202 / 336
202
しおりを挟む
黒い夜空から、ほんわかと白く光る物がふらふらと降りてくる。
長細いそれの端っこが揺れるたび、そこから何かがキラキラと振りまかれて、辺りを照らしているのだ。
それは夜空と同じくらい綺麗だけど、待っているこっちとしてはただただイライラさせられる。だからと言って、私がどんなにやきもきしても、フェイはのんびり優雅な進行を変えることは無いけれど。
部屋の中を行ったり来たりしては天を仰ぎ、あと数十メートルの辺りで、もう一度叫んだ。
「フェイ!」
『キーラ!』
もう完全に犬の形に見える白い物は、全体をキラキラさせてこっちに顔を向けた。
そしてスピードを上げて……近付くと、窓が勝手に開いて、フェイはいつものように後ろ脚から部屋に入ってくる。
すぐに子供の姿になると、その目はテーブルの上のお菓子に向けられた。
「あ! お菓子がいっぱいある! キーラ! たべていい?」
「フェイ、お菓子より先にやることあるよね?」
「やること?」
「ピーちゃんは、どこ?」
「ピーちゃん……」
フェイが不思議そうに首を傾げる。
「フェイ?」
もしかして忘れたの? ちょっと、やめてよ……
「あ、そうだった」
フェイは私をしばらく見つめてから、思いだしたように、頭をかいた。
白い髪が犬の毛になって、もこもこしたと思ったら、そこから緑色がこぼれ落ちる。
ドスンとあり得ない音がして、緑色のボールはコロコロと転がり、私の足にぶつかって止まった。
「ヒッ」
足に受ける衝撃も大きい。
座り込んでゆっくりとその塊を見ると、それはインコに見えるペイントがしてある完全な球体だ。もう鳥の部分がないくらい。
ずっしりとした珠を、そっと拾い上げ顔を探す。
身動き一つしないからだと、きっちり閉められた瞳。
――――これ、生きてるのかな?
埋まりかけたくちばしを見つけて、そっと耳を寄せると、思ったよりも強い鼻息。
「生きてる。……ピーちゃん! ピーちゃん、起きて。オヤツあるよ?」
「ビィー!!!」
耳元でささやくと、目が開いた。
「あ、起きた」
目を瞬かせて、ピーちゃんが私を……見たのかな?
「キーラ?」
「ピーちゃん、目、覚めた?」
「キーラ! キーラガイル!」
短い足を上下させて、手の中でもぞもぞとうごめく。きっと起き上がろうとしているのだろうけど、一ミリも動いてない。
「キーラ! アイタカッタ! ドウシテ、ピーチャン、オイテイッタ!」
「ごめん。急に移動することになって、ピーちゃんを迎えに行けなかったんだよ」
忘れてたとは、口が裂けても言えない……。
「ピーチャン、サミシカッタ、ケビン、ヒドイ!」
「ひどいって、何かされたの?」
「ケビン、ゴハン、クレナイ」
「えっ?」
それは絶対嘘だ。ピーちゃん、また大きくなったよ?
「……ピーちゃん。それはちょっと信じられないよ? 最後に会った時よりも重いよ」
「……ソレハ……」
「キーラ! お菓子食べていい?」
ピーちゃんの目が泳いで言葉が止まった隙をついて、フェイが横から覗きこむ。
「オカシ!」
「そう! お菓子! ピィも一緒に食べよう!」
「フェイはいいけど、ピーちゃんは駄目!」
「何で!」
「ナンデ! ピーチャン、オナカスイテル」
やだ、ちょっと、ピーちゃんが二人になったよ!
