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「綺麗な庭ですね」
「そうだね」
食事が終わって、デリックともお散歩になった。ケビンからそうするように言われたらしい。
毎回同じ方向だと飽きるからと言って、今回は逆回りに歩き出す。
小道は変わりないが、こちら側は少し背の高い並木が続いている。
自分のペースで歩いているから、ケビンの時より進みもゆっくりだけど、気分はいい。
真面目なデリックはちらちらと私の右耳を見る。
私も時々鏡で右耳を見る。
色が変わるところを見てみたい。でも歩き始めたばかりだから、ピアスの色はまだ青のままだ。
なかなか色は変わりそうにないので、私はケビンに聞いたことと同じことをデリックにも聞いてみた。
「デリックはカークといつからの付き合いなの?」
「殿下とですか? 確か十二歳くらいでしょうか。フランクと一緒に遊び仲間として紹介されました」
デリックは少し考えながらそう言った。
「遊び仲間?」
「はい、学園へ通うようになるまで、一緒に勉強したり、街へ出かけたりと……友人として過ごさせていただきました」
デリックは何かを思い出したのか楽しそうだ。
「そうなんだ。カークって昔からあんな感じだったの?」
「あんな感じ、とは?」
「強引って言うか、上から目線って言うか」
「昔も、今も、そんなことありません、多分……」
「多分?」
「貴方が係わっているからでしょう」
その答えに、私は顔をしかめる。
「婚約する、のでしょう?」
「……デリックはそのこと、どう言う風に聞いているの?」
デリックは足を止めて、私の右耳を見た。
「……一度座りましょう。少し赤くなってきました」
そして、小道脇に置かれたベンチを指差した。
私も鏡を出してピアスを見ると、濃い紫色になっている。
「デリックも座ったら?」
「私なら大丈夫ですよ」
ベンチの斜め前くらいに立って、笑顔で断わられる。
「先ほどの質問の続きですが、婚約するから護衛しろ、とだけ聞いています」
「それだけ?」
「そうです」
「それでいいの?」
「私が何か意見を言うことではありませんから」
困ったような表情をされる。
こんな話をしてからするべきじゃないんだろうけど。
「どうしてあの時」
「あの時、とは?」
「オンリンナ家の私の部屋で」
どう説明していいか分からずぼそぼそとそう言うと、デリックが大きく頷いた。
「あぁ、あの時ですか。私がキーラ嬢を殴った時ですね。それが何か?」
「……あの時までデリックは、リーナのことが……好きだった、はずでしょう? どうして急にあんな……誓いなんて」
デリックの顔から表情が消える。
あぁ、聞いちゃいけないことだったんだ……そう思って、足元へと視線を落とす。
小さな吐息の後、デリックが私の方へと近づいてきた。
「キーラ嬢」
名を呼ばれ顔を上げると、デリックが私の前に跪いていた。
びっくりして身を引く。
「確かに私は貴方を殴ったとき、リーナ嬢のことを好き……いえ、何と言えばいいか、そうですね信じていました。貴方に手を上げたあの瞬間まで、殿下の側にいるにふさわしい方だと、そう思っていました」
言いながら、嫌そうに顔をしかめる。
「そして、信じていただけるか分かりませんが、あの瞬間まで私は貴方が私の手を避けると思っていたのです」
「それは……」
そうだろう、ゲームでキーラは、デリックの攻撃を華麗に避けるんだから。
デリックが強制力で動いていたなら、そう思って当然だ。
そう思わなければ、デリックが女の子に対して手を上げたり絶対しないだろう。
「良く考えれば、普通の女性である貴方が避けられる筈がないと分かるのに、あのときの私は避けるのが当たり前だと思い込んでいました。ですが、貴方に私の手が触れた瞬間、その何もかもが変わってしまったんです」
「変わった?」
「そうです。私はリーナ嬢を信じていましたが、あの瞬間、その気持ちが私の中からすべて無くなったのです」
