このやってられない世界で

みなせ

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―――苦しい。苦しいよ。

 目の前が真っ暗だ。
 息をしなきゃないのに、全然空気が入ってこない。
 口と鼻にフタでもされたみたいだ。

――――空気がほしい。

 空気が欲しくて伸ばした手ですがる物を探す。
 必死で吸い込んでいる筈なのに、ちっとも空気が動いている感じがしない。

――――誰か、助けて!
「口を開けて!」

 耳元で誰かが叫んだ。

「口を開けるの」
―――――開けてるよ!
「もっと大きく! 口を意識してっ!」
――――大きく? 意識?

 言われた通り意識して口を開き、

「そう、そのまま……そのまま大きく吸い込んで。 せーの」

 その掛け声に合わせて、強く息を吸い込む。



――――ヒュッ!!




 って、変な音がして、一気に肺に空気が入ってきた。
 必死で、吸えるだけ吸いこんだところで、視界が開けた。







 パチリと開いた目に映ったのは、白い世界だった。

「こ、こは……」

 荒い息を吐き出しながら、ゆっくりと辺りを見回す。
 どうやら自分はベッドに寝ているようだ。周囲は白いレースのカーテンに囲まれていて、その向こう側は全く見えない。

―――――いったい、何があったんだろう。

 意識が途切れる直前、苦しくなったこととアーサーが叫んでいたことくらいしか思い出せない……。
 仕方なく体を起こすと、節々に痛みが走る。身を縮めてやり過ごし、とにかくベッドから出た。
 部屋は円形で、ベッド以外に家具は無く、すべての壁が白いレースのカーテンで覆われていた。
 恐る恐る一番近いカーテンを開けてみる。
 カーテンがかかっているから当然そこは窓になっていて、外が良く見えた。

「……ここ、どこ?」

 どこに行くかと聞いた時、アーサーは王都と言っていたけれど、窓の外には白くかすむ急斜面の山林しか見えなかった。

「王都って、山にあるものなの?」

 いや、あってもいいんだろうけど、なんて言ったらいいか山しかない。
 右も左も、山で森で……。
 そして、今自分のいる部屋は、山の間に浮いている感じの作りのようだ。

「本当に、ここ。どこ?」

 つぶやいたものの、答えてくれる人はいない。
 辺りをもう一度見回して、とりあえずあちこちのカーテンをめくってみた。
 カーテンの向こうはすべて窓だったけれど、ベッドの足もとの方側にようやく扉を見つけた。
 開かないだろうと予測しながら、取っ手を引っ張り、そして押してみる。

「そうだよね、やっぱり開かないよね……」

 がっかりしながらもその脇のカーテンを開くと、扉の向こうにはまっすぐな道があるのが見えた。

「浮いてるわけじゃないんだ」

 今度はほっとしながら、その道を視線で辿って行くと、道は絶壁へと続いていて、絶壁にはどこかで見た映画みたいに建物がへばりついていた。
 それはまるで、エルフの里とか、エルフの谷とか。そんな風な景色だ。

「何なの、これ」

 その場に座り込んで、膝を抱える。

「―――――本当に、もう、やだ……」
「……お嬢様」

 つぶやいた言葉に重なるように、声がかかる。

「アーサー」
「もう、大丈夫ですか?」
「アーサー、ここは、どこ?」
「王都です」
「王都? 本当に?」
「本当ですよ。エルフの森、と呼ばれています」



―――――当たらずも遠からず……か。


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