なんて言ってる場合じゃない。
とにかくピーちゃんはお菓子に近づけないようにしないと。
「ピーちゃんはまだ話があるから、駄目」
「ハナシ?」
「大事な話だから、フェイは一人で食べてて。あれはフェイのために用意したんだから」
「わーい。じゃあ、頑張って食べる―」
「ヒドイ、キーラ、ヒドイ!」
フェイは嬉しそうにテーブルへ向かい、ピーちゃんが悲鳴を上げる。
涙目のピーちゃんをぎっちりと捕まえて、聞く。
「ピーちゃん、教えて。ピーちゃんは、お父さんなの?」
「オトウサン?」
ピーちゃんは、不思議そうに目を瞬かせた。
意味があるか分からないけれど、言い方を変えてみる。
「えーっと、ピーちゃんは、ラーシュなの?」
「!?」
言うと同時に、ピーちゃんの目と口が見開かれて、その口から何か出た。
ポワンって、黒い煙みたいなのが溢れ出て、ピーちゃんが軽くなる。
両手一杯だった筈の感触が無くなる。
「ピーちゃん!?」
慌てて掴もうとしたけど、それは下へ向かってすり抜けて行った。
緑色の光が足元に広がって消えると、そこに青い鳥がいた。
「ピーちゃんが鳥になった」
いや、もともと鳥だけど。
ちゃんとした、普通体重の青いセキセイインコになっていた。
長細いそれの端っこが揺れるたび、そこから何かがキラキラと振りまかれて、辺りを照らしているのだ。
それは夜空と同じくらい綺麗だけど、待っているこっちとしてはただただイライラさせられる。だからと言って、私がどんなにやきもきしても、フェイはのんびり優雅な進行を変えることは無いけれど。
部屋の中を行ったり来たりしては天を仰ぎ、あと数十メートルの辺りで、もう一度叫んだ。
「フェイ!」
『キーラ!』
もう完全に犬の形に見える白い物は、全体をキラキラさせてこっちに顔を向けた。
そしてスピードを上げて……近付くと、窓が勝手に開いて、フェイはいつものように後ろ脚から部屋に入ってくる。
すぐに子供の姿になると、その目はテーブルの上のお菓子に向けられた。
「あ! お菓子がいっぱいある! キーラ! たべていい?」
「フェイ、お菓子より先にやることあるよね?」
「やること?」
「ピーちゃんは、どこ?」
「ピーちゃん……」
フェイが不思議そうに首を傾げる。
「フェイ?」
もしかして忘れたの? ちょっと、やめてよ……
「あ、そうだった」
フェイは私をしばらく見つめてから、思いだしたように、頭をかいた。
白い髪が犬の毛になって、もこもこしたと思ったら、そこから緑色がこぼれ落ちる。
ドスンとあり得ない音がして、緑色のボールはコロコロと転がり、私の足にぶつかって止まった。
「ヒッ」
足に受ける衝撃も大きい。
座り込んでゆっくりとその塊を見ると、それはインコに見えるペイントがしてある完全な球体だ。もう鳥の部分がないくらい。
ずっしりとした珠を、そっと拾い上げ顔を探す。
身動き一つしないからだと、きっちり閉められた瞳。
――――これ、生きてるのかな?
埋まりかけたくちばしを見つけて、そっと耳を寄せると、思ったよりも強い鼻息。
「生きてる。……ピーちゃん! ピーちゃん、起きて。オヤツあるよ?」
「ビィー!!!」
耳元でささやくと、目が開いた。
「あ、起きた」
目を瞬かせて、ピーちゃんが私を……見たのかな?
「キーラ?」
「ピーちゃん、目、覚めた?」
「キーラ! キーラガイル!」
短い足を上下させて、手の中でもぞもぞとうごめく。きっと起き上がろうとしているのだろうけど、一ミリも動いてない。
「キーラ! アイタカッタ! ドウシテ、ピーチャン、オイテイッタ!」
「ごめん。急に移動することになって、ピーちゃんを迎えに行けなかったんだよ」
忘れてたとは、口が裂けても言えない……。
「ピーチャン、サミシカッタ、ケビン、ヒドイ!」
「ひどいって、何かされたの?」
「ケビン、ゴハン、クレナイ」
「えっ?」
それは絶対嘘だ。ピーちゃん、また大きくなったよ?
