このやってられない世界で

みなせ

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 朝はアリーダさんが起こしに来てくれた。
 朝食は昨日の魔法を使った状態を見たケビンが、飲み物だけにした方がいいと言ったのでジュースだけで終わり、昨日より少しだけ飾りが多いワンピースを着せられて、ちょっと高めのヒールのついた靴が用意されていた。

「さあ、お坊ちゃまがいらっしゃいましたよ」

 アリーダさんがそう言うと、ぴったり合わせたように扉が開きカークが現れた。
 どうして来たのが分かるのか不思議でならない。
 私は履きなれない靴を気にしながら、立ち上がって扉へ向かう。

「体調は大丈夫か?」
「多分。少しお腹がすいているけど」
「それは仕方がない。途中で吐かれたら目も当てられない」

 カークはそう笑って、背を向けた。
 扉をくぐると、やっぱりデリックがたっていた。

「おはようございます。キーラ様」
「おはようございます。今日はデリックも行くの?」
「はい、ご一緒させていただきます」

 と、ほほ笑まれた。

「キーラ、行くぞ」

 引きつった笑顔で、そう、なんて答えていると、カークに呼ばれた。
 慌てて後を追おうと思ったら、カークが突っ立っている。
 どうしたのかと首を傾げていると、呆れたような顔で手を取られた。

 あー、エスコートって言うやつですか。
 全人生通してそんなことされた事ないので、分かりませんでしたよ。

「ありがとうございます?」
「何で疑問形なんだ」

 初めて出る部屋の外なので、少しわくわくしながら絨毯の廊下を進む。
 階段を使うのかなと思っていたけど、そんなことはなかった。
 なんと、エレベーターがあった。(エレベーターと言うのかは分からないけど)

「驚かないんだな」

 ごく普通に乗り込んだら、カークがそんなことを言った。

「何を?」
「いや、みんなこれに乗る時、嫌がるんだ」

 あぁ、そう言うこと。まぁ、そうだよね。こっち側にはなさそうだもんね。

「もしかして、オンリンナ家でも使っているのか?」
「え、ないよ。普通ないでしょう」
「そうか。この間借金を作ったオンリンナ家の前当主たちの話をしたろう? これは三代前のオンリンナ家の当主が発明したものなんだ。だからキーラの家にもあるのかと思った」
「ないです。……三代前は発明家だったんだ」
「かなりのいろいろなものを発明したようだ」
「そうなんだ。あ、ちなみに、他にはどんなものを発明したの?」
「他には、動く階段とか、草刈り機とか、中でも多いのは調理器具と調理法だな。後は薬関係だ」

 なんか節操がない。自分の欲しいものを作ったのかな? 食べ物も発明って言うのは転生者ならではなのかもしれない。ゲーム仕様だけじゃないんだ。

「ふーん。それで借金を作ったんだ」
「売れないものが多かったみたいだ」
「あ、じゃあ、二代前の人は何で借金したの?」
「ギャンブラー、と書いてあった」
「……そうですか」

 なんて言っていたら、いつの間にか目的地に着いたらしい。
 音もなく扉が開いて、円形のホールが目に入った。床は白い大理石で、いかにも王宮と言う感じの作りだった。
 執事服姿のナイスミドルが、軽く頭を下げて私たちを迎えてくれた。なんかアーサーと違って落ち着きがあってカッコイイ。

「キーラ、私の執事のアルマンだ」
「はじめまして。キーラ・オンリンナです」

 カークが突然紹介を始めたので、私もとりあえず名乗ってみた。
 多分、マナーには則ってない。

「アルマンと申します。よろしくお願いいたします」

 アルマンさんはそう優しい笑顔で応えてくれた。
 フフフと笑いあっていると、カークが引っ張るようにして歩き出した。

「アルマン。ケビンは?」
「先に馬車でお待ちです」

 ホールを抜け、どこかに向かいながら、二人は私の知らない会話をしている。
 私は、初めて見るお城にきょろきょろしていた。

 途中何度かアリーダさんと同じワンピースを着た人が、立ち止まって端により頭を下げるのを見て、カークが本当に王子様なんだと思ったり、高級そうな壺とか絵とかに目を奪われたりしていた。

 結構長く歩いて、ようやくエントランスらしい場所に出た。中央の大きな扉が開かれて、外の空気が流れ込む。

「何かあったらケビンに連絡を」
「分かりました、御無事でお戻りを」
「あぁ」

 カークに引きずられるようにして外に出ると、良く整えられた前庭に立派な黒い馬車が待っていた。
 オンリンナ家でリーナが乗っている馬車の二倍くらいはあるし、金の紋章なんかもこれ見よがしに入っている。

「一番揺れないのを選んだつもりだが……」

 なんて言っているけど、選ぶだけあるなら……もっとこう、お忍び的な感じのなかったのかと、遠い目をしていたのは内緒だ。
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