46 / 336
46
しおりを挟む
「何をやっている?」
「あ」
私は座り込んだまま、魔王を見上げる。
「……ごめんなさい。ちょっと動けるのが嬉しくて」
一応謝っておこう。
カークは大きなため息を吐いて、私を結構乱暴に抱き上げベッドに戻してくれた。
「頼むから、大人しくしていてくれ。無駄な体力を使うな。また動けなくなる」
そうなんだ。いや、そうだよね。
動けないだけで、なまじ心も体も元気なもんだから、つい動けるようになったのが嬉しくて動いちゃったけ ど、病み上がり――じゃない、まだ病気療養中(?)には違いない。
カークは掛け布団を直してから、ベッドの縁に腰掛けた。
ん? なんとなく顔色が悪いような。
「あの、なんか顔色悪いけど、もしかしなくても、私のせい?」
布団の中からおずおずとそう言うと、カークは少し驚くような表情になる。
「……何でそう思う?」
「え、だって、魔力を取られて死にそうになるんだから、その魔力を分けているならカークだって消耗しているのかもって」
「分かっているんだったら、もう無理はしないでくれ」
笑って、ぽんぽんって頭を叩かれる。それから、今度は眉を寄せた。
「……侯爵から、キーラを“返す”よう要請が来ている」
「え? 何で」
素でそう言ってしまう。
あの家で、キーラのことを気にするのはアーサーとマリーくらいだ。
それだって表立って何か言うことはないはず。
「……私なんて気にくわない時以外、いてもいなくても気にしない人なのに」
「一応、こちらの不手際で、キーラの体調が悪くなったからと、王家預かりにすることは連絡した」
「それで、どうして? 」
「王家にいつまでも面倒をかけるのは申し訳ないとかなんとか、書かれていたな」
何と言っていいか分からずに カークを見つめてしまう。
「その顔は、本当は帰りたくないのか? あの時帰りたいと言ったろう?」
あ、覚えていてくれたんだ。
「あの時は、貴方達も信頼できなかったし。一応、あんな家でも私を心配してくれる人が何人かはいるので」
私的にはアーサーとマリーに連絡したかっただけなんだけど。
「信頼、か。そうだな。……初対面、だったからな」
自嘲気味にカークが笑った。
なんかムカつく。
「初対面、だけじゃない。貴方達こそ私を、キーラを信じていないでしょう?」
「それは……」
「それに、貴方達はリーナを守っていた。 あげくにこんな目にあわせた」
それなのに、どう信じてもらおうとしているんだろう。信じられないに決まっているじゃないか。
デリックがいい見本だ。
あの日、問答無用でキーラを殴ったし、フランクだってそうだ。
リーナが泣いていると言うだけの理由で、キーラをこんなにもひどい目にあわせている。
「キーラ……」
泣きそうになってしまった。
キーラがあまりにかわいそうで仕方がない。
さっきの練習を活かして、寝返りでカークに背を向ける。
キーラの記憶が、それまでの気持ちや感情を伝えてくる。
それは自分の記憶でもあるのに、まるで他人事のようなのだ。
デリックに殴られてからは、キーラではなく私が受けたことだけど、やっぱり自分のことじゃないみたいなんだ。
もし自分がこんな目に遭ったら、きっと悔しくて眠れないはずだ。
だからこの涙は、私の涙じゃない。キーラの涙なのだ。
「私たちがしたことを考えれば、家に帰りたくなるのが当たり前か……君が家に帰りたいと言うなら、なるべく早く帰れるよう取り計らおう」
カークがぼそぼそと言った。
帰れと言われると、それも違う気がする。帰っても、こんな生活は待っていない。
「帰りたいわけじゃない」
まさか、キーラになって二日目で、こんなにも直接的な被害をこうむると思わなかったとはいえ、あの家に本当に帰りたいかと言えば、正直帰りたくない。
こうなってしまっては生かすも殺すもこの人たち次第だろう。
リーナのために殺すつもりなら、あのまま殺した方がよかっただろうし。
いろいろ問題はあるけど、今の状態が続くならあの家よりはずっといい。
それに何より、今更、だ。
「……帰りたいわけじゃない」
大切なことなので二度言いました。
「そう、か」
ほっとしたような、そんな雰囲気で、カークが言った。
「……君の家のことは、前から調べていた。だから帰りたいと聞いて、調査結果を疑った。帰りたいと言うとは思わなかったから。」
「調べていたって、いつから」
カークの聞き捨てならない言葉を、聞き返す。
「調査を入れたのは、カーラが亡くなってからだ。その前はカーラから聞いていたから」
「……何故? 家は没落寸前ですよ? 悪いことだって、してませんよ。今は分からないけど」
「それは分かっている」
「じゃあ何故」
「君のためだ」
キーラのため? 何言っちゃってんの、この人!?
「あ」
私は座り込んだまま、魔王を見上げる。
「……ごめんなさい。ちょっと動けるのが嬉しくて」
一応謝っておこう。
カークは大きなため息を吐いて、私を結構乱暴に抱き上げベッドに戻してくれた。
「頼むから、大人しくしていてくれ。無駄な体力を使うな。また動けなくなる」
そうなんだ。いや、そうだよね。
動けないだけで、なまじ心も体も元気なもんだから、つい動けるようになったのが嬉しくて動いちゃったけ ど、病み上がり――じゃない、まだ病気療養中(?)には違いない。
カークは掛け布団を直してから、ベッドの縁に腰掛けた。
ん? なんとなく顔色が悪いような。
「あの、なんか顔色悪いけど、もしかしなくても、私のせい?」
布団の中からおずおずとそう言うと、カークは少し驚くような表情になる。
「……何でそう思う?」
「え、だって、魔力を取られて死にそうになるんだから、その魔力を分けているならカークだって消耗しているのかもって」
「分かっているんだったら、もう無理はしないでくれ」
笑って、ぽんぽんって頭を叩かれる。それから、今度は眉を寄せた。
「……侯爵から、キーラを“返す”よう要請が来ている」
「え? 何で」
素でそう言ってしまう。
あの家で、キーラのことを気にするのはアーサーとマリーくらいだ。
それだって表立って何か言うことはないはず。
「……私なんて気にくわない時以外、いてもいなくても気にしない人なのに」
「一応、こちらの不手際で、キーラの体調が悪くなったからと、王家預かりにすることは連絡した」
「それで、どうして? 」
「王家にいつまでも面倒をかけるのは申し訳ないとかなんとか、書かれていたな」
何と言っていいか分からずに カークを見つめてしまう。
「その顔は、本当は帰りたくないのか? あの時帰りたいと言ったろう?」
あ、覚えていてくれたんだ。
「あの時は、貴方達も信頼できなかったし。一応、あんな家でも私を心配してくれる人が何人かはいるので」
私的にはアーサーとマリーに連絡したかっただけなんだけど。
「信頼、か。そうだな。……初対面、だったからな」
自嘲気味にカークが笑った。
なんかムカつく。
「初対面、だけじゃない。貴方達こそ私を、キーラを信じていないでしょう?」
「それは……」
「それに、貴方達はリーナを守っていた。 あげくにこんな目にあわせた」
それなのに、どう信じてもらおうとしているんだろう。信じられないに決まっているじゃないか。
デリックがいい見本だ。
あの日、問答無用でキーラを殴ったし、フランクだってそうだ。
リーナが泣いていると言うだけの理由で、キーラをこんなにもひどい目にあわせている。
「キーラ……」
泣きそうになってしまった。
キーラがあまりにかわいそうで仕方がない。
さっきの練習を活かして、寝返りでカークに背を向ける。
キーラの記憶が、それまでの気持ちや感情を伝えてくる。
それは自分の記憶でもあるのに、まるで他人事のようなのだ。
デリックに殴られてからは、キーラではなく私が受けたことだけど、やっぱり自分のことじゃないみたいなんだ。
もし自分がこんな目に遭ったら、きっと悔しくて眠れないはずだ。
だからこの涙は、私の涙じゃない。キーラの涙なのだ。
「私たちがしたことを考えれば、家に帰りたくなるのが当たり前か……君が家に帰りたいと言うなら、なるべく早く帰れるよう取り計らおう」
カークがぼそぼそと言った。
帰れと言われると、それも違う気がする。帰っても、こんな生活は待っていない。
「帰りたいわけじゃない」
まさか、キーラになって二日目で、こんなにも直接的な被害をこうむると思わなかったとはいえ、あの家に本当に帰りたいかと言えば、正直帰りたくない。
こうなってしまっては生かすも殺すもこの人たち次第だろう。
リーナのために殺すつもりなら、あのまま殺した方がよかっただろうし。
いろいろ問題はあるけど、今の状態が続くならあの家よりはずっといい。
それに何より、今更、だ。
「……帰りたいわけじゃない」
大切なことなので二度言いました。
「そう、か」
ほっとしたような、そんな雰囲気で、カークが言った。
「……君の家のことは、前から調べていた。だから帰りたいと聞いて、調査結果を疑った。帰りたいと言うとは思わなかったから。」
「調べていたって、いつから」
カークの聞き捨てならない言葉を、聞き返す。
「調査を入れたのは、カーラが亡くなってからだ。その前はカーラから聞いていたから」
「……何故? 家は没落寸前ですよ? 悪いことだって、してませんよ。今は分からないけど」
「それは分かっている」
「じゃあ何故」
「君のためだ」
キーラのため? 何言っちゃってんの、この人!?
1
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました
葉月キツネ
ファンタジー
目が覚めると昔やり込んだ乙女ゲーム「白銀の騎士物語」の悪役令嬢フランソワになっていた!
本来ならメインヒロインの引き立て役になるはずの私…だけどせっかくこんな乙女ゲームのキャラになれたのなら思うがままにしないと勿体ないわ!
推しを含めたイケメン近衛騎士で私を囲ってもらって第二の人生楽しみます
【完結】乙女ゲームに転生した転性者(♂→♀)は純潔を守るためバッドエンドを目指す
狸田 真 (たぬきだ まこと)
ファンタジー
男♂だったのに、転生したら転性して性別が女♀になってしまった! しかも、乙女ゲームのヒロインだと!? 男の記憶があるのに、男と恋愛なんて出来るか!! という事で、愛(夜の営み)のない仮面夫婦バッドエンドを目指します!
主人公じゃなくて、勘違いが成長する!? 新感覚勘違いコメディファンタジー!
※現在アルファポリス限定公開作品
※2020/9/15 完結
※シリーズ続編有り!
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています
真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。
なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。
更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!
変態が大変だ! いや大変な変態だ!
お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~!
しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~!
身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。
操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる