このやってられない世界で

みなせ

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 アーサーが手を打つと、光と共に転移が始まる。
 光が収まればそこはもう違う場所だ。

 柔らかい青白い光に満ちたそこは、かなり広い空間だった。どのくらいかって聞かれれば野球場よりも数倍大きい、と思う。
 大聖堂よりももっと澄んだ、冷たい空気が肌を刺す。
 ここももともとは岩山だったのだろうか。
 天井はどこまでも高く、壁は切り出されたような跡がそのまま残されている。なのに床はくぼみひとつ見当たらないほど滑らかで艶やかだ。
 窓や調度類は無く、人工物は前方の壁に青いアーチ形の扉が一つ見えるだけだ。

「こちらへ」

 と、アーサーが扉の方へ向かって歩き出した。
 バルド達も動いたので、私もその後を追いかける。
 小さいと思っていた扉は近付くとかなり大きく、私の背の三倍くらいはありそうだった。

「ここから先は王の間になります。この中にラーシュ様はいらっしゃいます」

 アーサーがそう扉を指し示す。
 どうやら開けてくれる気はないらしい。すごく重そうだよ? この扉。

「……これ、私が開けるの?」
「開ける、と言うより、通る、だけですので」

 意味が分からなくて首を傾げると、アーサーは左の掌を扉に押し付けた。

「王に認められたものは、こうすると通ることが出来ます。私は、認められていないので、このように触れても通ることはできません。それは歴代の王の時から変わりありません」
「バルドもゼストさんも通れないの? 」

 振り返って二人に聞くと、二人も扉に手を押しあてて見せた。

「私たちも通れません。ラーシュ様はあの日お休みになると言って部屋に入り扉が閉められました。それから一人もここを通ることは出来ていません」
「一人もって、お父さんは眠っているんだよね? 誰が面倒を見ているの?」
「王の間は、王の魔法で動いているんです。仕事以外、誰も王のお世話をすることはありません」

 私の質問に、ゼストさんが答えてくれた。

「……じゃあ、眠ってるって、誰が確認したの?」
「……」

 言い方が悪かったかな。三人の目が怖い。けど、大事なことだよね。

「だって、誰も見てないんでしょ?」
「扉を通して侍医が毎日確認しています」

 言ったのはアーサーだ。ついでにため息を漏らす。

「それに、扉が現れるのは王が眠る時だけです。もし王が亡くなれば……扉も壁も無くなります」
「だから、眠っている、ってこと……」
「そうです」

 強く頷かれる。

「どうぞ、手を」

 今度は三人が同時に扉を指し示した。
 私、お父さんに会ったことも無いのに、いつも一緒にいた人たちも通れない扉を通れるのかな?
 三人の顔を見比べてから、恐る恐る手を伸ばし指先を扉につける。

「そのまま押してみてください」
「うー」

 苛立ったようなアーサーの声に、そのまま扉を押すと、指先が扉に入った。
 にゅるんって冷たい感触に鳥肌が立つ。

「ひぃぃぃぃぃい……気持ち悪いよぉ」
「入れそうですね。そのまま進んでください」
「えー、嫌だ……すごく嫌な感じだよ」

 あまりの気持ち悪さに手を戻そうとしたら、

「大丈夫です。一気に行けば一瞬です。さぁ、行きましょう」

 って、アーサーが私の背を思い切り押した。
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