このやってられない世界で

みなせ

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「お坊ちゃま……」
「何か言いたいことがあるのか?」

 機嫌が悪そう。お坊ちゃまは地雷なんだね。

「あの、ここは」
「王宮の私の居城だ」
「は?」
「城に連れてくると言ったろう?」

 言われました。確かに、言われましたよ。

「殿下の」
「カークだ」
「は?」
「カークと呼んで欲しい」
「えーっと」

 心の中では勝手に呼び捨てにしているので、特に違和感はないけれど、一応王子でしょう。それを名前呼びはちょっと遠慮したい。いろいろな意味で。
 で、カークと言えば、恥ずかしそうに口を押さえて横を向いた。

「私は毎日、君にキスをしに来ている」
「き、す」
「そうだ、治療行為の一環として、とてつもなく効率が良いいが、アリーダはこの方法を反対している。」

 きす……、そうだ、意識を失う前にも、キスされた。
 そしてそう言われた。応急処置と。

「アリーダに寝ている女性に無体なまねをするのは許せない、責任をとれと言われた。だから、君を私の婚約者にするということにした」
「婚約者、ですか?」
「学園で秘密裏に付き合っていたことにしてあるから、アリーダの前ではそのつもりでいて欲しい」
「付き合って、と言うより、初対面ですよね」

 キーラの生家は侯爵家だけど、社交界には一度も出ていない。出て行くのは、父と義母とリーナだけだ。王家からの夜会やお茶会の招待はあったと思うが、出席した記憶がない。

「初対面だが、私は君を知っていた」
「それはリーナつながり……」
「……君のことはずっと昔から知っていた」
「ストーカーですか?」

 また一人変態が……。
 顔をしかめると、カークがため息をついた。

「君は一応侯爵家だろう。それに、カーラからも話は聞いていたし、見かけたことくらいはある」
「へ、お母様がなんで」

 やっぱりストーカーかよ、と言う言葉は呑み込みます。それにしても、お母様とは呼び捨てにするような間柄なんですか?

「君の体の状態についてもだが、それも含めて話すとなると、長い話になると思う。予定ではもう少し早く回復している筈だったんだが、アリーダに監視されていて思うようにいかなかった」

 一体、何をするつもりだったんでしょうか……怖いのでそれも聞かないでおこう。
 とりあえず、アリーダさんに危機回避の感謝を。

「殿下は」
「カークだ」
「なら、カーク様、と」
「様もいらない」
「それは流石に……」
「似合わない」
「は?」
「君に“様”は似合わない。だからカークと」
「どう言う意味でしょうか? それは」
「そのままの意味だ」

 至極真面目に言われるので、よく分からないけど、もう面倒だから、流してしまおう。

「……分かりました。では、カーク。私は一体何日眠っていたんですか?」
「今日で一週間、7日目だ」
「一週間」

 結構寝てた。
 異世界転生に気がついて行動した時間より長く寝てるって……どう言うことよ、自分。

「それよりだ。ずっと気になっていたんだが、これは何だ?」
「これ?」

 胸のあたりを指差されるが、見えない。
 そう言えばピーちゃんがそこら辺にいたような気がする。

「ピーちゃんのことですか?」
「ピーちゃん? これは君の使い魔か?」
「ピーちゃんはペットです」
「……そうか。ペットか」

 納得していない顔だ。
 ピーちゃんに関しては皆こんな顔になる。私もただのトリだとは思えないけど。

「使い魔ってなんですか?」
「魔法を使って使役する動物のことだ。魔法で動物を人側に近づける。あまり一般的な魔法ではない」
「名前は付けましたけど、魔法を使った記憶はありません。だからペットです」
「名前を付けた?」

 カークの表情が険しくなる。
 そう言えばアーサーが言っていた。契約がどうこうって。

「キーラ、君にもいろいろ聞かなければならないことが多そうだね」
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