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応接室。
学園から帰った私たちは、ダリルからアーサーの伝言を聞いた。
「どうやら、チェルノ氏は国境で足止めをされているようです」
「チェルノの行き先はルキッシュだったな?」
「はい」
「あそことは今特に何の問題はないよな?」
「はい、その筈です」
「何故足止めされている? ルキッシュ側から何か連絡は来ていないのか?」
カークの言葉に、ダリルは首を振った。
「今、理由を問い合わせしていますが、まだ返答はありません」
「そうか……前回は契約が難航している、と言っていたな」
「そう言っていました」
「……おかしいな。あの男が商売で不手際をするようには思えないが……」
カークはそう言って、宙を見つめたまま動かなくなった。
ぼーっとしているわけじゃなさそうだ。時々眉間にしわが寄ったり、首を傾げたりしている。
ダリルは直立不動のままそんなカークを見ているから、これが普通なのか?
「うーん」
暫くして、カークが唸った。
「分からないな……しょうがない」
―――――えっ!? あんなに悩んで、答えそれなの?
と思ったのが聞こえたのか、カークが不意にこっちを見た。
「キーラ、悪いが今日の夕食は一人で食べてくれ」
「う、うん」
いや、別に約束してないから、お好きなようになんだけど。
「カークはどうするの?」
「ちょっと出てくる。明日の朝はまた迎えに行く」
そう言ってカークは立ち上がった。
そして、こちらに手を出してきたので、私も立ち上がる。
「ダリル、何か分かったらケビンに伝えておいてくれ……それと、キーラを部屋に」
「はい」
「じゃあ、キーラ。また明日」
ダリルに文字通り手を手渡して、カークはそのまま部屋を出て行った。
「カークは、どこに行くの?」
「さぁ?」
「さぁ、って……大丈夫なの? さっきも急に固まるし」
「固まる……」
ダリルが少し笑った。
「あれは……いつものことだ。陛下も時々、ああなる」
親子そろって、固まるのか……。
「何か考えてるの?」
「どうだろうな。いつものことだから気にしたことがないな。心配なら直接聞いてみたらいい」
「……心配してない」
ムッとして言い返す。
ちょっと気になっただけだよ。
「はいはい。それより、心配と言えばアーサーが心配していたぞ」
お、アーサーを呼び捨てですか。
「何か言っていた?」
「あぁ、キーラは時々変な間違いをするから試験の結果が心配だ、って」
「ん?」
失敗? 何かあったっけ?
「解答欄を一つずらして書いたんだって?」
「あー」
言われて、頭に記憶がよみがえる。
確かに、学園に入って初めての試験で解答欄を一段間違えて書いた記憶がある。
「あれは、初めての試験だったから……緊張していたんだよ。って、アーサーとやけに仲良くなってない?」
「あぁ、キーラの話で盛り上がったからな」
何それ。ちょっと気持ち悪いんだけど。
思い切り顔をしかめる。
「……冗談だ。このところ毎日連絡を取り合っているから、自然とそうなっただけだ」
「ふーん」
なんか嫌な感じ。
「試験って一週間だったか?」
「うん」
「終わるまでに、チェルノが帰ってくるといいな」
「うん……でもどうして足止めされているんだろう?」
さっきの話を思い出して、首を傾げる。
「そうだな。あまり良くは知らないが、ルキッシュの人たちはかなり伝統を重んじる。外交はするにはするが積極的ではない。チェルノの商品は少し奇抜なものも多いから、持ち込んだものに何か問題があったのかもしれないな」
そっか。発明品を売りたいから、オンリンナの名前を買ったんだっけ。
伝統を重んじるなら、発明品なんて斬新なものは売れなさそう。
「確かに問題、ありそうだね」
「商売上の問題なら、すぐ片付くはずだ。また何か分かったら教えるよ」
「お願いします」
「じゃあ、部屋に戻ろうか?」
ダリルがそう言って、ずっと預けっぱなしだった手を引いた。
すっかり忘れてたよ。
学園から帰った私たちは、ダリルからアーサーの伝言を聞いた。
「どうやら、チェルノ氏は国境で足止めをされているようです」
「チェルノの行き先はルキッシュだったな?」
「はい」
「あそことは今特に何の問題はないよな?」
「はい、その筈です」
「何故足止めされている? ルキッシュ側から何か連絡は来ていないのか?」
カークの言葉に、ダリルは首を振った。
「今、理由を問い合わせしていますが、まだ返答はありません」
「そうか……前回は契約が難航している、と言っていたな」
「そう言っていました」
「……おかしいな。あの男が商売で不手際をするようには思えないが……」
カークはそう言って、宙を見つめたまま動かなくなった。
ぼーっとしているわけじゃなさそうだ。時々眉間にしわが寄ったり、首を傾げたりしている。
ダリルは直立不動のままそんなカークを見ているから、これが普通なのか?
