このやってられない世界で

みなせ

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 カークと庭に出て、花を見ていた筈なのに、気が付いたらベッドの中だった。
 いつの間に寝たのかも覚えていない。

 窓の外はまだ少し明るいから、夕方だろうか?
 それにしても、昼寝には長すぎる。
 そんなに弱くない……と思っていたけど、これがもし体力的な問題なら、確かに結構やばい、と思う。

 とりあえず布団から出て、靴下と靴を履いてみた。
 ワンピースはそのままだけど、靴と靴下は履いていなかった。一体誰が脱がしたのか凄く気になるが、アリーダさんでもカークでも、ただただ申し訳ない。

「御目覚めですか?」

 ベッドに腰掛けてぼんやり庭を見ていると、アリーダさんが入ってきた。

「お坊ちゃまが一緒に夕食をと。あらあら、お洋服がしわになっていますね。お着替えもしましょうか」

 着替えはいいのにと思いながらも、流されるままに身支度をされ、夕食会場へと案内された。
 そこは、ちょっと広めの会議室みたいな場所だった。
 カークはすでに一番奥の席に座っていて、その向かいにケビン、デリック、そしてダリルがいた。

「キーラはこっちへ」

 カークが言って、アルマンさんがカークの隣の椅子を引いた。視線を感じながら席に着くと、すぐに食事が始まる。
 どうやら前菜から始まるフルコースらしい。
 とりとめない話をしながら何皿目かが終わったところで、カークがそう言えばと私を見た。

「ダリルとはどこで会ったんだ?」
「え」
「いつだったかケビンが言っていたアディソン家の加護はダリルだろう? いつどこでそんなことに?」

 今、分かったからなのか、前から分かっていてわざわざ今なのか。
 何と言っていいか分からずに向かいの三人をみると、ケビンは気の毒そうな顔で、デリックは驚きの顔で、ダリルは無表情だった。

「ダリル、説明は?」

 笑顔なのに冷たい空気を出しているカークをよそに、音もなく皆の前には新しい皿がセットされる。
 そして何故か、アリーダさんを始めとする給仕の人が部屋から消えた。空気を読んだのか……
 せっかくの食事なのに、なんで急に怖いことに?

「兄さん、いつの間にキーラ嬢に接触を? 加護ってどう言うことですか?」

 誰も声を出せないまま、数分の沈黙の後、デリックがダリルに問いかけた。
 その声にはカークほどではないが、何故か怒りが含まれている。
 ダリルは大きく息を吐いて、カークへと視線を動かした。

「デリックがキーラ嬢を殴った日、私は父にそのことを報告しました。リーナ嬢とキーラ嬢については学園の保護者からも陳情が多かったため、これを機にキーラ嬢を探るようの命が下されました。私は翌日より調査を開始し、キーラ嬢に彼女の勤め先にて接触、デリックの違法行為とキーラ嬢に関する報告の真偽を確認しました。キーラ嬢は愚弟の不始末を不問としてくださるとのことでしたので、感謝の意を伝えるため怪我の治療と加護を少し差し上げました」

 一息にそう言って、ダリルが今度は私を見た。

「キーラ、そうなの?」

 トントン、ってテーブルを人差し指で叩きながら、カークも私を見る。
 うーん、その間にいろいろあったけど、間違ってはいない。

「そうです。調査は分かりませんが、治療してもらいました」
「そう」

 納得したのかは分からないが、カークの周りの温度が普通になった。
 向かい側の三人が息をつき、いつの間にか戻ってきたアリーダさんたちによって食事が再開する。

「ダリルの加護はどのくらいまで対応できる? 学園内でキーラが襲われた時、分かっていたか?」
「はい、ですが学園内のことでしたので、行動は控えました」

 カークの問いに、ダリルが答えた。
 そうなんだ。加護ってかなり性能がいいんだ。子供向けってアーサーは言ってたけど。

「キーラ、明日からは二人のどちらかと行動するように」
「?」
「外に出る時はデリックかダリルが必ず一緒に行動する。なるべく今から一緒にいて慣れるように」

 そういうのって、慣れるものなの?
 はぁ、なんて首を傾げていると、

「暫くは体力作りが主になるから、自然と一緒にいることになると思うが……あぁ、そうだ。ケビン、頼んでおいたもの出来たか?」

 と今度はケビンに向かってそんなことを言う。

「あぁ、後で渡すよ。なかなかうまく出来たと思う」
「それはよかった。じゃあ食後にキーラの部屋で」

 え、今度は私、何されるの?

 いつもより多い食事に胃は限界だし、なんだかどこに食べたか分からないまま、変な食事会は終わった。
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