このやってられない世界で

みなせ

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 お披露目まであと一日。
 今日は朝から、大張り切りでノリノリなエマさんたちの着せ替え人形になっている。
 明日着る服とか、小物のサイズが合っているか確かめるんだって言ってるけど、明らかに遊んでる。楽しんでる?
 とっかえひっかえ服やら小物が私の上を行ったり来たり。
 私にはみんな同じに見えるんだけど、彼女たちには何かが違うようだ。

 午後になると今度は予行練習とか言って、初めて部屋から出た。
 部屋から伸びた渡り廊下の一本道は、思ったより距離が長く、上下左右が透明な素材でできていて、今更だけど途中で落ちるんじゃないかと心配だった。
 恐る恐る進んだ廊下は垂直な絶壁へと入り込み、小さな部屋へとつながっていた。
 部屋には何も無くただ青い円、移動の魔法陣が一つ。

「ここからの移動はすべて魔法陣で行います」

 アーサーがそう言って、私の手をとる。
 いつかのように光が強くなり、光が無くなると大きな教会のような場所に出た。

「大聖堂です」

 きょろきょろとあたりを見回す。
 壁は白と水色の装飾が施されていて、天井はすごく高い。空に向かって細くなって行ってその先が見えないほどだ。
 背後には両開きの重厚な扉があり、目の前には木製の長椅子に挟まれた、まっすぐな通路が伸びている。

「明日はここを歩いていただきます」

 アーサーに引かれてその道を歩く。
 正面には大きなステンドグラスとステージ。

「ここに階段を用意しますから、そのまま上がってください。後継者の証明をしてもらいます。特に話すこともありませんから、壇上にいる人の指示に従ってください……何か質問はありますか?」

 ステージの前まで来て、そう聞かれた。
 首を振る。

「……どうしました。大人しいですね?」
「なんだか、実感がわかない」

 明日、何をするって? そんな感じだ。

「そうですね。何もかもが急ですからね……担当者でも紹介すれば少しは現実味が出るんでしょう。ですが、フェリオーノ様たちが当日まで隠しておいた方がいいと言うので……」

 サプライズはいらないと思うんだけど。

「……フェリさんたち、やっぱり変」
「私もそう思います」
「アーサー、外見てみたい」

 扉の方を見てそう言ってみる。

「そうですね。行ってみますか?」
「うん」
「じゃあ、これ被ってください」

 アーサーが手を叩いてフード付きのマントを出した。
 頭から足元まですっぽり隠れる、茶色のマント。

「ねぇ、これかえって怪しくない?」
「……大丈夫ですよ」

 いや、今間があったよね。怪しいんじゃないの。
 フードだけでも外そうとしたら、アーサーが思い切り引っ張った。

「ちゃんと隠してください、特に髪!」
「う、うん」

 分かったけど、前が見えない。
 またアーサーに手を引かれて通路を戻り、大きな扉の脇から外へ出た。
 大聖堂の門前と言うにふさわしい円形の前庭は、緑というものが一切なかった。
 つやつやした石畳、青い石でできた噴水。それを囲む細かい彫刻が入った塀。
 そして、聖堂の中と同じような人工的な光。

「外、じゃない?」

 思わず見上げた空は暗く、その途中には岩壁が見える。

「ルキッシュの王都は、岩山の中にあります。ここは比較的大きな洞窟を利用した中心街です。少し歩きましょう」

 ガラスのように光る門を抜けても風景はそんなに変わらない。
 少し広い道路に沿って進むと、木造のきれいな家や、お店らしいものも見えてきた。
 人の姿もちらほらある。

「ここから出てまっすぐ行くと公園があります。明日はその中心に転移し、そこからここまで歩きます。両側に窓が見えますか?」

 アーサーがそう上の方を指差したので、目をやると岩壁にたくさんの穴があいているのが見えた。

「あの窓のあたりにそれぞれ通路があって、その向こうに居住区があります。明日はこの道も人であふれるでしょうけど、あの窓からも見られますから、気を抜かないでください」
「そんなに人が集まりそうなの?」
「私はラーシュ様の式典しか見たことがありませんが、お祭りでしたよ。なので、多分そうなるでしょう。フェリオーノ様もそう言っていました」
「そう、なんだ」

 あれ、もしかしてまた緊張して眠れなくなるかも……
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