このやってられない世界で

みなせ

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 とりあえずテーブルの方への誘導には成功した。

 え? 警戒してるって? 

 ……してるよ。流石にあれを読んだら、少しは警戒するよね。
 しないとおかしいよね?
 もうカークには結構いろいろやられてるけど、今までは不可抗力な部分もあったし、助けてもらったところもあるから、今までの分はしょうがないってことにして。


 仕切り直しだ。



 さあ、座ろうと思ったところで、カークに腕を掴まれた。
 なんで掴むの? って言うか、せっかく遠い席選んだのに近い。
 
「一人で何をしていたんだ?」
「え? 何って言われても」
「アリーダはもうキーラは休むからと言っていた」

 それって、私が起きてたことに対する八つ当たりかよ。

「私だっていろいろ考えることがあります!」

 腕を振り払って距離をとる。

「学園のこととか、家のこととか、自分のこととか、これからどうしようとか!」

 そう叫んで、カークを睨みつける。
 自分で勝手に来たくせに、何言ってんのよ。

「すまない、でもこの部屋には何もないから」
「何もなくたって、考えることはできます。だいたい明日の午後って言ったのに、待てなかったんですか?」
「あぁ、待てなかった」

 言うと同時に腕が引っ張られて、抱きすくめられた。

「ちょっと!」

 とりあえず叫んで、その腕から逃れるために暴れる。

「嫌だ! はなしてってばっ!」

 両手を思い切り振りまわすけど、カークは全然堪えてない。
 それどころかその腕にさらに力を込められた。
 諦めて、抱きしめられたままため息をつく。

「キーラ」

 黙ってこうしていれば、そのうち開放されるだろうなんて思っていたら、名を呼ばれた。でも、それに応えてはいけない。
 嫌な予感しかしない。

「キーラ、顔を見せて」

 そう言って、カークは少しだけ腕の力を緩める。
 絶対上を見ちゃだめだ。

「嫌」
「キーラ、何もしないから」

 絶対嘘だ。何かしようとしている。
 俯いて顔をそむけていると、カークのため息が聞こえた。
 ため息をつきたいのはこっちだよ、なんて思っていると、カークの手が動いて無理矢理上向かせられた。
 カークは至極真面目な顔をしている。
 目を閉じてはいけない。閉じたらきっと、カークはキーラにキスするだろう

 でも、どうしてか、瞼が落ちる。
 キーラはキスしてほしいんだろうか? 私はキスなんてしたくないのに。

 暫くして、唇に何かが触れる。優しく、ゆっくりと。
 なすがままにしていると、ようやく唇が離れた。


――――もう放して


 と言おうとして開いた唇に、カークが舌を割り込ませてきた。

「んんっ!」

 びっくりして押しのけようとしたけど、やっぱりびくともしない。
 噛み付けばいいのかもしれないが、そんな勇気もない。
 口内で動くそれになすすべもなく、次第に抵抗力も無くなった。

――――カーク、止めないと本当に嫌いになる!

 やけくそで、カークにむかって心の中で叫んでみた。

 はっとしたような気配をさせて、カークが私から離れた。
 急に支えがなくなって、転びそうになって、結局またカークに支えられる。

「どうして……」

 なんだか良く分からなくなってそうつぶやくと、急に涙が出てきた。
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