このやってられない世界で

みなせ

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 降りてきた時と同じように、でも今度は階段を上る要領で上を目指す。
 流石に降りる時より強い反動が必要みたいで、飛び上がるたびに物凄く揺れた。
 頭が下に向いているから、降りる時と違って全然快適じゃない。
 その上視界が無駄にクリアなもんだから、だんだん地上が離れて行くのがはっきりと見えてかなり怖い。
 ここから落とされたら確実に死ぬな、と半ば諦めたころようやく部屋にたどりついた。

「バルド、何があった。すぐに説明を」

 バルドが窓から飛び込むとほぼ同時に、いらついたアーサーの声がした。

 バルドがアーサーが待っていると言っていたけど、どうやら待っていたのはアーサーだけじゃないみたい。
 私は担がれていてバルドの背中しか見えないから、今部屋の中がどんな状況か分からないけど、人の気配が思ったより多い。

 多分お尻を見せている場合じゃないよね。

 足はがっちり掴まれていて動かせないから、ポコポコと背中を叩いて、早く降ろせとアピールしてみる。
 でも、バルドは降ろそうとしない。代わりに足を掴む腕に力がこもった。

「……キーラ様は?」
「急に力をお使いになりましたので……」

 アーサーの問いに、わざとらしく困ったような声でバルドが答えた。

「そうか。ではバルド、先にお前から話を聞こう。キーラ様には、お目覚めになったのちお話を伺う。皆さま、そう言うことですので一度お戻りください」

 この声は、この間来たおじいさんのどっちかの声だ。その声を合図にざわざわと人の声が遠ざかっていく。

「ではアーサー殿、キーラ様をお願いします」
「……分かりました」

 アーサーの声と、扉が閉まる音がして、ようやくバルドが私を肩から降ろした。
 部屋の中にはもうアーサーとエマさんしかいなかった。

「お嬢様、何があったのか説明を」

 不機嫌なアーサーは、顔をしかめて私を睨んできた。

「何って……」

 睨まれたって、私には分からないよ。

「バルド、説明を」

 埒が明かないと思ったのか、アーサーはあっさりと睨む対象をバルドに変えた。

「アーサー様に言われた通り、始まりの場所へお連れしました。そこで魔鳥に遭遇し、追い詰められたキーラ様が石に触れられました」
「触れた?」
「はい。そして魔力をとられた、と」
「……」

 バルドの説明にアーサーとエマさんの顔色が変わる。
 目を最大まで見開いて、なんて言うの、驚愕? って顔になる。

「一度目で魔鳥を制止させ、二度目で……」
「ちょっと待て」

 構わず続けようとしたバルドをアーサーが止める。

「二度目だと?」
「はい、キーラ様は二度石に触れ、二度目で大地の力を安定させました」

 アーサーとエマさんがそろって私を見た。

「お嬢様、どこも何ともありませんか? 具合が悪いところは」
「大丈夫だよ?」
「魔力をとられたんですよね?」
「うん。でも、少しだよ」
「少し? そんな筈ありません。あの石はかなりの量の魔力を奪う筈です」
「そうですよ。姫様。あの石に間違って触って死にかけた人もいるんですよ?」

 アーサーとエマさんの声が重なる。
 そんなこと言われても、

「ほらオンリンナの私の部屋にあったランプ。抜かれたのはあれを点けるくらいだったから、全然大丈夫だよ」

 フランクやカークにとられた時に比べれば、ごくごくごく、わずかな量だ。
 アーサーとエマさんが顔を見合わせる。

「そんな筈はないのですが……」

 信じられないと言うようにアーサーが首を振る。

「ねぇ、それより、あの石って何? そっちを説明してほしいんだけど」
「バルド、姫様に何も話してないの? 触っちゃいけないとか」
「あぁ。近付かなければ必要ないと思った」
「何言ってるの! 姫様に何かあったらどうするつもりだったの!?」

 エマさんが叫んだ。思い切り怒っている。バルドは顔をそむけて、舌打ちをした。

「バルド、ここはもういい。あっちに説明に行ってくれ」

 アーサーがそう言うと、バルドは軽く頭を下げて部屋を出て行った。

「お嬢様、本当に大丈夫ですね?」
「大丈夫だって言ってる」
「それならいいです」
「あの石、なんなの?」
「あの石は、守護者との契約の証しです。選ばれた者が魔力を与えると、いくつかの魔法が展開するようになっています。一番は王都周辺の大地の力の安定です」
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