91 / 336
91
しおりを挟む
「綺麗な庭ですね」
「そうだね」
食事が終わって、デリックともお散歩になった。ケビンからそうするように言われたらしい。
毎回同じ方向だと飽きるからと言って、今回は逆回りに歩き出す。
小道は変わりないが、こちら側は少し背の高い並木が続いている。
自分のペースで歩いているから、ケビンの時より進みもゆっくりだけど、気分はいい。
真面目なデリックはちらちらと私の右耳を見る。
私も時々鏡で右耳を見る。
色が変わるところを見てみたい。でも歩き始めたばかりだから、ピアスの色はまだ青のままだ。
なかなか色は変わりそうにないので、私はケビンに聞いたことと同じことをデリックにも聞いてみた。
「デリックはカークといつからの付き合いなの?」
「殿下とですか? 確か十二歳くらいでしょうか。フランクと一緒に遊び仲間として紹介されました」
デリックは少し考えながらそう言った。
「遊び仲間?」
「はい、学園へ通うようになるまで、一緒に勉強したり、街へ出かけたりと……友人として過ごさせていただきました」
デリックは何かを思い出したのか楽しそうだ。
「そうなんだ。カークって昔からあんな感じだったの?」
「あんな感じ、とは?」
「強引って言うか、上から目線って言うか」
「昔も、今も、そんなことありません、多分……」
「多分?」
「貴方が係わっているからでしょう」
その答えに、私は顔をしかめる。
「婚約する、のでしょう?」
「……デリックはそのこと、どう言う風に聞いているの?」
デリックは足を止めて、私の右耳を見た。
「……一度座りましょう。少し赤くなってきました」
そして、小道脇に置かれたベンチを指差した。
私も鏡を出してピアスを見ると、濃い紫色になっている。
「デリックも座ったら?」
「私なら大丈夫ですよ」
ベンチの斜め前くらいに立って、笑顔で断わられる。
「先ほどの質問の続きですが、婚約するから護衛しろ、とだけ聞いています」
「それだけ?」
「そうです」
「それでいいの?」
「私が何か意見を言うことではありませんから」
困ったような表情をされる。
こんな話をしてからするべきじゃないんだろうけど。
「どうしてあの時」
「あの時、とは?」
「オンリンナ家の私の部屋で」
どう説明していいか分からずぼそぼそとそう言うと、デリックが大きく頷いた。
「あぁ、あの時ですか。私がキーラ嬢を殴った時ですね。それが何か?」
「……あの時までデリックは、リーナのことが……好きだった、はずでしょう? どうして急にあんな……誓いなんて」
デリックの顔から表情が消える。
あぁ、聞いちゃいけないことだったんだ……そう思って、足元へと視線を落とす。
小さな吐息の後、デリックが私の方へと近づいてきた。
「キーラ嬢」
名を呼ばれ顔を上げると、デリックが私の前に跪いていた。
びっくりして身を引く。
「確かに私は貴方を殴ったとき、リーナ嬢のことを好き……いえ、何と言えばいいか、そうですね信じていました。貴方に手を上げたあの瞬間まで、殿下の側にいるにふさわしい方だと、そう思っていました」
言いながら、嫌そうに顔をしかめる。
「そして、信じていただけるか分かりませんが、あの瞬間まで私は貴方が私の手を避けると思っていたのです」
「それは……」
そうだろう、ゲームでキーラは、デリックの攻撃を華麗に避けるんだから。
デリックが強制力で動いていたなら、そう思って当然だ。
そう思わなければ、デリックが女の子に対して手を上げたり絶対しないだろう。
「良く考えれば、普通の女性である貴方が避けられる筈がないと分かるのに、あのときの私は避けるのが当たり前だと思い込んでいました。ですが、貴方に私の手が触れた瞬間、その何もかもが変わってしまったんです」
「変わった?」
「そうです。私はリーナ嬢を信じていましたが、あの瞬間、その気持ちが私の中からすべて無くなったのです」
「そうだね」
食事が終わって、デリックともお散歩になった。ケビンからそうするように言われたらしい。
毎回同じ方向だと飽きるからと言って、今回は逆回りに歩き出す。
小道は変わりないが、こちら側は少し背の高い並木が続いている。
自分のペースで歩いているから、ケビンの時より進みもゆっくりだけど、気分はいい。
真面目なデリックはちらちらと私の右耳を見る。
私も時々鏡で右耳を見る。
色が変わるところを見てみたい。でも歩き始めたばかりだから、ピアスの色はまだ青のままだ。
なかなか色は変わりそうにないので、私はケビンに聞いたことと同じことをデリックにも聞いてみた。
「デリックはカークといつからの付き合いなの?」
「殿下とですか? 確か十二歳くらいでしょうか。フランクと一緒に遊び仲間として紹介されました」
デリックは少し考えながらそう言った。
「遊び仲間?」
「はい、学園へ通うようになるまで、一緒に勉強したり、街へ出かけたりと……友人として過ごさせていただきました」
デリックは何かを思い出したのか楽しそうだ。
