このやってられない世界で

みなせ

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「カーク、後でこっちに来るように」

 陛下は最後にカークにそう言って、帰って行った。
 カークは陛下が出て行った方を睨みつけて、それからため息と共に顔を覆って俯いてしまった。
 とてつもなく声をかけ辛い雰囲気だ……。
 でも、ほおっておくわけにもいかないよね。

「カーク?」

 暫く俯いたままのカークを眺めていたけど、いつまでもそうしているわけにもいかないので、とりあえず名を呼んでみた。
 カークは俯いたまま頭を振る。
 多分、落ち込んでいるんだろうなぁ……うーん、これってやっぱりほおっておくべき?

―――――駄目、だよね。

「大丈夫?」

 もう一度声をかける。

「私は、全然キーラの役に立ってないね」

 少しの間があって、やっぱり俯いたまま、カークはそう言った。

 ――――そんなことないよ。
 って、すぐ返したかったけど、何故か躊躇ってしまった。

「私はキーラを守りたいのに……」

 続けられた言葉と深いため息に、自然と眉が寄ってしまう。

―――――私のせいで……落ち込んでいるんだよね……

 それが分かるから、どうしようもなくて。
 私はカークの前まで移動して、そっとカークの頭を両腕で抱きこんだ。

「カークは一生懸命やってくれてるよ」
「キーラ……」

 驚いたのか顔を上げようとしたので、腕に力を込めて無理矢理抑え込んだ。
 この体勢で顔を上げられると困る。
 恥ずかしいから……こんなことしておいて今更だけど。

「私一人だったら、きっともうリーナに負けてこの世にいなかったと思うし、カークがいるから……あまり不安じゃないよ。だからそんなに落ち込まないで」
「キーラ」

 少し浮上した声と共に、カークの腕が私の腰にまわる。

「……昨日、父と久々に喧嘩をした」

 陛下と親子喧嘩……。それで朝あんなに機嫌が悪かったのか。

「これでも私は私なりにいろいろ手を使って調べている。でも、父に隠されてしまえばどうにもならない」
「隠される?」
「そう、さっきの話だってそうだ。父は知っているくせに大事なところを教えない。わざわざ聞きに行ったのに、隠しているわけじゃないと言われて、それで喧嘩になった」

 そっか、陛下は“えげつないチート”を持っているんだっけ。
 なら、全部知っている、よね。

「やるべきことを遅らせてきたせいだって事は分かっている」

 遅らせる……そう言えば、前陛下に会った時それらしいことを言っていた気がする。カークは少し遅れている、だっけ?

「私はどんな形でもキーラの側にいられればいいと思っていた。だからいつでもこの場所を去れるように深いものには手をつけないようにしてきた」
「……カーク」
「でも、そのせいで大事な時に役に立てない。父が持つ契約も見られないし、こんな時にここから離れられない」

 カークは悔しそうだ。ううん、悔しいよね。だってカークは、本当は知ることが出来るんだよね。陛下と同じじゃなくとも、それに近いくらいには。

「なかなかうまく行かないな」

 カークがそう自嘲する。
 そして、こんなはずじゃなかったって、小さな声が聞こえた。

 私はもう、何も言えなかった。
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