185 / 336
185
しおりを挟む
アーサーが手を打つと、光と共に転移が始まる。
光が収まればそこはもう違う場所だ。
柔らかい青白い光に満ちたそこは、かなり広い空間だった。どのくらいかって聞かれれば野球場よりも数倍大きい、と思う。
大聖堂よりももっと澄んだ、冷たい空気が肌を刺す。
ここももともとは岩山だったのだろうか。
天井はどこまでも高く、壁は切り出されたような跡がそのまま残されている。なのに床はくぼみひとつ見当たらないほど滑らかで艶やかだ。
窓や調度類は無く、人工物は前方の壁に青いアーチ形の扉が一つ見えるだけだ。
「こちらへ」
と、アーサーが扉の方へ向かって歩き出した。
バルド達も動いたので、私もその後を追いかける。
小さいと思っていた扉は近付くとかなり大きく、私の背の三倍くらいはありそうだった。
「ここから先は王の間になります。この中にラーシュ様はいらっしゃいます」
アーサーがそう扉を指し示す。
どうやら開けてくれる気はないらしい。すごく重そうだよ? この扉。
「……これ、私が開けるの?」
「開ける、と言うより、通る、だけですので」
意味が分からなくて首を傾げると、アーサーは左の掌を扉に押し付けた。
「王に認められたものは、こうすると通ることが出来ます。私は、認められていないので、このように触れても通ることはできません。それは歴代の王の時から変わりありません」
「バルドもゼストさんも通れないの? 」
振り返って二人に聞くと、二人も扉に手を押しあてて見せた。
「私たちも通れません。ラーシュ様はあの日お休みになると言って部屋に入り扉が閉められました。それから一人もここを通ることは出来ていません」
「一人もって、お父さんは眠っているんだよね? 誰が面倒を見ているの?」
「王の間は、王の魔法で動いているんです。仕事以外、誰も王のお世話をすることはありません」
私の質問に、ゼストさんが答えてくれた。
「……じゃあ、眠ってるって、誰が確認したの?」
「……」
言い方が悪かったかな。三人の目が怖い。けど、大事なことだよね。
「だって、誰も見てないんでしょ?」
「扉を通して侍医が毎日確認しています」
言ったのはアーサーだ。ついでにため息を漏らす。
「それに、扉が現れるのは王が眠る時だけです。もし王が亡くなれば……扉も壁も無くなります」
「だから、眠っている、ってこと……」
「そうです」
強く頷かれる。
「どうぞ、手を」
今度は三人が同時に扉を指し示した。
私、お父さんに会ったことも無いのに、いつも一緒にいた人たちも通れない扉を通れるのかな?
三人の顔を見比べてから、恐る恐る手を伸ばし指先を扉につける。
「そのまま押してみてください」
「うー」
苛立ったようなアーサーの声に、そのまま扉を押すと、指先が扉に入った。
にゅるんって冷たい感触に鳥肌が立つ。
「ひぃぃぃぃぃい……気持ち悪いよぉ」
「入れそうですね。そのまま進んでください」
「えー、嫌だ……すごく嫌な感じだよ」
あまりの気持ち悪さに手を戻そうとしたら、
「大丈夫です。一気に行けば一瞬です。さぁ、行きましょう」
って、アーサーが私の背を思い切り押した。
光が収まればそこはもう違う場所だ。
柔らかい青白い光に満ちたそこは、かなり広い空間だった。どのくらいかって聞かれれば野球場よりも数倍大きい、と思う。
大聖堂よりももっと澄んだ、冷たい空気が肌を刺す。
ここももともとは岩山だったのだろうか。
天井はどこまでも高く、壁は切り出されたような跡がそのまま残されている。なのに床はくぼみひとつ見当たらないほど滑らかで艶やかだ。
窓や調度類は無く、人工物は前方の壁に青いアーチ形の扉が一つ見えるだけだ。
「こちらへ」
と、アーサーが扉の方へ向かって歩き出した。
バルド達も動いたので、私もその後を追いかける。
小さいと思っていた扉は近付くとかなり大きく、私の背の三倍くらいはありそうだった。
「ここから先は王の間になります。この中にラーシュ様はいらっしゃいます」
アーサーがそう扉を指し示す。
どうやら開けてくれる気はないらしい。すごく重そうだよ? この扉。
「……これ、私が開けるの?」
「開ける、と言うより、通る、だけですので」
意味が分からなくて首を傾げると、アーサーは左の掌を扉に押し付けた。
「王に認められたものは、こうすると通ることが出来ます。私は、認められていないので、このように触れても通ることはできません。それは歴代の王の時から変わりありません」
「バルドもゼストさんも通れないの? 」
振り返って二人に聞くと、二人も扉に手を押しあてて見せた。
「私たちも通れません。ラーシュ様はあの日お休みになると言って部屋に入り扉が閉められました。それから一人もここを通ることは出来ていません」
「一人もって、お父さんは眠っているんだよね? 誰が面倒を見ているの?」
「王の間は、王の魔法で動いているんです。仕事以外、誰も王のお世話をすることはありません」
私の質問に、ゼストさんが答えてくれた。
「……じゃあ、眠ってるって、誰が確認したの?」
「……」
言い方が悪かったかな。三人の目が怖い。けど、大事なことだよね。
「だって、誰も見てないんでしょ?」
「扉を通して侍医が毎日確認しています」
言ったのはアーサーだ。ついでにため息を漏らす。
「それに、扉が現れるのは王が眠る時だけです。もし王が亡くなれば……扉も壁も無くなります」
「だから、眠っている、ってこと……」
「そうです」
強く頷かれる。
「どうぞ、手を」
今度は三人が同時に扉を指し示した。
私、お父さんに会ったことも無いのに、いつも一緒にいた人たちも通れない扉を通れるのかな?
三人の顔を見比べてから、恐る恐る手を伸ばし指先を扉につける。
「そのまま押してみてください」
「うー」
苛立ったようなアーサーの声に、そのまま扉を押すと、指先が扉に入った。
にゅるんって冷たい感触に鳥肌が立つ。
「ひぃぃぃぃぃい……気持ち悪いよぉ」
「入れそうですね。そのまま進んでください」
「えー、嫌だ……すごく嫌な感じだよ」
あまりの気持ち悪さに手を戻そうとしたら、
「大丈夫です。一気に行けば一瞬です。さぁ、行きましょう」
って、アーサーが私の背を思い切り押した。
0
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました
葉月キツネ
ファンタジー
目が覚めると昔やり込んだ乙女ゲーム「白銀の騎士物語」の悪役令嬢フランソワになっていた!
本来ならメインヒロインの引き立て役になるはずの私…だけどせっかくこんな乙女ゲームのキャラになれたのなら思うがままにしないと勿体ないわ!
推しを含めたイケメン近衛騎士で私を囲ってもらって第二の人生楽しみます
【完結】乙女ゲームに転生した転性者(♂→♀)は純潔を守るためバッドエンドを目指す
狸田 真 (たぬきだ まこと)
ファンタジー
男♂だったのに、転生したら転性して性別が女♀になってしまった! しかも、乙女ゲームのヒロインだと!? 男の記憶があるのに、男と恋愛なんて出来るか!! という事で、愛(夜の営み)のない仮面夫婦バッドエンドを目指します!
主人公じゃなくて、勘違いが成長する!? 新感覚勘違いコメディファンタジー!
※現在アルファポリス限定公開作品
※2020/9/15 完結
※シリーズ続編有り!
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています
真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。
なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。
更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!
変態が大変だ! いや大変な変態だ!
お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~!
しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~!
身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。
操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる