このやってられない世界で

みなせ

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 昨日の今日では流石にフェイは帰ってこない。
 私は早速エマさんにお願いして、お父さんの所へ連れて行ってもらうことにした。
 ……靴も持ってこないといけないし。

 そして、迎えに来たのはカルロ。

「よっ、久しぶり」

 って、すごく軽い感じで現れて、エマさんにまっすぐ向かって行った。
 そうですか。エマさん狙いですかと二人を見守っていると、エマさんは

「姫様に挨拶しないで!」

 と、カルロにビシバシと攻撃して、部屋から追い出してしまった。
 慌てて追いかけると、扉の横で肩を落としていた。

「せっかく会えたのに残念」


 いや、それは……、君が悪いと思う。

「エマさんと仲がいいんですね」

 渡り廊下を歩きながら、言ってみる。

「そう見える? これでも幼馴染なんだよね」
「幼馴染」
「家が近くて、生まれた時から知ってる、強くて、かわいいだろ?」

 強いかどうかは分からないけど、

「うん、かわいい」
「だろ! でもエマはアーサー様が好きなんだよ」

 えーっと、その情報はいらない。

「……まぁ、がんばって?」
「はっ」

 なんて言ってると、小部屋についた。
 今日は踵のない靴だから歩くのも早い。

「じゃあ、飛ぶ」

 カルロがパンと手を叩くと、景色が変わった。






 で、移動先は間違いなく王の間に続くあの部屋だった。
 だけど、すでに人がいて、なんて言うか剣呑な雰囲気。
 数は三人。動きやすそうな服を着て、手には武器を持っている。
 カルロが私の前に立つ。

「イゴル。何故ここにいる」
「姫君を、お待ちしておりました」

 真ん中の男が慇懃無礼にそう言った。
 誰だっけ? どっかで見たことがあるような。

「誰?」
「分からないか? あの時俺の隣にいた奴」
「あの時?」
「顔合わせの時だ」

 顔合わせってグループ面接の時?
 あんまり覚えてないけど、横柄な奴がいたな、そう言えば。

「手荒なまねはしたくありません。大人しく我々の言うことを聞いてください」

 イゴルの隣の男が一歩前に出た。

「俺があいつらを引きつけている間に、王の間へ走れ」
「移動できないの?」
「魔法が封じられてる」
「えっ! だって……」
「大丈夫だ」
「でも、武器は?」
「俺は……少しは強い」

 安心できないよ!

「ちょうど良く、扉は後ろだ。せーので走れ」
「うん。分かった」

 じりじりと三人は私たちを囲むように近付いてくる。
 カルロと私もそれに合わせて後ずさる。

「いくぞ、せーの!」

 カルロは前へ、私は踵を返して扉へ走る。
 相手も予想していたんだろう。
 二人はカルロへ、一人が私を追いかけてきた。

「待て!」
「きゃぁ!」

 そんなに遅くなかったと思うのに、あっという間に追いつかれて髪を引っ張られた。
 三つ編みを折り込んでたから短かったのに、それを掴まれて引き倒される。

「動くな!」

 起き上がろうと上半身を起こしたところで、喉元に剣を突き付けられた。
 剣を持つ男を見上げる。

「イゴル」
「そのまま大人しくしていろ」

 蔑むような目で私を見下ろして、イゴルはカルロの方へ顔を向けた。
 カルロは男の一人と睨み合っている。
 もう一人はどうやらもう床に伸びているようだ。

「カルロ、お前もだ」

 イゴルが言うと、カルロは構えていた手を降ろし、残った男によって縛り上げられた。

「さぁ、姫君、一緒に来て頂きましょうか?」

 嫌がらせのように丁寧な言葉。

「嫌」
「あの男がどうなっても?」

 ニヤニヤと下卑た笑い顔で、イゴルがカルロを顎で示す。
 何が目的か分からないけれど、こんなことをするなんて馬鹿だ。
 扉までは、すぐだ。
 隙があれば、行ける。

 私は、イゴルを思い切り睨みつけて、

「やればいい」

 って言った。
 イゴルはひるんだ。
 瞬間、私は立ち上がって走る。

 カルロには申し訳ないけど、彼らはカルロを殺したりしないだろう。
 多分、私が捕まる方が問題だ。

「待て!」

 イゴルが叫んで追いかけてきた。
 扉まで、後数歩!

「この女!」
「うっ!」
「キーラ様!」

 イゴルと、私と、カルロの声が重なる。
 思い切り、横から蹴飛ばされた。
 壁まで滑って止まる。

「ゲホッ、ゲホッ」

 蹴りが入ったわき腹を押さえて、むせる。

「下手に出れば、つけ上がりやがって。だからお前たちは嫌いなんだ」

 イゴルがそう言って近付いてくる。
 扉まで行ければいいのだ。後少しなのに……
 体の痛みをこらえて、移動する。

「まだ逃げるか?」

 イゴルが目の前に来て、足を持ち上げた。
 蹴られる!
 目をつぶって頭を両手でかばい身を縮める。
 足を振りおろす音が聞こえて、失敗したって思った途端、頭に誰かの顔が浮かんだ。



――――――カーク!



 心で、叫んだ。
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