「そうなんだ。カークって昔からあんな感じだったの?」
「あんな感じ、とは?」
「強引って言うか、上から目線って言うか」
「昔も、今も、そんなことありません、多分……」
「多分?」
「貴方が係わっているからでしょう」
その答えに、私は顔をしかめる。
「婚約する、のでしょう?」
「……デリックはそのこと、どう言う風に聞いているの?」
デリックは足を止めて、私の右耳を見た。
「……一度座りましょう。少し赤くなってきました」
そして、小道脇に置かれたベンチを指差した。
私も鏡を出してピアスを見ると、濃い紫色になっている。
「デリックも座ったら?」
「私なら大丈夫ですよ」
ベンチの斜め前くらいに立って、笑顔で断わられる。
「先ほどの質問の続きですが、婚約するから護衛しろ、とだけ聞いています」
「それだけ?」
「そうです」
「それでいいの?」
「私が何か意見を言うことではありませんから」
困ったような表情をされる。
こんな話をしてからするべきじゃないんだろうけど。
「どうしてあの時」
「あの時、とは?」
「オンリンナ家の私の部屋で」
どう説明していいか分からずぼそぼそとそう言うと、デリックが大きく頷いた。
「あぁ、あの時ですか。私がキーラ嬢を殴った時ですね。それが何か?」
「……あの時までデリックは、リーナのことが……好きだった、はずでしょう? どうして急にあんな……誓いなんて」
デリックの顔から表情が消える。
あぁ、聞いちゃいけないことだったんだ……そう思って、足元へと視線を落とす。
小さな吐息の後、デリックが私の方へと近づいてきた。
「キーラ嬢」
名を呼ばれ顔を上げると、デリックが私の前に跪いていた。
びっくりして身を引く。
「確かに私は貴方を殴ったとき、リーナ嬢のことを好き……いえ、何と言えばいいか、そうですね信じていました。貴方に手を上げたあの瞬間まで、殿下の側にいるにふさわしい方だと、そう思っていました」
言いながら、嫌そうに顔をしかめる。
「そして、信じていただけるか分かりませんが、あの瞬間まで私は貴方が私の手を避けると思っていたのです」
「それは……」
そうだろう、ゲームでキーラは、デリックの攻撃を華麗に避けるんだから。
デリックが強制力で動いていたなら、そう思って当然だ。
そう思わなければ、デリックが女の子に対して手を上げたり絶対しないだろう。
「良く考えれば、普通の女性である貴方が避けられる筈がないと分かるのに、あのときの私は避けるのが当たり前だと思い込んでいました。ですが、貴方に私の手が触れた瞬間、その何もかもが変わってしまったんです」
「変わった?」
「そうです。私はリーナ嬢を信じていましたが、あの瞬間、その気持ちが私の中からすべて無くなったのです」
1
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました
葉月キツネ
ファンタジー
目が覚めると昔やり込んだ乙女ゲーム「白銀の騎士物語」の悪役令嬢フランソワになっていた!
本来ならメインヒロインの引き立て役になるはずの私…だけどせっかくこんな乙女ゲームのキャラになれたのなら思うがままにしないと勿体ないわ!
推しを含めたイケメン近衛騎士で私を囲ってもらって第二の人生楽しみます
【完結】乙女ゲームに転生した転性者(♂→♀)は純潔を守るためバッドエンドを目指す
狸田 真 (たぬきだ まこと)
ファンタジー
男♂だったのに、転生したら転性して性別が女♀になってしまった! しかも、乙女ゲームのヒロインだと!? 男の記憶があるのに、男と恋愛なんて出来るか!! という事で、愛(夜の営み)のない仮面夫婦バッドエンドを目指します!
主人公じゃなくて、勘違いが成長する!? 新感覚勘違いコメディファンタジー!
※現在アルファポリス限定公開作品
※2020/9/15 完結
※シリーズ続編有り!
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています
真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。
なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。
更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!
変態が大変だ! いや大変な変態だ!
お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~!
しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~!
身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。
操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる