179 / 336
179
しおりを挟む
テーブルいっぱいのお菓子があっという間にフェイの口の中に消えて行く。
まるで吸い込まれるみたいに。
私はお昼ご飯を食べるのを我慢して、それを見ていた。
だって、お昼ご飯もお菓子も食べたと思われるのは……ねぇ。
「フェイって、その姿が本当の姿なの?」
「ううん。違うよ。この姿はね、女の人に好きになってもらえる姿だって教えてもらったの」
「だ、誰に教えてもらったの?」
「レーナ」
誰だよ。それ。
それにしても、その人が好きなタイプなんだろうけど、大人の姿ならもう少し言葉使いとかも変えないと……
「キーラも好き?」
「え、私は……その声なら子供の姿の方がいいと思うけど」
「子供の姿?」
「うん」
「キーラはラーシュと同じこと言うんだね」
フェイはそう言ってお菓子を食べる手を止めて、少し首を傾げた。
白い煙がフェイを包み込み、すぐに風が吹いて煙が消えると、五歳くらいの子供の姿になっていた。
声にも言葉使いにもよく合っている姿だ。
「どう?」
「こっちがいい。すごくかわいいよ!」
「そっか。じゃあ、キーラのところに来る時も、今度からこっちの姿にするね」
そう言ったフェイはちょっと不満そうだ。
唇を尖らせて、それでもまたお菓子をほおばり始める。
この姿なら、そんな仕草も良く似合う。
「フェイはいつもどこにいるの?」
なんとなく気になってそう聞いてみる。
「うーん、どこだろ。いろんなところ?」
「今日はどうしてここに来たの?」
「キーラ、石に触ったでしょ? だからキーラが僕を探してるって聞こえたの」
「あの石に触るとフェイを呼べるの?」
「うん。でもキーラは……今度からは普通に呼んでくれれば来るよ。すぐは無理かもしれないけど」
「普通に呼ぶ?」
「うん。僕に会いたいって思ってくれればいいよ。キーラは特別だから」
「特別?」
これは喜ぶべきなのかな?
「うん。僕の中でそう言ってるから」
「……」
お菓子がとうとう無くなってしまった。
お昼ごはんの方も食べるのかと見ていたけど、そちらには興味ないらしい。
「美味しかった! こんなにいっぱいお菓子食べたの初めて!」
すごく楽しそうにフェイはそう言ってお腹を撫でた。
ペロンと舌で口の周りをなめて、私を見る。
「キーラ、他に何か聞きたいことある?」
聞きたいこと。何だろう。
「今は無いかな?」
「そう。じゃあ、僕帰るね」
そう立ち上がって窓へ向かう。
何もしなくても窓が開いて、フェイは外へ飛び出した。
白い煙がフェイを包んで、フェイの姿をダックスフントへと戻す。
『キーラ! いつでも呼んでいいからね!』
頭の中にフェイの声が響いて、窓が閉まる。
あっという間にフェイの姿は空へ昇って行き、見えなくなった。
「行っちゃった」
つぶやいて振り返ると、お菓子だけきれいに無くなったテーブルがある。
あれ全部私が食べたことにするのはあり得ないよね。隠し持ってることにしようかな……でも、すぐばれちゃうか。
いろんな言い訳を考えながら、私はため息をついた。
まるで吸い込まれるみたいに。
私はお昼ご飯を食べるのを我慢して、それを見ていた。
だって、お昼ご飯もお菓子も食べたと思われるのは……ねぇ。
「フェイって、その姿が本当の姿なの?」
「ううん。違うよ。この姿はね、女の人に好きになってもらえる姿だって教えてもらったの」
「だ、誰に教えてもらったの?」
「レーナ」
誰だよ。それ。
それにしても、その人が好きなタイプなんだろうけど、大人の姿ならもう少し言葉使いとかも変えないと……
「キーラも好き?」
「え、私は……その声なら子供の姿の方がいいと思うけど」
「子供の姿?」
「うん」
「キーラはラーシュと同じこと言うんだね」
フェイはそう言ってお菓子を食べる手を止めて、少し首を傾げた。
白い煙がフェイを包み込み、すぐに風が吹いて煙が消えると、五歳くらいの子供の姿になっていた。
声にも言葉使いにもよく合っている姿だ。
「どう?」
「こっちがいい。すごくかわいいよ!」
「そっか。じゃあ、キーラのところに来る時も、今度からこっちの姿にするね」
そう言ったフェイはちょっと不満そうだ。
唇を尖らせて、それでもまたお菓子をほおばり始める。
この姿なら、そんな仕草も良く似合う。
「フェイはいつもどこにいるの?」
なんとなく気になってそう聞いてみる。
「うーん、どこだろ。いろんなところ?」
「今日はどうしてここに来たの?」
「キーラ、石に触ったでしょ? だからキーラが僕を探してるって聞こえたの」
「あの石に触るとフェイを呼べるの?」
「うん。でもキーラは……今度からは普通に呼んでくれれば来るよ。すぐは無理かもしれないけど」
「普通に呼ぶ?」
「うん。僕に会いたいって思ってくれればいいよ。キーラは特別だから」
「特別?」
これは喜ぶべきなのかな?
「うん。僕の中でそう言ってるから」
「……」
お菓子がとうとう無くなってしまった。
お昼ごはんの方も食べるのかと見ていたけど、そちらには興味ないらしい。
「美味しかった! こんなにいっぱいお菓子食べたの初めて!」
すごく楽しそうにフェイはそう言ってお腹を撫でた。
ペロンと舌で口の周りをなめて、私を見る。
「キーラ、他に何か聞きたいことある?」
聞きたいこと。何だろう。
「今は無いかな?」
「そう。じゃあ、僕帰るね」
そう立ち上がって窓へ向かう。
何もしなくても窓が開いて、フェイは外へ飛び出した。
白い煙がフェイを包んで、フェイの姿をダックスフントへと戻す。
『キーラ! いつでも呼んでいいからね!』
頭の中にフェイの声が響いて、窓が閉まる。
あっという間にフェイの姿は空へ昇って行き、見えなくなった。
「行っちゃった」
つぶやいて振り返ると、お菓子だけきれいに無くなったテーブルがある。
あれ全部私が食べたことにするのはあり得ないよね。隠し持ってることにしようかな……でも、すぐばれちゃうか。
いろんな言い訳を考えながら、私はため息をついた。
1
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?
転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する
山本いとう
ファンタジー
異世界へと転生してきた悪役令嬢の取り巻き令嬢マリアは、辺境にある伯爵領で、世界を支配しているのは武力だと気付き、生き残るためのトレーニングの開発を始める。
やがて人智を超え始めるマリア式トレーニング。
人外の力を手に入れるモールド伯爵領の面々。
当然、武力だけが全てではない貴族世界とはギャップがある訳で…。
脳筋猫かぶり取り巻き令嬢に、王国中が振り回される時は近い。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします!
実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。
冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、
なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。
「なーんーでーっ!」
落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。
ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。
ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。
ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。
セルフレイティングは念のため。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる