このやってられない世界で

みなせ

文字の大きさ
上 下
32 / 336

32

しおりを挟む
 アーサーが私の手を取り、目を閉じた。
 魔力が手を覆うのが分かる。

「ダリル様は結構な魔法の使い手ですね」
「そうなの?」
「ええ、とても繊細で綺麗な魔法になっていますよ」

 言って、アーサーが手を離した。

「ダリル様は治癒魔法の使い手ですからね。治癒魔法を使えない人間より、高度で繊細な魔法が使えるし、同じ魔法でもかなり強くなります」
「そう言うものなの」
「そう言うものです。で、どうしますか?」
「何が?」
「このままダリル様の魔法の下にいるか、断ち切るか」

 言っている意味が良く分からなくて、首を傾げる。

「魔法の下って、ストーカー?」
「そこまでではないです。お嬢様に何かあれば連絡が行く感じでしょうか」
「えっ! 何かって何?」
「デリック様に殴られた時のような、お嬢様に危害が加えられそうな時です」
「防犯ブザーみたいな感じ?」
「防犯ブザーは分かりませんが、貴族ではよく使われる魔法です。普通は幼子に使います」

 幼子……やっぱりダリルはキーラを子供扱いしていたわけか。

「断ち切っても大丈夫なの?」
「大丈夫、とは?」
「相手に知られない? ダリル様が走ってきたりしない?」
「当然、断ち切るなら分かるように切りますよ。家のお嬢様に勝手にひも付けするなんて、私たちに喧嘩を売っているようなものです」

 アーサーがまた怒っている。

「そのままにしておくと何か悪いことってあるの?」
「特に何も。お嬢様が危機になった時、多分ダリル様が助けにきてくれるだけです」

 今無理に断ち切って、ダリルの気持ちを害するのも面倒なことになりそうだしなぁ。

「どうします?」
「なんか面倒なことになりそうだから、暫くはこのままにしておくわ」
「……お嬢様がそう言うなら、かまいませんよ。嫌になったら行ってくださればすぐに断ち切りますので」

 にっこりとほほ笑むアーサーの顔が意地悪い。

「私が魔法を使えるようになれば、こんなことも無いのかな?」

 そう首を傾げると、アーサーは顔をしかめた。

「お嬢様が悪いわけじゃないですよ。デリック様とダリル様が、お嬢様に無断で勝手なことをするのが悪いのです」
「でも、魔法が使えたらこんなことされないでしょ?」
「そうですが。普通の人はこんなことしないし、簡単にできません。もしかしたら、アディソン家の血なのかもしれませんよ」
「血?」
「あの家は代々騎士ですからね。守りたいものが出来ると、つい魔法があふれて加護を与えてしまうのでしょう。良い言い方をすれば、ですが」

 魔法って溢れるんだとか思っていたら、アーサーが困ったような顔になった。

「デリック様は多分そこまで考えていなさそうですし、ダリル様はお嬢様を心配なさってのことでしょう。二人の魔法からは悪意は全く見えませんし」
「魔法ってそんなところまで見えるんだ。凄いね」
「私の魔法特性は特別なんですよ」

 褒めたら嬉しそうだ。アーサーはこれから褒めるようにしよう。

「他に心配なことはありますか?」
「あ、もう心は読めないんだよね」
「大丈夫ですよ」
「それならよかった。じゃあ、しばらくこのままで、嫌になったら本人に切ってもらいに行く」
「お嬢様、そんなことしたらもっと面倒なことになりますよ。お願いですから、大人しくしていてください」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう
ファンタジー
異世界へと転生してきた悪役令嬢の取り巻き令嬢マリアは、辺境にある伯爵領で、世界を支配しているのは武力だと気付き、生き残るためのトレーニングの開発を始める。 やがて人智を超え始めるマリア式トレーニング。 人外の力を手に入れるモールド伯爵領の面々。 当然、武力だけが全てではない貴族世界とはギャップがある訳で…。 脳筋猫かぶり取り巻き令嬢に、王国中が振り回される時は近い。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は、たった今をもって解消させてもらう!!』  国のこれからを背負う若者たちが学院を卒業することを祝って開かれた舞踏会の日、めでたい筈のその席に響いた第一皇子の声を聞いた瞬間、私の頭にこの場面と全く同じ“ゲーム”の場面が再生された。 これ、もしかしなくても前世でやり込んでた乙女ゲームの終盤最大の山場、“断罪イベント”って奴じゃないですか!?やり方間違ったら大惨事のやつ!!  しかし、私セレスティア・スチュアートは貧乏領地の伯爵令嬢。容姿も社交も慎ましく、趣味は手芸のみでゲームにも名前すら出てこないザ・モブ of the モブ!!  何でよりによってこのタイミングで記憶が戻ったのか謎だけど、とにかく主要キャラじゃなくてよかったぁ。……なんて安心して傍観者気取ってたら、ヒロインとメインヒーローからいきなり悪役令嬢がヒロインをいじめているのを知る目撃者としていきなり巻き込まれちゃった!? 更には、何でかメインヒーロー以外のイケメン達は悪役令嬢にぞっこんで私が彼等に睨まれる始末! しかも前世を思い出した反動で肝心の私の過去の記憶まで曖昧になっちゃって、どっちの言い分が正しいのか証言したくても出来なくなっちゃった! そんなわけで、私の記憶が戻り、ヒロイン達と悪役令嬢達とどちらが正しいのかハッキリするまで、私には逃げられないよう監視がつくことになったのですが……それでやって来たのが既に悪役令嬢に攻略され済みのイケメン騎士様でしかも私の初恋の相手って、神様……これモブに与える人生のキャパオーバーしてませんか?

処理中です...