102 / 336
102
しおりを挟む
夕食後、カークと一緒にあの部屋へ向かった。
「こっちに座って」
ソファーに向かい合って座ると、カークは手をひらひらさせた。
キン、って音がして、空気が変わる。
耳に水が入ったときみたいな閉塞感と耳鳴りに、自然と眉がよった。
カークは、そんな私の目の前に一枚の紙を差しだした。
金の蔦で縁取りされたその紙には、物凄く細かな文字で何かたくさん書いてあった。
よくこの紙の中にこんなに書いたよなってくらいの量だ。
「これ、読むの?」
目は悪い方じゃないと思うけど、あまりに文字が小さくてはっきり言って読めそうにない。虫眼鏡が必要だと思う。
「大丈夫だ、読まなくて」
「は?」
契約書でしょ?
普通読むでしょ?
「紙の端に触ってみて」
私が口を開く前に、カークがそう言った。
顔をしかめたまま言われた通り紙の端に触ると、魔力が抜かれた。
量は多くないけれど、少しずつ魔力が抜けて行くと同時に、紙の上の文字が私の触れた方から順に輝きだす。
広がるように全部の文字に光がともると、今度はその文字が空に浮かび上がった。
文字はスルスルと一本に連なって天井まで伸びて行き、新体操のリボンみたいにくるくると円を描きながら降りてきた。
そして私のちょうど目の前を、最初の文から通り過ぎていく。
読むと言うより見るって感じで、物凄いスピードで通り過ぎるのに、ごく自然にその文字は頭に入ってきた。
時間にして数分くらいだろうか。
最後の文字が終わると、空にあった文字はまた紙へと戻って行き、紙が最初の状態に戻ると、頭の中の文字が文章へと変換された。
文字が文章になるに従って、内容が分かってくる。
「どう?」
頭の中の処理が追いつかなくて目を瞬かせていると、カークが聞いてきた。
「どうと言われても」
「キーラにとって悪いことは書いていないだろう?」
「今のところは」
今見ているのは、王家との関係とか、当主の義務とか道徳的なことだ。
言い回しも難しくないし、特に変だと思うようなことは書かれていない。
「えーっと、契約って、これだけ?」
「今回の契約は、王家がキーラをオンリンナの当主として認めると言う基本の契約だ」
「基本ってことはまだあるの?」
「あぁ、たくさんある。本当は全部一気に契約したほうが楽だけど、キーラにはまだ無理だと思うから、彼らを追い出すために必要なものだけを入れておいた」
「この契約で追い出せるの?」
なんだか良く分からない。
「出て行ってもらうよ。あの家はオンリンナの物なのだから」
「そうだけど、そんなに簡単にあの人たち出て行くかな?」
絶対何かいいがかりをつけて居座りそう。
「キーラが出て行けと言えば、出て行かないわけにはいかないだろう?」
それが言えたら、こんなことになってないでしょ。
なんとも言えなくて顔をしかめる。
「キーラと何の関係もない者が、オンリンナを名乗るのは許されない」
「でも、名前だから、使おうと思えば使えるんじゃないの?」
「名乗ることは出来るかもしれないけど、キーラがサインをした時点で、彼らが書いたすべての契約書から“オンリンナ”の部分が消えることになる」
「へ?」
どう言うこと?
「彼らがオンリンナを名乗れるのは、カーラとの契約がキーラによって継続されてしまったからだ。カーラが当主になった時、結婚についても新しく契約し直すべきところが抜けていて、宙ぶらりんになった契約を血によってキーラが受け継いだ。今キーラが当主になれば、その契約はまた宙ぶらりんになる。受け継ぐのはキーラだけだから、キーラの意思で契約は終わらせられる。今は、カーラの夫としてオンリンナを名乗っているけど、キーラがサインをした時点で、カーラの夫と言う立場ではもうオンリンナの名前は使えなくなる。契約が無くなれば彼らはオンリンナではなくなるってこと」
それがこの国の契約だよ。
とカークがにっこりと笑った。
「こっちに座って」
ソファーに向かい合って座ると、カークは手をひらひらさせた。
キン、って音がして、空気が変わる。
耳に水が入ったときみたいな閉塞感と耳鳴りに、自然と眉がよった。
カークは、そんな私の目の前に一枚の紙を差しだした。
金の蔦で縁取りされたその紙には、物凄く細かな文字で何かたくさん書いてあった。
よくこの紙の中にこんなに書いたよなってくらいの量だ。
「これ、読むの?」
目は悪い方じゃないと思うけど、あまりに文字が小さくてはっきり言って読めそうにない。虫眼鏡が必要だと思う。
「大丈夫だ、読まなくて」
「は?」
契約書でしょ?
