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「無くなった?」
デリックは気にしていないようだけど、さっきからずっと聞き返すことしか出来ていない。
「そうです、急に信じる気持ちが無くなって、私は混乱しました。あの後もリーナ嬢と行動を共にしていましたが、それまでとは明らかに自分の気持ちが違っていました。何故自分がリーナ嬢と共にあるのか、何のために貴女を殴ったのかと疑問しか浮かばなくなってしまったのです。そして、貴女は私を責めることなく姿を消してしまった」
「それは……責めても仕方がないことだし」
あの時のことを思い出して、手が震える。
殴られたことは覚えているけど、それは他人ごとみたいだった。
デリックが殴ろうとした瞬間から殴られるまでの、そのほんの少しの時間の記憶があいまいなのだ。
実感したのは殴られたという事と、殴られた痛みだけ。
怒りはあったが、転生だと知って記憶も混乱していたし、鼻血も出てたし、なにより言っても無駄だと思った。
「分かっています。私の行動はおかしかった。キーラ嬢は何もしていないのに勝手に貴女を敵にしていた。殿下もいらっしゃって、あんなことになって、あの時までの私たちの態度で、貴女が何か言える筈がなかった。それが普通だったのに、リーナ嬢の姉妹だからと、それに気がつかなかった。」
デリックが言いながら落ち着かせるように、そっと私の手にその手を重ねてきた。
「リーナ嬢のことで混乱していた私は、あの後貴女に謝ることだけを考えていました。私は騎士としてしてはいけないことをしたのです。あのままでは、アディソン家にも、殿下の側にもいられない、そう思いました。だから私は私のために貴女に謝りたかった。ですが、貴女の家に行って、貴女の前に立って貴女の話を聞いているうちに、私はキーラ嬢に何かを感じました」
「何か?」
「私は、貴女こそが守るべきものだと、そう思ったのです」
あれ? えーっと、また何か、話が変な方向に行ってない?
「私はあの時まだ殿下と契約を結んでいませんでしたが、契約を結び、殿下から貴女を婚約者にすると聞いた今なら分かります。あの時の私の判断は、貴女に誓いを捧げたことは間違っていなかったと」
「あのね、デリック、私、カークとは」
慌ててその言葉を遮るけど、デリックは驚くほどの笑顔で続けた。
「私たちアディソン家は王家が選んだ方を守るのが仕事です。殿下はキーラ嬢を選ばれた。ですから、今は殿下のために、私は貴女を守ります」
「デリック、話を聞いて。私は……」
「大丈夫です。もし殿下と離れることがあったら、その時は私個人として貴女を守りますから」
デリックはそう言って、口をバクパクさせている私の指先にキスをした。ダリルと同じように。
言ってることもかなり気になるけど、どさくさにまぎれて絶対またなんかした。
「デリック、今また変なことしてない?」
「変なこと、とは?」
「……カークが怒りそうなこと」
「何もしていませんよ」
手を握ったまま上目遣いで、デリックがとぼけた……んだと思う。
その顔がすごくいらつく、あの時のダリルにそっくりだ。ムッとして手を引き抜こうとしたけど、今度は離してくれない。
「デリック、手を離して」
「……ピアスの色が青に戻りましたね」
私を無視して、デリックが立ち上がった。つながれた手のせいで、私も立ち上がる。
「来た道を戻って、色が変わるか確かめましょう。私の時に眠ってしまわれると、本当に殿下に怒られてしまいます」
デリックは少し寂しそうにそう言って歩き出した。
デリックは気にしていないようだけど、さっきからずっと聞き返すことしか出来ていない。
「そうです、急に信じる気持ちが無くなって、私は混乱しました。あの後もリーナ嬢と行動を共にしていましたが、それまでとは明らかに自分の気持ちが違っていました。何故自分がリーナ嬢と共にあるのか、何のために貴女を殴ったのかと疑問しか浮かばなくなってしまったのです。そして、貴女は私を責めることなく姿を消してしまった」
「それは……責めても仕方がないことだし」
あの時のことを思い出して、手が震える。
殴られたことは覚えているけど、それは他人ごとみたいだった。
デリックが殴ろうとした瞬間から殴られるまでの、そのほんの少しの時間の記憶があいまいなのだ。
実感したのは殴られたという事と、殴られた痛みだけ。
怒りはあったが、転生だと知って記憶も混乱していたし、鼻血も出てたし、なにより言っても無駄だと思った。
「分かっています。私の行動はおかしかった。キーラ嬢は何もしていないのに勝手に貴女を敵にしていた。殿下もいらっしゃって、あんなことになって、あの時までの私たちの態度で、貴女が何か言える筈がなかった。それが普通だったのに、リーナ嬢の姉妹だからと、それに気がつかなかった。」
デリックが言いながら落ち着かせるように、そっと私の手にその手を重ねてきた。
「リーナ嬢のことで混乱していた私は、あの後貴女に謝ることだけを考えていました。私は騎士としてしてはいけないことをしたのです。あのままでは、アディソン家にも、殿下の側にもいられない、そう思いました。だから私は私のために貴女に謝りたかった。ですが、貴女の家に行って、貴女の前に立って貴女の話を聞いているうちに、私はキーラ嬢に何かを感じました」
「何か?」
「私は、貴女こそが守るべきものだと、そう思ったのです」
あれ? えーっと、また何か、話が変な方向に行ってない?
「私はあの時まだ殿下と契約を結んでいませんでしたが、契約を結び、殿下から貴女を婚約者にすると聞いた今なら分かります。あの時の私の判断は、貴女に誓いを捧げたことは間違っていなかったと」
「あのね、デリック、私、カークとは」
慌ててその言葉を遮るけど、デリックは驚くほどの笑顔で続けた。
「私たちアディソン家は王家が選んだ方を守るのが仕事です。殿下はキーラ嬢を選ばれた。ですから、今は殿下のために、私は貴女を守ります」
「デリック、話を聞いて。私は……」
「大丈夫です。もし殿下と離れることがあったら、その時は私個人として貴女を守りますから」
デリックはそう言って、口をバクパクさせている私の指先にキスをした。ダリルと同じように。
言ってることもかなり気になるけど、どさくさにまぎれて絶対またなんかした。
「デリック、今また変なことしてない?」
「変なこと、とは?」
「……カークが怒りそうなこと」
「何もしていませんよ」
手を握ったまま上目遣いで、デリックがとぼけた……んだと思う。
その顔がすごくいらつく、あの時のダリルにそっくりだ。ムッとして手を引き抜こうとしたけど、今度は離してくれない。
「デリック、手を離して」
「……ピアスの色が青に戻りましたね」
私を無視して、デリックが立ち上がった。つながれた手のせいで、私も立ち上がる。
「来た道を戻って、色が変わるか確かめましょう。私の時に眠ってしまわれると、本当に殿下に怒られてしまいます」
デリックは少し寂しそうにそう言って歩き出した。
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