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なんとなく全身が重くて、息苦しくて目を覚ました。
目の前にはいつもはない真っ黒な壁があって、目をあけたはずなのに暗いと思ったら、いつの間にかカークの抱き枕になっていた。
しっかり、がっちり抱きしめられて身動きが取れない。
腕を固定されたまま寝たせいか、夢見も悪かったのに、起きてもこの状態って……昨日(?)の夜、諦めずに蹴りを入れてでも起こせばよかった。
そう後悔しながら、頭をぐりぐりと動かして、上を向く。
カークの顔を真下から見上げる形になって、綺麗な男は下から見ても綺麗なんだなと妙に感心してしまった。
だが、どんなに綺麗な顔でも、長く見ていると飽きるし、退屈になる。
十分すぎるくらい眠ったはずなのに、また眠たくなってきた。
「お坊ちゃま、いい加減目を覚ましてください」
ウトウトし始めたところに、アリーダさんの声。
あのかわいらしいイメージからはほど遠い、恐ろしいくらい低い声だ。
「うっ、ううっ」
怒気を受けているだろうご本人は小さくうめき声を上げ、さらに私を抱く腕に力を込めてくる。ぎゅうっと抱きしめられて、私はぐえっとひどい声を出してしまった。
「おぼっちゃま、キーラお嬢様を殺す気ですか!」
「キーラ?」
アリーダさんの声に、カークは急にぱちっと目を開いて、辺りを見回した。
そして、私を見つけると、ふわっと笑顔になった。
「あぁ、キーラ、よかった!」
いや全くよくないです。貴方のせいで私は苦しいんですから、寝ぼけている暇があったらとっととその手を放してください。
「……とにかく、お嬢様を開放して差し上げて下さい。本当に死んでしまいますよ」
アリーダさんが、そうため息をつくと、ようやくカークの腕から力が抜けた。
もぞもぞと体を動かしてその腕から抜け出し、体を起こす。
―――おお! 昨日より動きがスムーズになっている!
腕にも腹筋にもちゃんと力が入って、このふんわりしたベッドの上でもちゃんと座ってられる。もうこれで、一人でご飯が食べられる!
「だから、そう急に動くなと言ってるだろう?」
「あれ?」
せっかく一人で座れた感動に浸っていると言うのに、カークが引っ張ったせいでまたその腕の中に戻ってしまった。起きることはできたけど、耐久性はないらしい。
あぁ、と一人遠い目をしていると、パシンと小気味いい音が頭の上ではじけた。
「痛っ!」
カークの声に、何事かと音の方を見ると、白いものがカークの頭の上に打ちおろされていた。
アリーダさんの手に握られた、白い扇形の物体。
あ、あれは!?
「ハ、ハリセン?」
何故アリーダさんがハリセンを?
頭の中はハテナマークでいっぱいだ。
目を見張る私とは対照的に、ハリセンに叩かれたご本人は、困ったように眉をよせている。
「さぁ、お坊ちゃま、どうしてこんなことになっているのか説明していただきましょうか?」
パシンパシンとハリセンを手に打ち付け、目の座ったアリーダさんがカークを見下ろす。
カークの魔王状態よりもっと怖いことになっている。背後に得体のしれないオーラが見えるようだ。
その対象が私ではないのに、……身がすくむ。
「お坊ちゃま、私との約束をお忘れじゃないですよね?」
「そ、それは……」
「さ、お嬢様から手を離してください。あちらでゆっくりお話しましょうか」
カークの腕にまた力が入ってきた。でも今は黙っていた方が無難な感じがする。
矛先がこちらに向かないことを祈るばかりだ。
「さ、さっさとベッドから降りてください!」
「……分かったよ」
アリーダさんに言われて、カークは名残惜しそうに、私を離してベッドから降りて行く。
「お嬢様はそのままもう少しお待ちくださいね。これを少し指導してきますので」
カークをハリセンで示しながら、アリーダさんはにっこりと笑う。
私は頷いて布団を引っ張り上げた。
―――逆らっちゃいけない人ナンバー1に認定しておこう。
――――作者より一言―――――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
明日の更新はお休みします。
次回更新は6月13日になります。
次回もよろしくお願いします。
目の前にはいつもはない真っ黒な壁があって、目をあけたはずなのに暗いと思ったら、いつの間にかカークの抱き枕になっていた。
しっかり、がっちり抱きしめられて身動きが取れない。
腕を固定されたまま寝たせいか、夢見も悪かったのに、起きてもこの状態って……昨日(?)の夜、諦めずに蹴りを入れてでも起こせばよかった。
そう後悔しながら、頭をぐりぐりと動かして、上を向く。
カークの顔を真下から見上げる形になって、綺麗な男は下から見ても綺麗なんだなと妙に感心してしまった。
だが、どんなに綺麗な顔でも、長く見ていると飽きるし、退屈になる。
十分すぎるくらい眠ったはずなのに、また眠たくなってきた。
「お坊ちゃま、いい加減目を覚ましてください」
ウトウトし始めたところに、アリーダさんの声。
あのかわいらしいイメージからはほど遠い、恐ろしいくらい低い声だ。
「うっ、ううっ」
怒気を受けているだろうご本人は小さくうめき声を上げ、さらに私を抱く腕に力を込めてくる。ぎゅうっと抱きしめられて、私はぐえっとひどい声を出してしまった。
「おぼっちゃま、キーラお嬢様を殺す気ですか!」
「キーラ?」
アリーダさんの声に、カークは急にぱちっと目を開いて、辺りを見回した。
そして、私を見つけると、ふわっと笑顔になった。
「あぁ、キーラ、よかった!」
いや全くよくないです。貴方のせいで私は苦しいんですから、寝ぼけている暇があったらとっととその手を放してください。
「……とにかく、お嬢様を開放して差し上げて下さい。本当に死んでしまいますよ」
アリーダさんが、そうため息をつくと、ようやくカークの腕から力が抜けた。
もぞもぞと体を動かしてその腕から抜け出し、体を起こす。
―――おお! 昨日より動きがスムーズになっている!
腕にも腹筋にもちゃんと力が入って、このふんわりしたベッドの上でもちゃんと座ってられる。もうこれで、一人でご飯が食べられる!
「だから、そう急に動くなと言ってるだろう?」
「あれ?」
せっかく一人で座れた感動に浸っていると言うのに、カークが引っ張ったせいでまたその腕の中に戻ってしまった。起きることはできたけど、耐久性はないらしい。
あぁ、と一人遠い目をしていると、パシンと小気味いい音が頭の上ではじけた。
「痛っ!」
カークの声に、何事かと音の方を見ると、白いものがカークの頭の上に打ちおろされていた。
アリーダさんの手に握られた、白い扇形の物体。
あ、あれは!?
「ハ、ハリセン?」
何故アリーダさんがハリセンを?
頭の中はハテナマークでいっぱいだ。
目を見張る私とは対照的に、ハリセンに叩かれたご本人は、困ったように眉をよせている。
「さぁ、お坊ちゃま、どうしてこんなことになっているのか説明していただきましょうか?」
パシンパシンとハリセンを手に打ち付け、目の座ったアリーダさんがカークを見下ろす。
カークの魔王状態よりもっと怖いことになっている。背後に得体のしれないオーラが見えるようだ。
その対象が私ではないのに、……身がすくむ。
「お坊ちゃま、私との約束をお忘れじゃないですよね?」
「そ、それは……」
「さ、お嬢様から手を離してください。あちらでゆっくりお話しましょうか」
カークの腕にまた力が入ってきた。でも今は黙っていた方が無難な感じがする。
矛先がこちらに向かないことを祈るばかりだ。
「さ、さっさとベッドから降りてください!」
「……分かったよ」
アリーダさんに言われて、カークは名残惜しそうに、私を離してベッドから降りて行く。
「お嬢様はそのままもう少しお待ちくださいね。これを少し指導してきますので」
カークをハリセンで示しながら、アリーダさんはにっこりと笑う。
私は頷いて布団を引っ張り上げた。
―――逆らっちゃいけない人ナンバー1に認定しておこう。
――――作者より一言―――――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
明日の更新はお休みします。
次回更新は6月13日になります。
次回もよろしくお願いします。
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