このやってられない世界で

みなせ

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「……それって、どういうこと?」

 カークの言葉を暫く反芻し、どうしても理解できなくてそう尋ねた。

「そのままの意味だ」

 カークはそう言って、どこかから一枚の紙を出した。
 銀の飾り枠がついた薄紫色の用紙には、細かな文字とやけに立派な判が最後に押されている。
 渡されたので目を通すと、フォルナトル国民を拘束していることから始まり、交渉の余地があること、そしてその交渉人はオンリンナ家の血族の者であることと書かれていた。

「これって」
「ルキッシュからの文書だ。昨日、父から渡された」
「……あの契約書って、まだ有効じゃないんだよね?」
「あぁ」
「なら、まだ一応あの人もオンリンナ家の者なんじゃないの?」
「対外的にはチェルノがオンリンナの当主だ。だがその当主の筈のチェルノが拘束されている」

 あぁ、そうだった。

「それに、当主ではなく、わざわざ血族とあるだろう。今、オンリンナの血族はキーラ一人だ。この書き方は間違いなくキーラを名指ししている」

 カークは私から紙を取り上げて、空のどこかにしまった。

「……何で私を?」
「それが、一番分からない。だけど、この書き方は、意味ありげで、オンリンナ家のことを良く知らなければ書けない書き方だ。ルキッシュがどのくらいフォルナトルのことを知っているか分からないが、本人すら最近まで知らなかったオンリンナ家の事情をルキッシュが知っているのはおかしい。きっと、こちら側に協力者がいると思う」
「協力者?」
「キーラに、この国にいて欲しくない人物」
「……リーナ?」

 カークが頷く。

「リーナってそんなことも出来るの?」
「リーナだけじゃない。私たちが知らない何かがあるんだと思う」

 ちょっと待って! それ想像だよね?

「学園でキーラの噂話が出た時のことを覚えているか?」
「えーっと」

 覚えてないけど、いつの間にかそうなっていた、気がする。
 それも結構学園に蔓延するのが早かった。

「あの噂、どこから出たか、不思議じゃないか?」
「そう言われれば」
「今も同じだ。拘束されていることはともかく、リスター家とチェルノの話はすでに出回っている。このままこの件を放置しておくと、いずれ王家とオンリンナ家が矢面に立たされる」
「何で?」
「国交は王家の仕事だ。長引けば責任が問われる。ルキッシュはキーラと交渉することを望んでいる。今は誰も知らないが、もしそれを皆が知ったら……当然キーラを責める声が上がるだろう」

 そんな大事に……なる……?

「そうなれば、王家としてはキーラを交渉の場におくるしかなくなる」
「……それって、カークの勝手な予想でしょ?」

 あり得ない。

「……よく考えられた計画だ、と思う」

 マジで? マジなの?

「私はまだここを離れられないから、絶対行かせたくない」

 私も行く気はないよ。ないけど……これ、本当にどう言うこと?
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