このやってられない世界で

みなせ

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 目を覚ますと、いつもの天井だった。
 外はまだ明るく、時計を見ると、眠っていたのは数時間ほどのようだ。

「キーラ、オキタ」

 ピーちゃんの声だ。
 カゴに入っている筈なのに、ずいぶん近いところで声がすると思ったら、枕元に鎮座していた。
 自分の重さで布団に沈んで身動きが取れないらしい。
 顔だけを左右に動かして私を見ている。

「ピーちゃん……どうしてカゴから出てるの?」
「キーラ、シンパイ、アリーダ、ダシテクレタ」
「……そう、アリーダさんが」
「キーラ、ダイジョウブカ?」
「大丈夫だよ」

 言って、ゆっくりと体を起こす。
 体が重い。
 魔力を抜かれた時は、そんなに多いとは思わなかったけれど、こんなに体が重いのはいつか以来だ。
 サイドテーブルから手鏡を出して、久しぶりにピアスを見ると、紫に近い、深い青だ。

「やっぱり……」
「キーラ、ナニ、アッタ?」
「何って……なんだろ」

 鏡を戻して、ピーちゃんを布団から掬いあげる。
 ケビンのところから帰ってきて二週間、ピーちゃんのダイエットの成果は出ていない。まだまだ先は長そうだ。ずっしりとしたその体を、膝の上に乗せて頭をなでる。

 頭に浮かぶのは、ミランダと魔法陣だ。
 ミランダは明らかにおかしかった。わざとらしいくらいのおかしさだ。
 私を捕まえるにしても、あれはひどい。

「でもひどいと言えば、カークの方がもっとひどいよね」

 つぶやいて、ベッドへと倒れ込む。

「キーラ?」

 ピーちゃんが胸元へ登ってきて、覗きこんでくる。
 ……正直、重くて苦しいけど、丸い顔はかわいい。

「……怒っていいよね?」
「オコル? ピーチャン、オコル?」
「ピーちゃんのことじゃないよ」

 くちばしをつんと指で押すと、ピーちゃんはコロコロと胸から転がり落ちた。

「キーラ、ヒドイ」
「ごめんごめん」

 慌てて起き上がってピーちゃんを拾ったところで、扉がノックされて、すぐに開く。

「……カーク」
「キーラ、起きていたのか」

 言いながらほっとしたような顔で、近付いてくる。

「……ミランダたちは?」
「王城にいる。ミランダ嬢は眠ったままだ。今はローニャ嬢がついている」
「そう」
「キーラ、気分は?」

 カークはベッドの端に腰かけて、私に手を伸ばしてきた。

「触らないで」

 私は、その手にピーちゃんを押しつける。

「ビィ!」
「キーラ」

 両手でピーちゃんを持って、カークが困ったような顔をする。
 最近そんな顔ばかりしてるけど、今日は絶対許さないよ。
 ベッドの上を移動して、カークから離れて睨みつける。

「キーラ、怒ってるの?」

 怒ってるの? じゃない! 怒ることにしたんだよ!

「カーク、ミランダたちの事もだけど、私には何したの?」
「何もしていない。少し、魔力をとりすぎたことは認める。でも、わざとじゃない」

 って目を反らす。

「わざとだとか、わざとじゃないとかじゃない! 何で私に断りもなく勝手なことするの?」
「キーラの許可なくしたことは、謝る。でもキーラに動かれると困ると思って」
「困る? 何で? 動くなって、口で言ってくれればいいじゃない」
「……ごめん」
「謝ればいいって話じゃない。いつもいつも、大事な時にこんなだと、私の方が困る!」
「ビィ!!」

 カークの手の中のピーちゃんが叫んだ。カークが手に力を込めたらしい。

「あぁ、すまない」

 慌ててカークが手を離すと、ピーちゃんが転がり落ちた。

「とにかく、今日はもうカークとは話したくない! どうせミランダが起きなきゃその話は進まないでしょ。だから、今日は出て行って!」
「それは駄目だ」
「何で!」
「魔力を返さないと……」
「返すって……」

――――そう言うことだよね。
 カークを見ると、カークは相変わらず困ったような顔だ。

「……今日は、いいよ」
「キーラ」
「いやだ」

 枕を投げて、ベッドから降りる。

「キーラ」
「来ないで!」

 目の前にはクローゼットルームの扉がある。そこに逃げ込むつもりで、走ろうとしたけど間に合わなかった。
 カークは簡単にベッドを飛び越えて、私を捕まえた。

「やだ、離して!」
「キーラ、すぐ終わるから」
「そう言う事じゃない!」

 必死の抵抗も空しく、簡単に抑え込まれた。
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