「うーん」
暫くして、カークが唸った。
「分からないな……しょうがない」
―――――えっ!? あんなに悩んで、答えそれなの?
と思ったのが聞こえたのか、カークが不意にこっちを見た。
「キーラ、悪いが今日の夕食は一人で食べてくれ」
「う、うん」
いや、別に約束してないから、お好きなようになんだけど。
「カークはどうするの?」
「ちょっと出てくる。明日の朝はまた迎えに行く」
そう言ってカークは立ち上がった。
そして、こちらに手を出してきたので、私も立ち上がる。
「ダリル、何か分かったらケビンに伝えておいてくれ……それと、キーラを部屋に」
「はい」
「じゃあ、キーラ。また明日」
ダリルに文字通り手を手渡して、カークはそのまま部屋を出て行った。
「カークは、どこに行くの?」
「さぁ?」
「さぁ、って……大丈夫なの? さっきも急に固まるし」
「固まる……」
ダリルが少し笑った。
「あれは……いつものことだ。陛下も時々、ああなる」
親子そろって、固まるのか……。
「何か考えてるの?」
「どうだろうな。いつものことだから気にしたことがないな。心配なら直接聞いてみたらいい」
「……心配してない」
ムッとして言い返す。
ちょっと気になっただけだよ。
「はいはい。それより、心配と言えばアーサーが心配していたぞ」
お、アーサーを呼び捨てですか。
「何か言っていた?」
「あぁ、キーラは時々変な間違いをするから試験の結果が心配だ、って」
「ん?」
失敗? 何かあったっけ?
「解答欄を一つずらして書いたんだって?」
「あー」
言われて、頭に記憶がよみがえる。
確かに、学園に入って初めての試験で解答欄を一段間違えて書いた記憶がある。
「あれは、初めての試験だったから……緊張していたんだよ。って、アーサーとやけに仲良くなってない?」
「あぁ、キーラの話で盛り上がったからな」
何それ。ちょっと気持ち悪いんだけど。
思い切り顔をしかめる。
「……冗談だ。このところ毎日連絡を取り合っているから、自然とそうなっただけだ」
「ふーん」
なんか嫌な感じ。
「試験って一週間だったか?」
「うん」
「終わるまでに、チェルノが帰ってくるといいな」
「うん……でもどうして足止めされているんだろう?」
さっきの話を思い出して、首を傾げる。
「そうだな。あまり良くは知らないが、ルキッシュの人たちはかなり伝統を重んじる。外交はするにはするが積極的ではない。チェルノの商品は少し奇抜なものも多いから、持ち込んだものに何か問題があったのかもしれないな」
そっか。発明品を売りたいから、オンリンナの名前を買ったんだっけ。
伝統を重んじるなら、発明品なんて斬新なものは売れなさそう。
「確かに問題、ありそうだね」
「商売上の問題なら、すぐ片付くはずだ。また何か分かったら教えるよ」
「お願いします」
「じゃあ、部屋に戻ろうか?」
ダリルがそう言って、ずっと預けっぱなしだった手を引いた。
すっかり忘れてたよ。
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