普通読むでしょ?
「紙の端に触ってみて」
私が口を開く前に、カークがそう言った。
顔をしかめたまま言われた通り紙の端に触ると、魔力が抜かれた。
量は多くないけれど、少しずつ魔力が抜けて行くと同時に、紙の上の文字が私の触れた方から順に輝きだす。
広がるように全部の文字に光がともると、今度はその文字が空に浮かび上がった。
文字はスルスルと一本に連なって天井まで伸びて行き、新体操のリボンみたいにくるくると円を描きながら降りてきた。
そして私のちょうど目の前を、最初の文から通り過ぎていく。
読むと言うより見るって感じで、物凄いスピードで通り過ぎるのに、ごく自然にその文字は頭に入ってきた。
時間にして数分くらいだろうか。
最後の文字が終わると、空にあった文字はまた紙へと戻って行き、紙が最初の状態に戻ると、頭の中の文字が文章へと変換された。
文字が文章になるに従って、内容が分かってくる。
「どう?」
頭の中の処理が追いつかなくて目を瞬かせていると、カークが聞いてきた。
「どうと言われても」
「キーラにとって悪いことは書いていないだろう?」
「今のところは」
今見ているのは、王家との関係とか、当主の義務とか道徳的なことだ。
言い回しも難しくないし、特に変だと思うようなことは書かれていない。
「えーっと、契約って、これだけ?」
「今回の契約は、王家がキーラをオンリンナの当主として認めると言う基本の契約だ」
「基本ってことはまだあるの?」
「あぁ、たくさんある。本当は全部一気に契約したほうが楽だけど、キーラにはまだ無理だと思うから、彼らを追い出すために必要なものだけを入れておいた」
「この契約で追い出せるの?」
なんだか良く分からない。
「出て行ってもらうよ。あの家はオンリンナの物なのだから」
「そうだけど、そんなに簡単にあの人たち出て行くかな?」
絶対何かいいがかりをつけて居座りそう。
「キーラが出て行けと言えば、出て行かないわけにはいかないだろう?」
それが言えたら、こんなことになってないでしょ。
なんとも言えなくて顔をしかめる。
「キーラと何の関係もない者が、オンリンナを名乗るのは許されない」
「でも、名前だから、使おうと思えば使えるんじゃないの?」
「名乗ることは出来るかもしれないけど、キーラがサインをした時点で、彼らが書いたすべての契約書から“オンリンナ”の部分が消えることになる」
「へ?」
どう言うこと?
「彼らがオンリンナを名乗れるのは、カーラとの契約がキーラによって継続されてしまったからだ。カーラが当主になった時、結婚についても新しく契約し直すべきところが抜けていて、宙ぶらりんになった契約を血によってキーラが受け継いだ。今キーラが当主になれば、その契約はまた宙ぶらりんになる。受け継ぐのはキーラだけだから、キーラの意思で契約は終わらせられる。今は、カーラの夫としてオンリンナを名乗っているけど、キーラがサインをした時点で、カーラの夫と言う立場ではもうオンリンナの名前は使えなくなる。契約が無くなれば彼らはオンリンナではなくなるってこと」
それがこの国の契約だよ。
とカークがにっこりと笑った。
1
お気に入りに追加
301
あなたにおすすめの小説
どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。
モブ令嬢はモブとして生きる~周回を極めた私がこっそり国を救います!~
片海 鏡
ファンタジー
――――主人公の為に世界は回っていない。私はやりたい様にエンディングを目指す
RPG顔負けのやり込み要素満載な恋愛ゲーム《アルカディアの戦姫》の世界へと転生をした男爵令嬢《ミューゼリア》
最初はヒロインの行動を先読みしてラストバトルに備えようと思ったが、私は私だと自覚して大好きな家族を守る為にも違う方法を探そうと決心する。そんなある日、屋敷の敷地にある小さな泉から精霊が現れる。
ヒーロー候補との恋愛はしない。学園生活は行事を除くの全イベントガン無視。聖なるアイテムの捜索はヒロインにおまかせ。ダンジョン攻略よりも、生態調査。ヒロインとは違う行動をしてこそ、掴める勝利がある!
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる