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本気で出かけるつもりはなかったんだけど、フェイはやる気だ。
鞄がないから枕カバーにお菓子をつめて、フタがしっかりしたお菓子の空瓶にお茶を入れて、毛布と一緒にフェイの髪で縛り上げた。
「キーラ、その腕輪は持っていかないの?」
なるべく見ないようにして、このまま置いていくつもりだったのに、フェイに指摘されてしまった。
赤い石が時々ちかちかと瞬いている。まるで着信アリ、ってお知らせされているようで、自然に眉が寄る。
―――――もしかしてこっそり聞いてるのかも……
そう思うと、さらに腕輪への嫌悪感が増してくる。
青い鳥を箱から出して、その中に腕輪を入れてふたをする。
フェイが口を開けたので、唇に人差し指を立ててみせると、大きく頷いてくれた。
「ちゃんと持って行くよ」
少し大きな声で言って、箱をベッドの布団の中へ突っ込んだ。
フェイが居心地悪そうに肩をすくめる。
後は無言で準備を進めて、お出かけすることを伝える手紙を書けば終わりだ。
いつかケビンへの手紙を書くために貰ったオレンジ色の紙に向かう。
『せっかくなのでルキッシュ観光をしてきます。
すぐ帰ります。観光案内人もいるので、心配しないでください。』
文末に、キーラって書きかけて、やめた。
この部屋にあるんだから分かるだろうし、書きたくなかった。
ティーカップを重石にしてテーブルの上、見やすい場所に配置する。
青い鳥のぬいぐるみは胸元に押し込んで、部屋を見回す。
『キーラ。行こう!』
頭の中にフェイの声が響く。
窓はもう開いていて、フェイは白い犬になって窓辺にフワフワと浮いている。
またがればいいのかと足を上げたけど、思っていたよりもフェイは大きかった。
フェイは体を窓枠より少し下になるよう沈む。
『キーラ、そのまま飛んで』
躊躇いはあったけど、思いきって窓から飛び出すと、すぐにふかふかの毛に受け止められた。
『ちゃんと乗れたね!』
嬉しそうなフェイだけど、私はフェイの背中にうつぶせになった状態だ。
毛足の長いフワフワ絨毯への着地は難しいみたい。
『僕の周りには守りがあるから、あとはのんびりしてていいよ。でも自分から飛んだりしないでね。僕の体に触れてないと駄目だと思うから』
「うん」
窓が閉められたので、素直に頷いて体を起こす。膝を折って座っても、全然違和感がない。
安全と安心もどうやら確保出来たみたいだし、今度は辺りを確認する。
『キーラ、じゃあ少し昇るよ』
フェイがゆっくりと上昇し始めた。
部屋の屋根より少し高くなったところで、お菓子の瓶が見えた。
「あ、待って!」
『なに? どうしたの?』
上昇が止まって、フェイが私を振り返る。
「あそこにお菓子の瓶があるの。あの黒い物が入ってるやつだと思う」
屋根はひっくり返した丸い皿を二枚重ねたようになっていて、その間のところに瓶が置かれていた。
場所を指差すとフェイもそちらを見る。
『……あれがどうしたの?』
「あれ……持っていきたい」
『えっ』
「ちょっと待ってて、とってくるから」
『あ、キーラ! 危ないよ!』
フェイが呼びとめたけど、私は屋根へ飛んだ。
傾斜が少ないのが幸いして、今度は綺麗に屋根に着地する。
『キーラ!』
「大丈夫!」
屋根を昇って瓶を回収して、戻ろうと振り返ったら目の前にフェイがいた。
『飛び降りなくてもこうすればいいんだよ』
「あ……ごめん」
『瓶はこっちに』
耳を器用に使って私から瓶を奪うと、そのまま耳の中に瓶が隠されてしまった。
『はい、乗って』
言いながら、フェイが伏せをする。
よじ登るようにして乗ると、ため息が聞こえた。
『なんだか心配になってきちゃった』
「ごめん。もうしない」
『うん。じゃあ、行こうか』
「……どこに行くの?」
『海』
「海!」
『うん。だってフォルナトルには海、ないんでしょ?」
そうだ、フォルナトルは四方を山で囲まれていて、海がないんだ。
『ルテルよりちょっと遠いけど、途中も綺麗だから』
