このやってられない世界で

１３６

「キーラは知らないと思うけど、この二年、いろんな噂があったんだよ」

　私を見ながらローニャはお茶をすすった。
　すっかりくつろいだ感じで、言葉使いも普通になっている。

「そうなんだ、ごめん、全然知らない」
「だよね。キーラは、いつも忙しそうだったし、興味もなかったみたいだもんね」

　流石に自分の噂は知っていた。面と向かって言われた事もあったから。
　でもそれ以外のことは、忙しかったし、確かに興味もなかった。
　ローニャの見立ては正しい。

「たくさん噂はあったけど、一番は、どうして王太子殿下が学園に通っているのか、お相手がもう決まっているかどうかってことだった」

……そうですよね。そこ重要ですよね。

「王家に問い合わせをした人もいたけれど、特に発表もなく、ずっと分からないままで、それが突然、殿下がキーラと一緒に登校したから……キーラが帰った後の教室はその話でもちきりだった」

　すみません、お騒がせしています。

「いつからキーラが選ばれていたか。本当にキーラが選ばれたのかって。ほら、リーナ様って話もあったでしょ？」

　あったんだ、いや、あるか。
　ゲーム上では、リーナの攻略対象者だしなぁ。
　なんとなくそうカークを見ると、すごく面白そうに私たちを見ていた。

「ミランダがキーラに声をかけてくれたおかげで、皆が私たちにそのことを聞いてほしいって言われてね……ランチの時に聞く予定だったんだけど……ね」
「そう、だったんだ」
「真実も聞けたし、殿下からも皆に話してもいい許可も貰ったし……でもこれでもう嫌がらせはなくなると思うよ」
「え？」

　見ていた人、いたんだ。

「嫌がらせ受けてたでしょ？　ごめんね、助けられなくて」

　ローニャはそう、悲しそうに肩をすくめた。

「ミランダがキーラと友達になりたいからって、入学した時からずっとキーラのことを見てた。でも、キーラはオンリンナだったし、本当にいつも忙しそうで、なかなか声をかけられなかった。特にリーナ様が現れてからは、私たちの常識を覆すような噂まで出て、もっと声をかけづらくなった」

　ローニャはため息をつく。

「私たちみたいに爵位持ちの子たちはオンリンナ家の話を知っていたからまだ良かったけど、普通の家の子たちは噂を信じたみたいで……。本当なら学園に通わない筈の王太子殿下が登校したり、オンリンナ家を名乗る人間が急に現れたりしていたから、惑わされる人も多かったんだと思う。キーラに嫌がらせをしていたのは、そういう人たちで、そのうちジョシュア先生もおかしくなって……」
「えーっと……」
「今更、こんな風に声をかけるのも、友達になってほしいなんて言うのもおかしくて、警戒するのも分かるけど、ミランダは本当にキーラと友達になりたいって言っていたから、せめて卒業まで友達になってくれないかな？」

　ローニャがミランダを気にしながら、そんなことを言いきった。
　ローニャの話なら特に警戒をすることも無い。
　……ローニャは何も知らない、ってことなのかな？

　私はミランダを見た。
　ミランダは、ぼーっとして、焦点が合っていない感じで、明らかになんかおかしい。
　
　これ、これからどうしたらいいんだろう？