「そうだね」
食事が終わって、デリックともお散歩になった。ケビンからそうするように言われたらしい。
毎回同じ方向だと飽きるからと言って、今回は逆回りに歩き出す。
小道は変わりないが、こちら側は少し背の高い並木が続いている。
自分のペースで歩いているから、ケビンの時より進みもゆっくりだけど、気分はいい。
真面目なデリックはちらちらと私の右耳を見る。
私も時々鏡で右耳を見る。
色が変わるところを見てみたい。でも歩き始めたばかりだから、ピアスの色はまだ青のままだ。
なかなか色は変わりそうにないので、私はケビンに聞いたことと同じことをデリックにも聞いてみた。
「デリックはカークといつからの付き合いなの?」
「殿下とですか? 確か十二歳くらいでしょうか。フランクと一緒に遊び仲間として紹介されました」
デリックは少し考えながらそう言った。
「遊び仲間?」
「はい、学園へ通うようになるまで、一緒に勉強したり、街へ出かけたりと……友人として過ごさせていただきました」
デリックは何かを思い出したのか楽しそうだ。
「そうなんだ。カークって昔からあんな感じだったの?」
「あんな感じ、とは?」
「強引って言うか、上から目線って言うか」
「昔も、今も、そんなことありません、多分……」
「多分?」
「貴方が係わっているからでしょう」
その答えに、私は顔をしかめる。
「婚約する、のでしょう?」
「……デリックはそのこと、どう言う風に聞いているの?」
デリックは足を止めて、私の右耳を見た。
「……一度座りましょう。少し赤くなってきました」
そして、小道脇に置かれたベンチを指差した。
私も鏡を出してピアスを見ると、濃い紫色になっている。
「デリックも座ったら?」
「私なら大丈夫ですよ」
ベンチの斜め前くらいに立って、笑顔で断わられる。
「先ほどの質問の続きですが、婚約するから護衛しろ、とだけ聞いています」
「それだけ?」
「そうです」
「それでいいの?」
「私が何か意見を言うことではありませんから」
困ったような表情をされる。
こんな話をしてからするべきじゃないんだろうけど。
「どうしてあの時」
「あの時、とは?」
「オンリンナ家の私の部屋で」
どう説明していいか分からずぼそぼそとそう言うと、デリックが大きく頷いた。
「あぁ、あの時ですか。私がキーラ嬢を殴った時ですね。それが何か?」
「……あの時までデリックは、リーナのことが……好きだった、はずでしょう? どうして急にあんな……誓いなんて」
デリックの顔から表情が消える。
あぁ、聞いちゃいけないことだったんだ……そう思って、足元へと視線を落とす。
小さな吐息の後、デリックが私の方へと近づいてきた。
「キーラ嬢」
名を呼ばれ顔を上げると、デリックが私の前に跪いていた。
びっくりして身を引く。
「確かに私は貴方を殴ったとき、リーナ嬢のことを好き……いえ、何と言えばいいか、そうですね信じていました。貴方に手を上げたあの瞬間まで、殿下の側にいるにふさわしい方だと、そう思っていました」
言いながら、嫌そうに顔をしかめる。
「そして、信じていただけるか分かりませんが、あの瞬間まで私は貴方が私の手を避けると思っていたのです」
「それは……」
そうだろう、ゲームでキーラは、デリックの攻撃を華麗に避けるんだから。
デリックが強制力で動いていたなら、そう思って当然だ。
そう思わなければ、デリックが女の子に対して手を上げたり絶対しないだろう。
「良く考えれば、普通の女性である貴方が避けられる筈がないと分かるのに、あのときの私は避けるのが当たり前だと思い込んでいました。ですが、貴方に私の手が触れた瞬間、その何もかもが変わってしまったんです」
「変わった?」
「そうです。私はリーナ嬢を信じていましたが、あの瞬間、その気持ちが私の中からすべて無くなったのです」
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