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市場は夜は遅くて、朝は早い。
昨日よりも多くの人が行き交う中を縫いながら食堂を目指す。
すれ違う人が私の顔を見て、眉をしかめる。やっぱり目立つようだ。
既に開かれている扉をくぐり、お客さんが溢れた店内を抜け、女将の姿が見えたカウンターの中へ進む。
この時間は手伝いの人が来ているから、女将はいつもお客さんの相手か洗いものをしている。
「女将さん! おはようございます!」
「あらキーラちゃん、今日は早いじゃない。あぁ、まだ痛そうじゃないの」
「もう顔は大丈夫。昨日は、休んですみませんでした。そしてありがとうございました」
心配そうな女将に私はそう言って頭を下げる。
「少し手伝おうと思ったのと……」
「手伝いはいらないよ。その顔じゃあ、お客さんが心配してしまうだろう?」
「んーでも、裏で野菜の下ごしらえくらいなら大丈夫だし、昨日の夕食分を稼がないと」
「いいよ、そんなの。キーラちゃんにはいつもたくさん手伝ってもらってるんだから、夕食の一回や二回気にしないの」
「でも……」
「ちゃんと治ったら、またしっかり働いてくれればそれでいいんだよ」
困ったようにそう言われると、それ以上何も言えなかった。
私はもう一度軽く頭を下げる。
「すみません……お言葉に甘えます」
「あらあら、他人行儀だねぇ。そうだ、せっかくだから朝ごはんを食べておいき」
「え、でも」
「いいからいいから、早く座って」
女将に引っ張られカウンターの隅に座らせられる。
朝のメニューは定食のみだ。
四角いお盆にセットされ目の前に置かれたのは、流石ゲームの世界と言うべきか、コメのご飯に味噌汁、焼き魚と甘い卵焼きに大根おろし、野菜の和え物という定番中の定番の朝メニュー。
キーラの記憶にもあったから分かっていたけど、西洋風の異世界にこの定食はびっくりだ。
「さ、食べて食べて。朝ご飯は大事だからね」
女将はそう、ポンポンと私の頭を軽く叩いた。まるで子供になった気分だ。
ってなんて思っている場合じゃない。言うことがあったんだ。
「あ、女将さん」
離れて行こうとした女将に声をかける。
「ん? なんだい?」
「昨日私を殴った人の話しなんですが……」
「ああ、騎士科の子のことかい?」
「はい。昨日その殴った人が、謝りに来てくれたんです。だから……」
「それは本当の話か?」
もう言わないで、と言おうとした私の後ろから、そう声が聞こえた。
「騎士科の人間に殴られたと言うのは、本当か?」
振り返るより先に、もう一度問われる。
男の声だ。
何だろう、とても危険な感じがする。
私は戸惑う女将を見てから、ゆっくりと体ごと振り返った。
視線の先に白い服が見えてくる。
所々に黒いラインと、クロスした剣が描かれたこれ見よがしの金のボタン。腰には使いやすそうな剣がぶら下がっている。
あぁ、これって確かアディソン家の制服だよね。
頭を抱えたくなるのをこらえながら顔を上げると、黒い髪に黒い瞳のデリックに良く似た面差しの男が立っていた。
「君は学園の生徒だな? 一体どう言うことか、聞かせてもらおうか」
この人、たぶん、デリックのお兄さん、だよね?
昨日よりも多くの人が行き交う中を縫いながら食堂を目指す。
すれ違う人が私の顔を見て、眉をしかめる。やっぱり目立つようだ。
既に開かれている扉をくぐり、お客さんが溢れた店内を抜け、女将の姿が見えたカウンターの中へ進む。
この時間は手伝いの人が来ているから、女将はいつもお客さんの相手か洗いものをしている。
「女将さん! おはようございます!」
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「もう顔は大丈夫。昨日は、休んですみませんでした。そしてありがとうございました」
心配そうな女将に私はそう言って頭を下げる。
「少し手伝おうと思ったのと……」
「手伝いはいらないよ。その顔じゃあ、お客さんが心配してしまうだろう?」
「んーでも、裏で野菜の下ごしらえくらいなら大丈夫だし、昨日の夕食分を稼がないと」
「いいよ、そんなの。キーラちゃんにはいつもたくさん手伝ってもらってるんだから、夕食の一回や二回気にしないの」
「でも……」
「ちゃんと治ったら、またしっかり働いてくれればそれでいいんだよ」
困ったようにそう言われると、それ以上何も言えなかった。
私はもう一度軽く頭を下げる。
「すみません……お言葉に甘えます」
「あらあら、他人行儀だねぇ。そうだ、せっかくだから朝ごはんを食べておいき」
「え、でも」
「いいからいいから、早く座って」
女将に引っ張られカウンターの隅に座らせられる。
朝のメニューは定食のみだ。
四角いお盆にセットされ目の前に置かれたのは、流石ゲームの世界と言うべきか、コメのご飯に味噌汁、焼き魚と甘い卵焼きに大根おろし、野菜の和え物という定番中の定番の朝メニュー。
キーラの記憶にもあったから分かっていたけど、西洋風の異世界にこの定食はびっくりだ。
「さ、食べて食べて。朝ご飯は大事だからね」
女将はそう、ポンポンと私の頭を軽く叩いた。まるで子供になった気分だ。
ってなんて思っている場合じゃない。言うことがあったんだ。
「あ、女将さん」
離れて行こうとした女将に声をかける。
「ん? なんだい?」
「昨日私を殴った人の話しなんですが……」
「ああ、騎士科の子のことかい?」
「はい。昨日その殴った人が、謝りに来てくれたんです。だから……」
「それは本当の話か?」
もう言わないで、と言おうとした私の後ろから、そう声が聞こえた。
「騎士科の人間に殴られたと言うのは、本当か?」
振り返るより先に、もう一度問われる。
男の声だ。
何だろう、とても危険な感じがする。
私は戸惑う女将を見てから、ゆっくりと体ごと振り返った。
視線の先に白い服が見えてくる。
所々に黒いラインと、クロスした剣が描かれたこれ見よがしの金のボタン。腰には使いやすそうな剣がぶら下がっている。
あぁ、これって確かアディソン家の制服だよね。
頭を抱えたくなるのをこらえながら顔を上げると、黒い髪に黒い瞳のデリックに良く似た面差しの男が立っていた。
「君は学園の生徒だな? 一体どう言うことか、聞かせてもらおうか」
この人、たぶん、デリックのお兄さん、だよね?
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