このやってられない世界で

みなせ

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 お父さんのほっぺたから手を離した状態で、私はしばし固まっていた。
 脳が考えることを拒否している。



 だって、だって……。



 目を閉じると、最後の映像が浮かび上がる。

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 頭を抱えて、床に倒れ込む。



――――――ちょっと待て、ちょっと待って、私!



「落ち着くのよ!」

 叫んで、体を起こす。

「整理しよう。整理」

 最後の方の映像で、分かることは、どう考えても、

「お父さんが、ピーちゃんってことよね」

 ピーちゃんそのものなのか、ピーちゃんにくっついているのか分からないけれど。
 どちらにしても、カークとのあれやこれやを……



……



……



「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 仰向けに転がって、足をばたつかせる。
 辛い、心が辛い。
 恥ずかしいし、切ないし、記憶を消したい!
 他人に見られるのならまだしも――――良くないけど、親に――――――を見られるなんて!

「駄目だ、駄目だ、一度そのことは忘れよう」


 いや、忘れられない。忘れられるわけがない。


 どうしたらいい?
 どうすればいい?

「そうだ、このままお父さんには眠っていてもらおう」


 うん。それが――――――――良くない。


「良くない。目を覚ましてもらわないと、困る。困るけど、目を覚ましてもらっても困る……とにかく、やっぱり落ち着こう」

 深呼吸して、息を止める。そして、ゆっくりと空気を吐きだす。

 お父さんは間違いなくピーちゃんの中にいる。

 なら、お父さんはどうしてピーちゃんになった?

 最後の場面はデリックがキーラをビンタした、あの時だ。
 ……あの時、私には何が見えてた? ―――私には何も見えてなかった。
 キーラには、割り込んだお父さんが見えていた? ―――それは、覚えていない。

 お父さんはデリックの手にまとわりついていたあの黒い煙に向かって行った。
 あれは何だったんだろう?

「カークは何も言わなかった……」

 ってことは、お父さんのことも、あの黒い煙も見えてなかったって事だよね。
 でもお父さんには見えていて、それをなんとかした……ってことだろうか……

「そして、どうにかなって、お父さんはピーちゃんになった?」

 最初からピーちゃんだった?
 きっと違う。
 ピーちゃんだったら、皆が見ている筈だ。

 アーサーだって気付くはずだし、ピーちゃんを見た時もう少し違った反応をしただろう。
 初めてピーちゃんを見た時、アーサーはなんて言っていたっけ。

「たしか、契約は済んだとか言っていたような」

 どう言うことだろう?
 デリックもカークも、ピーちゃんを見て使い魔かって聞いてきた。
 アーサーもそう思っていたんだろう。もし気がついていたら、ピーちゃんを連れてこいって言ったはずだ。
 気がついたのは、違う。知っていたのは……陛下だけ。

「だからピーちゃんを連れて行けと陛下は言ったんだ……それならそうと、早く言ってくれればいいのに」

 ゴロンと転がってうつ伏せになる。
 冷たい床が気持ちいい。

「ピーちゃんは、自分がお父さんだって分かっているのかな?」

 ピーちゃんの言動を思い出してみても、食い意地の張ったただの鳥じゃない事くらいしか印象がない。
 でも、私がキーラになってすぐ私の前に現れた。

 お父さんは、離れていてもお母様を見守り続けていた。
 アーサーにもマリーにも、お母様にも知られない方法で。
 それはお母様が覚醒した後も変わらなかった。
 アーサーたちが違う人のようだったと言うくらいだから、きっとお父さんだって気がついていただろう。

 私は覚えていないし、思い出せないけれど、キーラに接触もしていた。
 お父さんはどんな姿でキーラに会っていたのだろう?
 キーラはお父さんをお父さんと認識していたのだろうか?

 私はお父さんをお父さんだと思っているけど、お父さんは、私―――――覚醒した私をキーラだと思うのだろうか?



 お父さんを目覚めさせるのが……少し、怖い。


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