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円形の公園の真ん中、真っ白な石畳にオレンジ色の魔法陣。その中心に私はいた。
斜め前にアーサーがいて、魔法陣の外側を囲むように民族衣装を着た人たちが、私に背を向けて立っている。
こちらを向いているのはバルドとゼストだ。
私はゆっくりと辺りを見回す。
見えるのは人、人、人。
岩壁にも、道路にも、溢れんばかりに人がいて、昨日見た街と同じ場所だとは思えないくらい。
そして、歓声、悲鳴、ありとあらゆる声であふれていた。空間が閉じられているせいなのか、空気が、大地が揺れている。
小さく深呼吸すると、足元の魔法陣がオレンジ色の光を失って行く。
それと同時に、人の声が消えていく。
私の近くから、外側に向かって。
私はもう一度辺りを見回した。
さっきまでなかった、視線を感じる。そこにいる全部の人の目が、自分を見ているのが分かる。
―――――視線が痛い。
学園で受けたそれより数倍、いや数万倍、痛い。
あの時はカークがいた。でも今は一人だ。
「不安そうな顔をするな」
いつの間にかバルドが右横に立っていた。
無表情だが、声はかなり低く苛立っているのが分かる。
「大丈夫ですよ。まっすぐ前を見て歩いてください」
左側にゼストさん。こっちは笑顔だ。
私たちを挟むように、民族衣装を着た人たちが足並みをそろえて並ぶ。この人たちが護衛なんだろう。
二人が同時に手を出してきたので手を乗せると、アーサーが振り返り、私に向かってゆったりと頭を下げた。
「では、参りましょう」
そう言って、アーサーはカツンと靴を鳴らし前を向く。
それを合図にしたように、静まっていた人たちの拍手と歓声が爆発した。
アーサーを先頭に、公園の門を抜けるとソースの香りが漂ってきた。
まっすぐ見てと言われたけれど、なんとなく気になってそっちを見ると、屋台みたいなものが幾つかならんでいた。
クレープみたいな食べ物に、チョコバナナ、綿菓子もあったし、どう見てもたこ焼き、焼きそば……もあった。
神聖なのか、ただのお祭りなのかと思ったら、少し気が楽になって、握りしめてしまっていた手から力が抜ける。
後は何も考えずに昨日歩いた道を進むと、大聖堂とガラス門が見えてきた。
少しずつ沿道の人が少なくなっていき、門に着くころには声もなくなった。
護衛の人たちを門の外に残し、アーサーと私たち三人だけで門をくぐる。
大聖堂は一番大きな扉が開かれており、そこからまっすぐステンドグラスが見えた。
入口ぎりぎりで二人が手を離す。
「キーラ様、ここからはお一人で。昨日言った通りにお願いします」
アーサーが深く頭を下げて、私の後ろへと消える。
私は音をたてないように深呼吸して、足を踏み出す。
大聖堂の中、椅子はすべて埋まっていた。
皆座ったまま頭を下げているから、多少変な歩き方でも問題なさそうだ。
とりあえず転ばないように注意しながら、舞台を目指した。
舞台の下では二人の女の人が待っていて、私が舞台に上がるのを手伝ってくれた。
階段を一人で登るのは大変だったし、長いドレスの裾が引っ掛かりそうだったから助かった。
「こちらにお立ちください」
と、演台の脇に立たされた。
演台の上には、透明の丸い玉。その向こうには高い帽子をかぶった人いて、穏やかな瞳でこちらを見ていた。
神官さんとかだろうか?
「キーラ様、私は大聖堂とこの儀式を担当する、ヴィアーロと申します。これからキーラ様が後継者候補に正しく選ばれたかを審査させていただきます。こちらの水晶に触れていただくだけですから、お身体に影響はありません。そして、今ここにいらっしゃる方たちは七王家の方たちで、キーラ様が正しい後継者候補であることの証人になります」
七王家、結構いるんだ。こんなにいるのに、後継者候補がいないなんて不思議だ。
聖堂に並ぶ人たちを見渡して、そんなことを思う。
「よろしいですか? では、始めましょう……皆さま顔をおあげください」
ヴィアーロさんがそう言うと、座っている人たちが一斉に顔を上げた。
全員の視線が自分に集まるのを感じる。
声は無い。だけど、こちらに来てから何度も見る表情が並んでいて、とても怖い。
「この度後継者候補となられたキーラ様です。キーラ様は現王ラーシュ様のご息女にあられます。これよりその証明をしていただきますので、皆さまにおかれましては証人たるべくご覧いただくようお願い申し上げます。では、キーラ様こちらに手を」
水晶玉を示されたので、私は言われた通り手を乗せた。
魔力がとられるとか、私が感じるようなことは何も無く、水晶玉は強いオレンジ色の光を放った。
光は聖堂内を覆い尽くし、やがて消えた。
「これはまた、すばらしくきれいな力ですな」
「間違いなく、後継者候補の光」
「現王より強い力をお持ちだ」
誰ともなく声があがり、ヴィアーロさんがそれに対し頷く。
「皆さま、キーラ様は後継者候補としてお認めいただけますか?」
「異議はない」
「構わぬ」
「ありがとうございます。これで証明は終わりました。キーラ様はこれよりラーシュ様の代行者として皆さまの前に立たれます。よろしくお願いいたします」
ヴィアーロさんはそう言って頭を下げた。
私も下げるのかなと思っていたら、さっきの女の人が近づいてきて、
「キーラ様はそのままで大丈夫ですよ」
と耳打ちされた。