「……ピーちゃん。それはちょっと信じられないよ? 最後に会った時よりも重いよ」
「……ソレハ……」
「キーラ! お菓子食べていい?」
ピーちゃんの目が泳いで言葉が止まった隙をついて、フェイが横から覗きこむ。
「オカシ!」
「そう! お菓子! ピィも一緒に食べよう!」
「フェイはいいけど、ピーちゃんは駄目!」
「何で!」
「ナンデ! ピーチャン、オナカスイテル」
やだ、ちょっと、ピーちゃんが二人になったよ!
なんて言ってる場合じゃない。
とにかくピーちゃんはお菓子に近づけないようにしないと。
「ピーちゃんはまだ話があるから、駄目」
「ハナシ?」
「大事な話だから、フェイは一人で食べてて。あれはフェイのために用意したんだから」
「わーい。じゃあ、頑張って食べる―」
「ヒドイ、キーラ、ヒドイ!」
フェイは嬉しそうにテーブルへ向かい、ピーちゃんが悲鳴を上げる。
涙目のピーちゃんをぎっちりと捕まえて、聞く。
「ピーちゃん、教えて。ピーちゃんは、お父さんなの?」
「オトウサン?」
ピーちゃんは、不思議そうに目を瞬かせた。
意味があるか分からないけれど、言い方を変えてみる。
「えーっと、ピーちゃんは、ラーシュなの?」
「!?」
言うと同時に、ピーちゃんの目と口が見開かれて、その口から何か出た。
ポワンって、黒い煙みたいなのが溢れ出て、ピーちゃんが軽くなる。
両手一杯だった筈の感触が無くなる。
「ピーちゃん!?」
慌てて掴もうとしたけど、それは下へ向かってすり抜けて行った。
緑色の光が足元に広がって消えると、そこに青い鳥がいた。
「ピーちゃんが鳥になった」
いや、もともと鳥だけど。
ちゃんとした、普通体重の青いセキセイインコになっていた。
0
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)
どくりんご
恋愛
公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。
ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?
悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?
王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!
でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!
強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。
HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*)
恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜
ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。
沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。
だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。
モブなのに魔法チート。
転生者なのにモブのド素人。
ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。
異世界転生書いてみたくて書いてみました。
投稿はゆっくりになると思います。
本当のタイトルは
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜
文字数オーバーで少しだけ変えています。
なろう様、ツギクル様にも掲載しています。
転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!
つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが!
第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。
***
黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。
乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています
真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。
なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。
更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!
変態が大変だ! いや大変な変態だ!
お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~!
しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~!
身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。
操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。
見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!
すな子
恋愛
ステラフィッサ王国公爵家令嬢ルクレツィア・ガラッシアが、前世の記憶を思い出したのは5歳のとき。
現代ニホンの枯れ果てたアラサーOLから、異世界の高位貴族の令嬢として天使の容貌を持って生まれ変わった自分は、昨今流行りの(?)「乙女ゲーム」の「悪役令嬢」に「転生」したのだと確信したものの、前世であれほどプレイした乙女ゲームのどんな設定にも、今の自分もその環境も、思い当たるものがなにひとつない!
それでもいつか訪れるはずの「破滅」を「回避」するために、前世の記憶を総動員、乙女ゲームや転生悪役令嬢がざまぁする物語からあらゆる事態を想定し、今世は幸せに生きようと奮闘するお話。
───エンディミオン様、あなたいったい、どこのどなたなんですの?
********
できるだけストレスフリーに読めるようご都合展開を陽気に突き進んでおりますので予めご了承くださいませ。
また、【閑話】には死ネタが含まれますので、苦手な方はご注意ください。
☆「小説家になろう」様にも常羽名義で投稿しております。
異世界トリップだって楽じゃない!
yyyNo.1
ファンタジー
「いたぞ!異世界人だ!捕まえろ!」
誰よ?異世界行ったらチート貰えたって言った奴。誰よ?異世界でスキル使って楽にスローライフするって言った奴。ハーレムとか論外だから。私と変われ!そんな事私の前で言う奴がいたら百回殴らせろ。
言葉が通じない、文化も価値観すら違う世界に予告も無しに連れてこられて、いきなり追いかけられてみなさいよ。ただの女子高生にスマホ無しで生きていける訳ないじゃん!
警戒心MAX女子のひねくれ異世界生活が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる