127 / 336
127
しおりを挟む
試験の二日目と三日目は、リーナと会うこともなく、何の問題もなく過ぎた。
四日目にもなると、教室でのキーラの周りは記憶にある雰囲気に戻っていた。
カークの送り迎えのせいでその時間は多少ざわつくが、席についてしまえばもともと浮いた存在だったキーラを気にする人はいない。
まして試験前の時間は復習に忙しく、皆と同じように教科書を見る私のことなど、忘れているはず……はずなのに、
「キーラ様」
急に名を呼ばれ教科書から顔を上げると、前の席の女子が振り返って私を見ていた。
「キーラ様。私、ミランダ・リスターと申します。急にお声かけしてしまい申し訳ありません。少しよろしいですか?」
目が合うと同時に、彼女は小さな声で一気にそう言って、二コリと笑った。
時間はある。
この時間行われているはずの試験が、学校側の手違いで延期になり、自習時間になったのだ。次の時間の試験に自信があるなら、話をしていてもいいだろう。
現に、教室内は結構ざわついている。
「えっと……」
「私、ずっとキーラ様とお話ししてみたいと思っていたんです」
ニコニコと言うミランダの雰囲気は悪くない。
「この二年ずっとチャンスが来るのを待っていたんです」
軽い口調で、ミランダは重いことを言う。
チャンスって……。
でも、まぁ、分かる。キーラには隙がなかった。
「すみません。私、話しかけにくいですよね」
「いえ! そうじゃないです。キーラ様は悪くないんです。私に勇気がなかっただけで!」
ぶんぶんと開いた両手を振って、強く否定。
思いのほか大きな声になって、隣の席の子がミランダを見た。
「うるさいよ、ミランダ。皆、勉強しているんだから、話すのはいいけど大きい声はやめなよ」
「……ごめん。つい興奮しちゃって」
へへへとミランダは、隣の席の子に肩をすくめてみせる。
「あ、そうだ、キーラ様、彼女は……」
「ローニャ・リスターです。キーラ様、今更ですが、よろしくお願いします」
ミランダを遮って、苦笑いでローニャが言った。
「こちらこそ……お二人はご姉妹ですか?」
「いえ、いとこです。ミランダの一家はオンリンナ家の発明品のファンなんです。それでずっとキーラ様に話しかけたかったようです」
「やだ、ローニャったら、自分で話そうと思っていたのに!」
ミランダが頭を抱えた。
こんな所にオンリンナのファンがいるなんて。
「ミランダの話し方だと、いつまでたっても本題にたどりつかない」
「そんなことない。こういうのには順番って言うものがあるの! もう、すみません。キーラ様」
「いえいえ、でも私、発明品のことはあまり知らないので……」
だいたい、ひいお祖父さんが発明家だと知ったのも最近だし、なんかごめんなさい。
「いえ、本来なら会うことも出来ない筈のオンリンナ家の方に会えただけで、家族に自慢が出来ます。祖父なんか、同じ教室にオンリンナ家の方がいるって言ったら、学園に入学するとまで言ったんですよ!」
何、その珍獣扱い……。流石に顔が引きつる。
「ミランダ、キーラ様が引いてる」
「あ、あの、えーっと。あー、もう!」
言葉になってないけど。
私とローニャの目が合って、思わず二人で笑ってしまった。
―――――やだ、こんなの、久しぶりだ。
「ちょっとローニャ! 私の方が先にキーラ様に話しかけたのに、何で先に仲良くなってるのよ!」
「ミランダがおかしいからだよ」
「おかしくない! おかしくないですよね? キーラ様?」
いや、おかしいよ。
って笑っていると、ミランダは諦めたようにため息をついた。
「いいです。私がおかしいんです! 分かってます」
「分かればよろしい」
ふてくされるミランダに、笑いながらローニャはそう言った。
四日目にもなると、教室でのキーラの周りは記憶にある雰囲気に戻っていた。
カークの送り迎えのせいでその時間は多少ざわつくが、席についてしまえばもともと浮いた存在だったキーラを気にする人はいない。
まして試験前の時間は復習に忙しく、皆と同じように教科書を見る私のことなど、忘れているはず……はずなのに、
「キーラ様」
急に名を呼ばれ教科書から顔を上げると、前の席の女子が振り返って私を見ていた。
「キーラ様。私、ミランダ・リスターと申します。急にお声かけしてしまい申し訳ありません。少しよろしいですか?」
目が合うと同時に、彼女は小さな声で一気にそう言って、二コリと笑った。
時間はある。
この時間行われているはずの試験が、学校側の手違いで延期になり、自習時間になったのだ。次の時間の試験に自信があるなら、話をしていてもいいだろう。
現に、教室内は結構ざわついている。
「えっと……」
「私、ずっとキーラ様とお話ししてみたいと思っていたんです」
ニコニコと言うミランダの雰囲気は悪くない。
「この二年ずっとチャンスが来るのを待っていたんです」
軽い口調で、ミランダは重いことを言う。
チャンスって……。
でも、まぁ、分かる。キーラには隙がなかった。
「すみません。私、話しかけにくいですよね」
「いえ! そうじゃないです。キーラ様は悪くないんです。私に勇気がなかっただけで!」
ぶんぶんと開いた両手を振って、強く否定。
思いのほか大きな声になって、隣の席の子がミランダを見た。
「うるさいよ、ミランダ。皆、勉強しているんだから、話すのはいいけど大きい声はやめなよ」
「……ごめん。つい興奮しちゃって」
へへへとミランダは、隣の席の子に肩をすくめてみせる。
「あ、そうだ、キーラ様、彼女は……」
「ローニャ・リスターです。キーラ様、今更ですが、よろしくお願いします」
ミランダを遮って、苦笑いでローニャが言った。
「こちらこそ……お二人はご姉妹ですか?」
「いえ、いとこです。ミランダの一家はオンリンナ家の発明品のファンなんです。それでずっとキーラ様に話しかけたかったようです」
「やだ、ローニャったら、自分で話そうと思っていたのに!」
ミランダが頭を抱えた。
こんな所にオンリンナのファンがいるなんて。
「ミランダの話し方だと、いつまでたっても本題にたどりつかない」
「そんなことない。こういうのには順番って言うものがあるの! もう、すみません。キーラ様」
「いえいえ、でも私、発明品のことはあまり知らないので……」
だいたい、ひいお祖父さんが発明家だと知ったのも最近だし、なんかごめんなさい。
「いえ、本来なら会うことも出来ない筈のオンリンナ家の方に会えただけで、家族に自慢が出来ます。祖父なんか、同じ教室にオンリンナ家の方がいるって言ったら、学園に入学するとまで言ったんですよ!」
何、その珍獣扱い……。流石に顔が引きつる。
「ミランダ、キーラ様が引いてる」
「あ、あの、えーっと。あー、もう!」
言葉になってないけど。
私とローニャの目が合って、思わず二人で笑ってしまった。
―――――やだ、こんなの、久しぶりだ。
「ちょっとローニャ! 私の方が先にキーラ様に話しかけたのに、何で先に仲良くなってるのよ!」
「ミランダがおかしいからだよ」
「おかしくない! おかしくないですよね? キーラ様?」
いや、おかしいよ。
って笑っていると、ミランダは諦めたようにため息をついた。
「いいです。私がおかしいんです! 分かってます」
「分かればよろしい」
ふてくされるミランダに、笑いながらローニャはそう言った。
2
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する
山本いとう
ファンタジー
異世界へと転生してきた悪役令嬢の取り巻き令嬢マリアは、辺境にある伯爵領で、世界を支配しているのは武力だと気付き、生き残るためのトレーニングの開発を始める。
やがて人智を超え始めるマリア式トレーニング。
人外の力を手に入れるモールド伯爵領の面々。
当然、武力だけが全てではない貴族世界とはギャップがある訳で…。
脳筋猫かぶり取り巻き令嬢に、王国中が振り回される時は近い。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします!
実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。
冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、
なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。
「なーんーでーっ!」
落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。
ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。
ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。
ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。
セルフレイティングは念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる