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「アーサー、これって、トリじゃなかったら、一体何なのか分かる?」
一応聞いてみよう。
「……トリでしょう」
アーサーはそう肩をすくめた。
言う気はないんですね。
頭の上でピーちゃんがギョギョギョと鳴きながら、右に左と踊っている。
「……もう引き入れてしまった以上、仕方ありません。あまり細かいことは気にしない方がいいですよ」
アーサーはセリフを棒読みするみたいに言って、ため息をついた。
「で、そちらの頬は誰に治してもらったんですか? デリック様に似た魔力を感じますが」
本日二度目の魔力講義です。
「アーサー、魔力って見えるの?」
「えぇ、見えますよ。魔力が一定以上あることと、多少訓練が必要ですが……で?」
ごまかされてもくれませんね。
私は、ダリルのことをかいつまんで話した。
ほっぺにちゅーやお姫様抱っこのことは、想像もしないよう細心の注意を払っている。
「ふーん」
気のない返事。感情のこもらない表情。
「で? ただの治癒魔法で、何故そんなに深く魔法が絡んでいるのでしょう?」
「それは……」
「それは?」
「ダリル・アディソン氏の治癒魔法が普通ではないからであります」
尋問なのか、職質なのか、鬼軍曹のような覇気をアーサーから感じて、口調があやしくなるのは仕方がないのです。
「また口調が……、えーっと、普通じゃないとはどういうことですか?」
アーサーは何かに気がついたのか、表情を崩した。
「ダリル・アディソン氏は、治癒魔法を使う時、その、く、く、ちび、るを」
「くくちびる?」
私は多分真っ赤になり、アーサーは眉を寄せて首を傾げる。
「傷口に唇をつけて治すそうです」
「あぁ、そう言うことですか」
私がこんなに体力を消耗して言ったと言うのに、アーサーはあっさりと納得したようだ。
「治癒魔法は特別な魔法ですからね」
「そうなの?」
「そうですよ。使える人も少ないですし、発現の仕方もいろいろ変わっているのですよ。お嬢様だってご自分には使えるけれど、他の人には使えないでしょう?」
「……そう、なんだ」
キーラの記憶に、他人を癒している場面がないのはそう言うことか。
手をかざして、●―ルとか、●アルとか言って使うのが普通だと思っていた。
「ねぇ、アーサー。私も治癒以外の魔法も使えるんだよね?」
「多分使えると思います」
「多分?」
「学園に入る時、魔力検査もしましたよね。覚えていますか」
確かに、キーラも学園に入る時魔力検査をした。
記憶を探ると、かすかに光る水晶を思い出す。
「もしかして、水晶があんまり光らないのって、魔力が少ないってこと?」
「一般的には、そう言うことになっています」
「じゃあ、私は魔法使えないの?」
何度も言うけど、ゲームでキーラはがっつり魔法を使っていた。
でも、あれは悪役として覚醒した後だった。それ以前は……?
「カーラ様も使えましたし、オンリンナ家はもともと魔法力の強い一族です。ですから使えるのは間違いありません。ただ……」
アーサーが考え込むように言葉を止める。
「ただ?」
「私もよく知りませんが、カーラ様によると、オンリンナ家の魔法特性として発現がひどく遅いことと、発現しないと何が出来るか分からないらしいです」
ん? それどういう意味?
「オンリンナ家の魔法は、昔から変な魔法が多い、と言っていました」
「変な魔法……」
変な魔法って何だ?
ゲームのキーラがガンガン使っていたのは、普通の魔法だったと思うけど。
「えーっと、とりあえず、普通の魔法についてだけでも教えてください」
一応聞いてみよう。
「……トリでしょう」
アーサーはそう肩をすくめた。
言う気はないんですね。
頭の上でピーちゃんがギョギョギョと鳴きながら、右に左と踊っている。
「……もう引き入れてしまった以上、仕方ありません。あまり細かいことは気にしない方がいいですよ」
アーサーはセリフを棒読みするみたいに言って、ため息をついた。
「で、そちらの頬は誰に治してもらったんですか? デリック様に似た魔力を感じますが」
本日二度目の魔力講義です。
「アーサー、魔力って見えるの?」
「えぇ、見えますよ。魔力が一定以上あることと、多少訓練が必要ですが……で?」
ごまかされてもくれませんね。
私は、ダリルのことをかいつまんで話した。
ほっぺにちゅーやお姫様抱っこのことは、想像もしないよう細心の注意を払っている。
「ふーん」
気のない返事。感情のこもらない表情。
「で? ただの治癒魔法で、何故そんなに深く魔法が絡んでいるのでしょう?」
「それは……」
「それは?」
「ダリル・アディソン氏の治癒魔法が普通ではないからであります」
尋問なのか、職質なのか、鬼軍曹のような覇気をアーサーから感じて、口調があやしくなるのは仕方がないのです。
「また口調が……、えーっと、普通じゃないとはどういうことですか?」
アーサーは何かに気がついたのか、表情を崩した。
「ダリル・アディソン氏は、治癒魔法を使う時、その、く、く、ちび、るを」
「くくちびる?」
私は多分真っ赤になり、アーサーは眉を寄せて首を傾げる。
「傷口に唇をつけて治すそうです」
「あぁ、そう言うことですか」
私がこんなに体力を消耗して言ったと言うのに、アーサーはあっさりと納得したようだ。
「治癒魔法は特別な魔法ですからね」
「そうなの?」
「そうですよ。使える人も少ないですし、発現の仕方もいろいろ変わっているのですよ。お嬢様だってご自分には使えるけれど、他の人には使えないでしょう?」
「……そう、なんだ」
キーラの記憶に、他人を癒している場面がないのはそう言うことか。
手をかざして、●―ルとか、●アルとか言って使うのが普通だと思っていた。
「ねぇ、アーサー。私も治癒以外の魔法も使えるんだよね?」
「多分使えると思います」
「多分?」
「学園に入る時、魔力検査もしましたよね。覚えていますか」
確かに、キーラも学園に入る時魔力検査をした。
記憶を探ると、かすかに光る水晶を思い出す。
「もしかして、水晶があんまり光らないのって、魔力が少ないってこと?」
「一般的には、そう言うことになっています」
「じゃあ、私は魔法使えないの?」
何度も言うけど、ゲームでキーラはがっつり魔法を使っていた。
でも、あれは悪役として覚醒した後だった。それ以前は……?
「カーラ様も使えましたし、オンリンナ家はもともと魔法力の強い一族です。ですから使えるのは間違いありません。ただ……」
アーサーが考え込むように言葉を止める。
「ただ?」
「私もよく知りませんが、カーラ様によると、オンリンナ家の魔法特性として発現がひどく遅いことと、発現しないと何が出来るか分からないらしいです」
ん? それどういう意味?
「オンリンナ家の魔法は、昔から変な魔法が多い、と言っていました」
「変な魔法……」
変な魔法って何だ?
ゲームのキーラがガンガン使っていたのは、普通の魔法だったと思うけど。
「えーっと、とりあえず、普通の魔法についてだけでも教えてください」
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