なんか良く分からないけど、とりあえず一つ目の儀式とやらは終わったらしい。
斜め前にアーサーがいて、魔法陣の外側を囲むように民族衣装を着た人たちが、私に背を向けて立っている。
こちらを向いているのはバルドとゼストだ。
私はゆっくりと辺りを見回す。
見えるのは人、人、人。
岩壁にも、道路にも、溢れんばかりに人がいて、昨日見た街と同じ場所だとは思えないくらい。
そして、歓声、悲鳴、ありとあらゆる声であふれていた。空間が閉じられているせいなのか、空気が、大地が揺れている。
小さく深呼吸すると、足元の魔法陣がオレンジ色の光を失って行く。
それと同時に、人の声が消えていく。
私の近くから、外側に向かって。
私はもう一度辺りを見回した。
さっきまでなかった、視線を感じる。そこにいる全部の人の目が、自分を見ているのが分かる。
―――――視線が痛い。
学園で受けたそれより数倍、いや数万倍、痛い。
あの時はカークがいた。でも今は一人だ。
「不安そうな顔をするな」
いつの間にかバルドが右横に立っていた。
無表情だが、声はかなり低く苛立っているのが分かる。
「大丈夫ですよ。まっすぐ前を見て歩いてください」
左側にゼストさん。こっちは笑顔だ。
私たちを挟むように、民族衣装を着た人たちが足並みをそろえて並ぶ。この人たちが護衛なんだろう。
二人が同時に手を出してきたので手を乗せると、アーサーが振り返り、私に向かってゆったりと頭を下げた。
「では、参りましょう」
そう言って、アーサーはカツンと靴を鳴らし前を向く。
それを合図にしたように、静まっていた人たちの拍手と歓声が爆発した。
アーサーを先頭に、公園の門を抜けるとソースの香りが漂ってきた。
まっすぐ見てと言われたけれど、なんとなく気になってそっちを見ると、屋台みたいなものが幾つかならんでいた。
クレープみたいな食べ物に、チョコバナナ、綿菓子もあったし、どう見てもたこ焼き、焼きそば……もあった。
神聖なのか、ただのお祭りなのかと思ったら、少し気が楽になって、握りしめてしまっていた手から力が抜ける。
後は何も考えずに昨日歩いた道を進むと、大聖堂とガラス門が見えてきた。
少しずつ沿道の人が少なくなっていき、門に着くころには声もなくなった。
護衛の人たちを門の外に残し、アーサーと私たち三人だけで門をくぐる。
大聖堂は一番大きな扉が開かれており、そこからまっすぐステンドグラスが見えた。
入口ぎりぎりで二人が手を離す。
「キーラ様、ここからはお一人で。昨日言った通りにお願いします」
アーサーが深く頭を下げて、私の後ろへと消える。
私は音をたてないように深呼吸して、足を踏み出す。
大聖堂の中、椅子はすべて埋まっていた。
皆座ったまま頭を下げているから、多少変な歩き方でも問題なさそうだ。
とりあえず転ばないように注意しながら、舞台を目指した。
舞台の下では二人の女の人が待っていて、私が舞台に上がるのを手伝ってくれた。
階段を一人で登るのは大変だったし、長いドレスの裾が引っ掛かりそうだったから助かった。
「こちらにお立ちください」
と、演台の脇に立たされた。
演台の上には、透明の丸い玉。その向こうには高い帽子をかぶった人いて、穏やかな瞳でこちらを見ていた。
神官さんとかだろうか?
「キーラ様、私は大聖堂とこの儀式を担当する、ヴィアーロと申します。これからキーラ様が後継者候補に正しく選ばれたかを審査させていただきます。こちらの水晶に触れていただくだけですから、お身体に影響はありません。そして、今ここにいらっしゃる方たちは七王家の方たちで、キーラ様が正しい後継者候補であることの証人になります」
七王家、結構いるんだ。こんなにいるのに、後継者候補がいないなんて不思議だ。
聖堂に並ぶ人たちを見渡して、そんなことを思う。
「よろしいですか? では、始めましょう……皆さま顔をおあげください」
ヴィアーロさんがそう言うと、座っている人たちが一斉に顔を上げた。
全員の視線が自分に集まるのを感じる。
声は無い。だけど、こちらに来てから何度も見る表情が並んでいて、とても怖い。
「この度後継者候補となられたキーラ様です。キーラ様は現王ラーシュ様のご息女にあられます。これよりその証明をしていただきますので、皆さまにおかれましては証人たるべくご覧いただくようお願い申し上げます。では、キーラ様こちらに手を」
水晶玉を示されたので、私は言われた通り手を乗せた。
魔力がとられるとか、私が感じるようなことは何も無く、水晶玉は強いオレンジ色の光を放った。
光は聖堂内を覆い尽くし、やがて消えた。
「これはまた、すばらしくきれいな力ですな」
「間違いなく、後継者候補の光」
「現王より強い力をお持ちだ」
誰ともなく声があがり、ヴィアーロさんがそれに対し頷く。
「皆さま、キーラ様は後継者候補としてお認めいただけますか?」
「異議はない」
「構わぬ」
「ありがとうございます。これで証明は終わりました。キーラ様はこれよりラーシュ様の代行者として皆さまの前に立たれます。よろしくお願いいたします」
ヴィアーロさんはそう言って頭を下げた。
私も下げるのかなと思っていたら、さっきの女の人が近づいてきて、
「キーラ様はそのままで大丈夫ですよ」
と耳打ちされた。
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