このやってられない世界で

みなせ

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「どうだった?」

 馬車がエントランスにつくと、こっちではカークが迎えてくれた。
 扉が開くと同時に手を出されたけど、無視して飛び降りる。
 着地は成功したけど、結局捕まってしまった。
 いつものように、抱きあげられる。

「キーラ、何か変わったもの持ってないか?」

 変ったもの?
 そうだ、アーサーから貰った通信機。
 ポケットに入れておいたブレスレットを出して、カークに渡す。
 馬車がつくことといい、持ち物といい、良く分かるよね。

「これは?」
「家の家令から、魔力を通すと通信が出来るって渡された。使い方は誰かに聞くようにって言っていたけど……分かる?」
「……あぁ」

 カークは頷いて、ブレスレットと私を何度か見比べた。

「……まあいいだろう。じゃあ、中で話を聞こうか」







 カークは私たちを、エントランスに近い応接室へと連れて行った。
 アルマンさんとダリルに座るよう言って、自分も座る。
 私? 当然のように膝の上だ。―――――もうヤダ、と言うのは置いておいて。
 カークは、テーブルにハンカチをひいてブレスレットを置いた。
 ブレスレットは、四つ少し大きな丸い石と、それをつなぐ細かいさざれ石で出来ている。大きな石は、透き 通った赤・青・緑・黄色で、細かい石はいろいろな色と形で特に法則性はなさそう。
 それぞれは綺麗な石だけど、色合いははっきり言ってまとまりがなくてダサい。おしゃれより実用性を求めた、のだろう。

「キーラ、赤い石に触ってもらえるか?」

 カークに言われて、私は赤い石に触れた。
 すっと、魔力が抜けて行き、赤い石が少しだけ色が強くなり、

【……様がいらしてたんでしょう?】

 と、石からリーナの声が聞こえた。
 通信機なんだから声が出るのは当たり前だけど、思わず叫びそうになった。
 カークが分かっていたように私の口をふさいだので、声は出ていない。

【はい、おかえりになっていました】
【アーサーは私が帰ってくる事分かっていたのでしょう? どうして引きとめてくれなかったの?】
【申し訳ございません】
【お義姉さまにお会いしたくて、せっかく早く帰ってきたのに……本当に残念だわ】

 リーナの声は、本当に残念そうに聞こえた。
 聞こえるけど、リーナってこんな感じだったっけ?
 あまりリーナの記憶はないけど、なんか違和感がある。

【キーラお嬢様に、何か御用でしたか?】

 アーサーのいい質問だ。

【えぇ、私、どうしてもお義姉様に聞きたいことがあったの。ねぇ、アーサー。お義姉様、私のこと何か言っていた?】
【いいえ】
【本当に?】
【はい】

 アーサーは、嘘は言っていない。だけどリーナは不満そうだ。
 何だろう、リーナの雰囲気が違う気がする。
 不思議に思って、私はカークを見上げた。
 カークはじっとブレスレットを見つめている。

【そう、でもお義姉様、どうして急に戻られたのかしら?】
【……それは、分かりかねます】
【でも、お部屋まで行ったのよね? 貴方とマリーが付き添っていたと聞いたけど】

 声しか聞こえないけれど、探り合うような空気がこっちにまで漂ってくる。

【はい、必要なものがあるとおっしゃるので、付き添いました】
【そう………】

 急にリーナの声がかすれ、音が途切れた。
 カークがブレスレットの上で手をひらひらさせ、肩をすくめた。

「魔力切れだな」
「じゃあ、もう一回……」
「いや、止めよう」

 カークが、私が手を伸ばすのを止めた。

「カーク、これって双方向なの?」
「いや。一方通行だ」

 え、じゃあしゃべっても良かったってこと?

「……多分」

 ……まぁ、いいや。それより、リーナに感じた違和感だ。


「カーク、リーナってこんな感じだったっけ?」
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