フェイはそう言って屋根から離れた。
鞄がないから枕カバーにお菓子をつめて、フタがしっかりしたお菓子の空瓶にお茶を入れて、毛布と一緒にフェイの髪で縛り上げた。
「キーラ、その腕輪は持っていかないの?」
なるべく見ないようにして、このまま置いていくつもりだったのに、フェイに指摘されてしまった。
赤い石が時々ちかちかと瞬いている。まるで着信アリ、ってお知らせされているようで、自然に眉が寄る。
―――――もしかしてこっそり聞いてるのかも……
そう思うと、さらに腕輪への嫌悪感が増してくる。
青い鳥を箱から出して、その中に腕輪を入れてふたをする。
フェイが口を開けたので、唇に人差し指を立ててみせると、大きく頷いてくれた。
「ちゃんと持って行くよ」
少し大きな声で言って、箱をベッドの布団の中へ突っ込んだ。
フェイが居心地悪そうに肩をすくめる。
後は無言で準備を進めて、お出かけすることを伝える手紙を書けば終わりだ。
いつかケビンへの手紙を書くために貰ったオレンジ色の紙に向かう。
『せっかくなのでルキッシュ観光をしてきます。
すぐ帰ります。観光案内人もいるので、心配しないでください。』
文末に、キーラって書きかけて、やめた。
この部屋にあるんだから分かるだろうし、書きたくなかった。
ティーカップを重石にしてテーブルの上、見やすい場所に配置する。
青い鳥のぬいぐるみは胸元に押し込んで、部屋を見回す。
『キーラ。行こう!』
頭の中にフェイの声が響く。
窓はもう開いていて、フェイは白い犬になって窓辺にフワフワと浮いている。
またがればいいのかと足を上げたけど、思っていたよりもフェイは大きかった。
フェイは体を窓枠より少し下になるよう沈む。
『キーラ、そのまま飛んで』
躊躇いはあったけど、思いきって窓から飛び出すと、すぐにふかふかの毛に受け止められた。
『ちゃんと乗れたね!』
嬉しそうなフェイだけど、私はフェイの背中にうつぶせになった状態だ。
毛足の長いフワフワ絨毯への着地は難しいみたい。
『僕の周りには守りがあるから、あとはのんびりしてていいよ。でも自分から飛んだりしないでね。僕の体に触れてないと駄目だと思うから』
「うん」
窓が閉められたので、素直に頷いて体を起こす。膝を折って座っても、全然違和感がない。
安全と安心もどうやら確保出来たみたいだし、今度は辺りを確認する。
『キーラ、じゃあ少し昇るよ』
フェイがゆっくりと上昇し始めた。
部屋の屋根より少し高くなったところで、お菓子の瓶が見えた。
「あ、待って!」
『なに? どうしたの?』
上昇が止まって、フェイが私を振り返る。
「あそこにお菓子の瓶があるの。あの黒い物が入ってるやつだと思う」
屋根はひっくり返した丸い皿を二枚重ねたようになっていて、その間のところに瓶が置かれていた。
場所を指差すとフェイもそちらを見る。
『……あれがどうしたの?』
「あれ……持っていきたい」
『えっ』
「ちょっと待ってて、とってくるから」
『あ、キーラ! 危ないよ!』
フェイが呼びとめたけど、私は屋根へ飛んだ。
傾斜が少ないのが幸いして、今度は綺麗に屋根に着地する。
『キーラ!』
「大丈夫!」
屋根を昇って瓶を回収して、戻ろうと振り返ったら目の前にフェイがいた。
『飛び降りなくてもこうすればいいんだよ』
「あ……ごめん」
『瓶はこっちに』
耳を器用に使って私から瓶を奪うと、そのまま耳の中に瓶が隠されてしまった。
『はい、乗って』
言いながら、フェイが伏せをする。
よじ登るようにして乗ると、ため息が聞こえた。
『なんだか心配になってきちゃった』
「ごめん。もうしない」
『うん。じゃあ、行こうか』
「……どこに行くの?」
『海』
「海!」
『うん。だってフォルナトルには海、ないんでしょ?」
そうだ、フォルナトルは四方を山で囲まれていて、海がないんだ。
『ルテルよりちょっと遠いけど、途中も綺麗だから』
フェイはそう言って屋根から離れた。
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