このやってられない世界で

みなせ

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 テーブルいっぱいのお菓子があっという間にフェイの口の中に消えて行く。
 まるで吸い込まれるみたいに。
 私はお昼ご飯を食べるのを我慢して、それを見ていた。
 だって、お昼ご飯もお菓子も食べたと思われるのは……ねぇ。

「フェイって、その姿が本当の姿なの?」
「ううん。違うよ。この姿はね、女の人に好きになってもらえる姿だって教えてもらったの」
「だ、誰に教えてもらったの?」
「レーナ」

 誰だよ。それ。
 それにしても、その人が好きなタイプなんだろうけど、大人の姿ならもう少し言葉使いとかも変えないと……

「キーラも好き?」
「え、私は……その声なら子供の姿の方がいいと思うけど」
「子供の姿?」
「うん」
「キーラはラーシュと同じこと言うんだね」

 フェイはそう言ってお菓子を食べる手を止めて、少し首を傾げた。
 白い煙がフェイを包み込み、すぐに風が吹いて煙が消えると、五歳くらいの子供の姿になっていた。
 声にも言葉使いにもよく合っている姿だ。

「どう?」
「こっちがいい。すごくかわいいよ!」
「そっか。じゃあ、キーラのところに来る時も、今度からこっちの姿にするね」

 そう言ったフェイはちょっと不満そうだ。
 唇を尖らせて、それでもまたお菓子をほおばり始める。
 この姿なら、そんな仕草も良く似合う。

「フェイはいつもどこにいるの?」

 なんとなく気になってそう聞いてみる。

「うーん、どこだろ。いろんなところ?」
「今日はどうしてここに来たの?」
「キーラ、石に触ったでしょ? だからキーラが僕を探してるって聞こえたの」
「あの石に触るとフェイを呼べるの?」
「うん。でもキーラは……今度からは普通に呼んでくれれば来るよ。すぐは無理かもしれないけど」
「普通に呼ぶ?」
「うん。僕に会いたいって思ってくれればいいよ。キーラは特別だから」
「特別?」

 これは喜ぶべきなのかな?

「うん。僕の中でそう言ってるから」
「……」

 お菓子がとうとう無くなってしまった。
 お昼ごはんの方も食べるのかと見ていたけど、そちらには興味ないらしい。

「美味しかった! こんなにいっぱいお菓子食べたの初めて!」

 すごく楽しそうにフェイはそう言ってお腹を撫でた。
 ペロンと舌で口の周りをなめて、私を見る。

「キーラ、他に何か聞きたいことある?」

 聞きたいこと。何だろう。

「今は無いかな?」
「そう。じゃあ、僕帰るね」

 そう立ち上がって窓へ向かう。
 何もしなくても窓が開いて、フェイは外へ飛び出した。
 白い煙がフェイを包んで、フェイの姿をダックスフントへと戻す。

『キーラ! いつでも呼んでいいからね!』

 頭の中にフェイの声が響いて、窓が閉まる。
 あっという間にフェイの姿は空へ昇って行き、見えなくなった。

「行っちゃった」

 つぶやいて振り返ると、お菓子だけきれいに無くなったテーブルがある。
 あれ全部私が食べたことにするのはあり得ないよね。隠し持ってることにしようかな……でも、すぐばれちゃうか。

 いろんな言い訳を考えながら、私はため息をついた。
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