になくなってところで、フェイが言った。
首を伸ばしフェイの頭から前方を見ると、木々の間に光の反射が見える。
「海……」
『もう少しだから』
フェイは少しだけ高度を上げた。視界に長い砂浜と水平線が入る。
「本当に、海だ……」
『うん、海だよ!』
眼下すぐに森は途切れ、草地になって、長い砂浜になる。
フェイは砂につくくらい低空飛行になった。
風紋が刻まれた白い砂浜にはゴミ一つ落ちていない。
海は少し荒れていて、大きな波が白い水しぶきを上げて打ち寄せている。
でも、砂を巻き上げているのかかなり濁ってるみたいだ。遠くからでも茶色い色が見える。
それでも、ずっと森しか見ていなかったから、遠くまで視界が開けた景色はすごく気持ちがいい。
気分が良くなって思い切り息を吸い込む。
――――あれ、海の匂いじゃない? フェイの側だからかな?
風は前方から吹いている。海独特の潮の香りも磯臭さもない。
波打ち際から少し離れたところでフェイが止まった。
『キーラ、降りて』
「え、あ、うん」
言われたので、空に浮いたままのフェイから飛び降りた。
思ったよりも細かくて軽い砂が、高く舞い上がって風に乗って後方へと流れて行く。
フェイは離れたところで、大人の姿になった。
「子供の姿だと、風で飛んじゃうんだ」
確かに風はすごく強い。
だけど、フェイから離れても潮の香りはしない。どうしてだろう。
「近付いても大丈夫?」
「うん、でも入っちゃだめだよ」
「分かった」
確認して波が押し寄せるぎりぎりまで近付く。
水は濁っていて綺麗じゃない。砂のせいって言うより、もともとそんな色のようだ。そしてやっぱり海の匂いはしなかった。水の匂いはするんだけど。
「キーラ、どう?」
「うん、広くて大きいね。この水って、どんな味がするのかな」
「え、飲みたいの? 美味しくないよ、きっと」
「そうだよね……」
この海が塩味なのかとても気になる。流石に飲む気はないけど。
「フェイ、お菓子だして食べよう! 海を見ながら食べたらきっとおいしいよ!」
「うん」
お菓子って言ったらフェイが笑顔になって、耳のあたりからお菓子を出し始めた。
砂の上にポンポンと出していくけど、ここらあたりの砂は舞い上がることがない。
触ってみると少し硬くなっていた。
「あ」
フェイが変な声を出したのでそっちを見ると、あの黒い物が入った瓶が出てきていた。
―――――そうだった、それも持ってきてたんだった。
「あ。そう言えば」
マントを脱いで、ぬいぐるみを出す。
ずっと忘れていたけど、これも胸元に入れっぱなしだった。
青い鳥を見て、黒い物が瓶の中で飛び跳ねる。
「何か喜んでるみたいだね」
「そうだね」
瓶の隣にぬいぐるみを置くと、黒い物は寄りそうように瓶底にくっついた。
「お菓子、食べようか」
「うん!」
お菓子を食べながら海を見る。
太陽の光をキラキラと反射して、少し離れればとても綺麗だ。
お菓子もお茶もちょうどいい冷たさで美味しい。
「フェイ、連れてきてくれてありがとう。でもどうして連れて来てくれたの?」
「僕の中でそうしろって」
フェイはお菓子を食べるのを止めた。
「キーラがしたいことをさせるようにって」
「したいこと……」
「うん、だってキーラどこかに行きたかったでしょう」
そう首を傾げられて、私は目を見張った。
確かに、逃げたかったんだ。誰もいない所に行きたかった。
「じゃあ、青の町に寄ったのは?」
「うーん、それも、そうするようにって聞こえたんだよ。それに、寝る場所はあの町しかなかったし」
「私は野宿でも良かったよ?」
「僕はいつもそうだからいいけど、キーラは駄目だよ」
「どうして?」
「それは……僕の中でそう言ってたから」
フェイの答えに眉が寄る。
フェイは不思議そうな顔をするばかりだ。
「……そっか」
「うん」
「フェイ、クラウスたちはこれからどうなるのかな?」
「どうなるんだろうね? ラーシュが来たから、きっと良くなるんじゃないかな?」
フェイはまたお菓子を食べ始めた。
「フェイ、帰るときもまた青の町に寄る?」
「どっちでもいいよ。ラーシュはまだあの町に居るみたいだし」
「分かるの?」
「うん。あの町にも小さいけど石があるんだ」
「石?」
「ほら、王都の近くにあるでしょ、丸い石。あれのかけらみたいのがあの町にもあるんだ。ラーシュがそれで僕を呼んでるんだ。青の町からなら、僕に乗って帰るより早く帰れるよ」
私はフェイに乗って帰りたい。まだ、なんとなく顔を合わせたくない。
「キーラは、もっと自分が思ったように動いていいんだと思う」
「フェイ?」
「そうしたほうがいいって、それをするのが“キーラ”なんだって、僕の中でそう言ってるよ?」
フェイがいつもよりずっと大人びた声でそう言った。
――――作者より一言―――――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
明日からの更新は
お正月なので少しお休みします。
次回更新は1月3日になります。
来年もよろしくお願いします。
よいお年をお迎えください。
0
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました
葉月キツネ
ファンタジー
目が覚めると昔やり込んだ乙女ゲーム「白銀の騎士物語」の悪役令嬢フランソワになっていた!
本来ならメインヒロインの引き立て役になるはずの私…だけどせっかくこんな乙女ゲームのキャラになれたのなら思うがままにしないと勿体ないわ!
推しを含めたイケメン近衛騎士で私を囲ってもらって第二の人生楽しみます
普通の勇者とハーレム勇者
リョウタ
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞】に投稿しました。
超イケメン勇者は幼馴染や妹達と一緒に異世界に召喚された、驚くべき程に頭の痛い男である。
だが、この物語の主人公は彼では無く、それに巻き込まれた普通の高校生。
国王や第一王女がイケメン勇者に期待する中、優秀である第二王女、第一王子はだんだん普通の勇者に興味を持っていく。
そんな普通の勇者の周りには、とんでもない奴らが集まって来て彼は過保護過ぎる扱いを受けてしまう…
最終的にイケメン勇者は酷い目にあいますが、基本ほのぼのした物語にしていくつもりです。
【完結】乙女ゲームに転生した転性者(♂→♀)は純潔を守るためバッドエンドを目指す
狸田 真 (たぬきだ まこと)
ファンタジー
男♂だったのに、転生したら転性して性別が女♀になってしまった! しかも、乙女ゲームのヒロインだと!? 男の記憶があるのに、男と恋愛なんて出来るか!! という事で、愛(夜の営み)のない仮面夫婦バッドエンドを目指します!
主人公じゃなくて、勘違いが成長する!? 新感覚勘違いコメディファンタジー!
※現在アルファポリス限定公開作品
※2020/9/15 完結
※シリーズ続編有り!
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる