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殿下……四人目の攻略対象者。カーク・フォルナトル。この国のたった一人の王子様。この国すべての期待を集める次代の王……とかなんとか書いてあったような。
「キーラ嬢、大丈夫……ではないな」
そう、私を覗き込む顔はがっつりしかめられていて、せっかくの美貌が台無しだ。
私が読んでいたありがたい本では、王族と言う者は人に感情を悟られるようなことがあってはならない、だからいつも笑顔――――アルカイックスマイルを顔に張り付けていると書いてあったのに、感情丸出しな上ひどい顔だ。
せめて無表情くらいにしてほしかった。残念。
「まだ、意識はあるな。キーラ嬢、救護室まで眠ってはいけないよ」
至極真面目な顔で、まっすぐに視線を合わせたカークに言われ、私は小さく頷く。
笑顔はないが、破壊力は半端ない。
「デリック、キーラ嬢を救護室へ。人払いはしてあるが、注意して動け」
「はい」
命じられて、デリックは私を横抱きにして立ち上がった。
もう拒む力は無い。ふうと息を吐くと、ピーちゃんがどこからともなく飛んできて胸の上にとまった。
「ピーちゃん」
「使い魔、ですか?」
「いえ、ペットです」
私の答えに、不思議そうにピーちゃんを見て、デリックは部屋を出た。
白く濁った壁の間を抜け、螺旋階段ではない薄暗い階段を使い図書館から外へと向かう。結構なスピードで進んでいるのに、揺れも少なくとても心地いい。
人払いと言ったのは嘘じゃないのだろう。時間は分からなかったが、外はまだ明るく、まだ学生がいてもおかしくない時間なのに人とすれ違わなかった。
「デリック様、こちらへ」
「あぁ」
見えない場所で誰かが言い、デリックは声のする方へ進み足をとめた。
ざわざわと人の声がどこかを流れて行く。
「もう、大丈夫です」
「もう少しですから、我慢してください」
誰かがまた言い、デリックは気遣うように私に声をかけた。
そして、返事を待つことなく、足を進めた。
何度か扉をくぐり、ようやく私はベッドの上に降ろされる。
「殿下が来るまで眠らないでください」
「……どうして」
「それは、殿下から聞いてください」
「リーナは?」
「リーナ嬢は、ケビンが家まで送りました」
「そう、よかった」
ここにリーナがこないことが分かって安心する。
「何故、図書館へ?」
ほっとして、目をつぶりかけた私に、デリックが聞いてきた。
「……ちょっと調べたいことがあって、アディソン様こそ、何故」
「殿下が、フランクの様子がおかしいと気付かれ、後をつけていました。まさか狙いがキーラ嬢で、学園内で魔法を使うとは思わず助けるのが遅くなってしまいました、申し訳ありません」
「貴方が謝ることじゃないわ、それに、もう謝らないでって言ったよね」
「そうはいきません。フランクがしたことは、殿下の名誉に関わることです」
「でも」
「入るぞ」
言いかけた私の言葉は、救護室の入り口の方から誰かの声に遮られた。
カーテンが引かれ、カークが現れる。デリックが立ち上がった。
「待たせてしまった。デリック、城へ向かう準備を」
「分かりました」
軽く頭を下げ出て行くのを待って、カークはデリックが座っていた場所へ腰かけた。
「フランクがすまなかった。説明をしたいが、今は時間がない。君はこのまま城に来てもらうことになる」
「城?」
「そうだ」
「あの、拒否権はないんですか?」
「家に帰りたいか?」
「普通、帰りたいものですよね?」
「そういうものか。だが、体を動かせないだろう?」
言われればそうだ。
話せるが、全身がだるくて、体を動かせる気がしない。
「だから、それは聞き入れられないな」
にっこりとほほ笑まれるけど、全く意味が分かりません。
「殿下、準備が出来ました」
カーテンの向こうからデリックの声。
「分かった。すぐ出る……申し訳ないが、君に死なれると困るんだ」
死ぬ? 私がですか?
急に余命宣告されても、困るんですけど。
目をパチクリさせていると、カークの顔が近づいてきて、その唇が私の唇にくっついた。
「!!」
目を見張る私をよそに、カークはさらにしっかり唇を合わせてくる。
私は身動き一つ取れないので、それを黙って受け入れるしかない。
諦めて瞼を閉じると、唇の温かさと一緒にゆっくり魔力が流れ込んでくるのが分かった。
心地いいその力に逆らえず身をゆだねる。
「応急処置だ。もう眠っていい」
唇が離れると同時に、そう言われて私は意識を手放した。
――――作者より一言―――――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
書いているうちに
カールと書くと、
カールおじさんにしか見えなくなってしまったので
王子様の名前、カールからカークへ変更しました。
変更途中でまだカールになっているところがあるかもしれませんが、
カークです。
次回もよろしくお願いします。
「キーラ嬢、大丈夫……ではないな」
そう、私を覗き込む顔はがっつりしかめられていて、せっかくの美貌が台無しだ。
私が読んでいたありがたい本では、王族と言う者は人に感情を悟られるようなことがあってはならない、だからいつも笑顔――――アルカイックスマイルを顔に張り付けていると書いてあったのに、感情丸出しな上ひどい顔だ。
せめて無表情くらいにしてほしかった。残念。
「まだ、意識はあるな。キーラ嬢、救護室まで眠ってはいけないよ」
至極真面目な顔で、まっすぐに視線を合わせたカークに言われ、私は小さく頷く。
笑顔はないが、破壊力は半端ない。
「デリック、キーラ嬢を救護室へ。人払いはしてあるが、注意して動け」
「はい」
命じられて、デリックは私を横抱きにして立ち上がった。
もう拒む力は無い。ふうと息を吐くと、ピーちゃんがどこからともなく飛んできて胸の上にとまった。
「ピーちゃん」
「使い魔、ですか?」
「いえ、ペットです」
私の答えに、不思議そうにピーちゃんを見て、デリックは部屋を出た。
白く濁った壁の間を抜け、螺旋階段ではない薄暗い階段を使い図書館から外へと向かう。結構なスピードで進んでいるのに、揺れも少なくとても心地いい。
人払いと言ったのは嘘じゃないのだろう。時間は分からなかったが、外はまだ明るく、まだ学生がいてもおかしくない時間なのに人とすれ違わなかった。
「デリック様、こちらへ」
「あぁ」
見えない場所で誰かが言い、デリックは声のする方へ進み足をとめた。
ざわざわと人の声がどこかを流れて行く。
「もう、大丈夫です」
「もう少しですから、我慢してください」
誰かがまた言い、デリックは気遣うように私に声をかけた。
そして、返事を待つことなく、足を進めた。
何度か扉をくぐり、ようやく私はベッドの上に降ろされる。
「殿下が来るまで眠らないでください」
「……どうして」
「それは、殿下から聞いてください」
「リーナは?」
「リーナ嬢は、ケビンが家まで送りました」
「そう、よかった」
ここにリーナがこないことが分かって安心する。
「何故、図書館へ?」
ほっとして、目をつぶりかけた私に、デリックが聞いてきた。
「……ちょっと調べたいことがあって、アディソン様こそ、何故」
「殿下が、フランクの様子がおかしいと気付かれ、後をつけていました。まさか狙いがキーラ嬢で、学園内で魔法を使うとは思わず助けるのが遅くなってしまいました、申し訳ありません」
「貴方が謝ることじゃないわ、それに、もう謝らないでって言ったよね」
「そうはいきません。フランクがしたことは、殿下の名誉に関わることです」
「でも」
「入るぞ」
言いかけた私の言葉は、救護室の入り口の方から誰かの声に遮られた。
カーテンが引かれ、カークが現れる。デリックが立ち上がった。
「待たせてしまった。デリック、城へ向かう準備を」
「分かりました」
軽く頭を下げ出て行くのを待って、カークはデリックが座っていた場所へ腰かけた。
「フランクがすまなかった。説明をしたいが、今は時間がない。君はこのまま城に来てもらうことになる」
「城?」
「そうだ」
「あの、拒否権はないんですか?」
「家に帰りたいか?」
「普通、帰りたいものですよね?」
「そういうものか。だが、体を動かせないだろう?」
言われればそうだ。
話せるが、全身がだるくて、体を動かせる気がしない。
「だから、それは聞き入れられないな」
にっこりとほほ笑まれるけど、全く意味が分かりません。
「殿下、準備が出来ました」
カーテンの向こうからデリックの声。
「分かった。すぐ出る……申し訳ないが、君に死なれると困るんだ」
死ぬ? 私がですか?
急に余命宣告されても、困るんですけど。
目をパチクリさせていると、カークの顔が近づいてきて、その唇が私の唇にくっついた。
「!!」
目を見張る私をよそに、カークはさらにしっかり唇を合わせてくる。
私は身動き一つ取れないので、それを黙って受け入れるしかない。
諦めて瞼を閉じると、唇の温かさと一緒にゆっくり魔力が流れ込んでくるのが分かった。
心地いいその力に逆らえず身をゆだねる。
「応急処置だ。もう眠っていい」
唇が離れると同時に、そう言われて私は意識を手放した。
――――作者より一言―――――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
書いているうちに
カールと書くと、
カールおじさんにしか見えなくなってしまったので
王子様の名前、カールからカークへ変更しました。
変更途中でまだカールになっているところがあるかもしれませんが、
カークです。
次回もよろしくお願いします。
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