このやってられない世界で

みなせ

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 試験の二日目と三日目は、リーナと会うこともなく、何の問題もなく過ぎた。
 四日目にもなると、教室でのキーラの周りは記憶にある雰囲気に戻っていた。
 カークの送り迎えのせいでその時間は多少ざわつくが、席についてしまえばもともと浮いた存在だったキーラを気にする人はいない。
 まして試験前の時間は復習に忙しく、皆と同じように教科書を見る私のことなど、忘れているはず……はずなのに、

「キーラ様」

 急に名を呼ばれ教科書から顔を上げると、前の席の女子が振り返って私を見ていた。

「キーラ様。私、ミランダ・リスターと申します。急にお声かけしてしまい申し訳ありません。少しよろしいですか?」

 目が合うと同時に、彼女は小さな声で一気にそう言って、二コリと笑った。
 時間はある。
 この時間行われているはずの試験が、学校側の手違いで延期になり、自習時間になったのだ。次の時間の試験に自信があるなら、話をしていてもいいだろう。
 現に、教室内は結構ざわついている。

「えっと……」
「私、ずっとキーラ様とお話ししてみたいと思っていたんです」

 ニコニコと言うミランダの雰囲気は悪くない。

「この二年ずっとチャンスが来るのを待っていたんです」

 軽い口調で、ミランダは重いことを言う。
 チャンスって……。
 でも、まぁ、分かる。キーラには隙がなかった。

「すみません。私、話しかけにくいですよね」
「いえ! そうじゃないです。キーラ様は悪くないんです。私に勇気がなかっただけで!」

 ぶんぶんと開いた両手を振って、強く否定。
 思いのほか大きな声になって、隣の席の子がミランダを見た。

「うるさいよ、ミランダ。皆、勉強しているんだから、話すのはいいけど大きい声はやめなよ」
「……ごめん。つい興奮しちゃって」

 へへへとミランダは、隣の席の子に肩をすくめてみせる。

「あ、そうだ、キーラ様、彼女は……」
「ローニャ・リスターです。キーラ様、今更ですが、よろしくお願いします」

 ミランダを遮って、苦笑いでローニャが言った。

「こちらこそ……お二人はご姉妹ですか?」
「いえ、いとこです。ミランダの一家はオンリンナ家の発明品のファンなんです。それでずっとキーラ様に話しかけたかったようです」
「やだ、ローニャったら、自分で話そうと思っていたのに!」

 ミランダが頭を抱えた。
 こんな所にオンリンナのファンがいるなんて。

「ミランダの話し方だと、いつまでたっても本題にたどりつかない」
「そんなことない。こういうのには順番って言うものがあるの! もう、すみません。キーラ様」
「いえいえ、でも私、発明品のことはあまり知らないので……」

 だいたい、ひいお祖父さんが発明家だと知ったのも最近だし、なんかごめんなさい。

「いえ、本来なら会うことも出来ない筈のオンリンナ家の方に会えただけで、家族に自慢が出来ます。祖父なんか、同じ教室にオンリンナ家の方がいるって言ったら、学園に入学するとまで言ったんですよ!」

 何、その珍獣扱い……。流石に顔が引きつる。

「ミランダ、キーラ様が引いてる」
「あ、あの、えーっと。あー、もう!」

 言葉になってないけど。
 私とローニャの目が合って、思わず二人で笑ってしまった。

―――――やだ、こんなの、久しぶりだ。

「ちょっとローニャ! 私の方が先にキーラ様に話しかけたのに、何で先に仲良くなってるのよ!」
「ミランダがおかしいからだよ」
「おかしくない! おかしくないですよね? キーラ様?」

 いや、おかしいよ。
 って笑っていると、ミランダは諦めたようにため息をついた。

「いいです。私がおかしいんです! 分かってます」
「分かればよろしい」

 ふてくされるミランダに、笑いながらローニャはそう言った。
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