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呆れられたのか、アーサーに自室へ連行された。
自室と言ってもキーラの部屋は、リーナが来てすぐ屋根裏に移されている。
使用人だって使っていなかった場所なのに、父と義母は当たり前のようにこの部屋を指定した。当然キーラが使っていた部屋や物はそのままリーナの物になった。
とは言っても、もともと貧乏侯爵家だから、ベッドと家具以外殆ど物は無かったけれど。
マリーが氷嚢を持ってきてくれ、着替えを手伝ってくれた所で、肩の打ち身を発見された。
「お嬢様、肩まで殴られたのですか?」
「こっちは殴られた反動で、壁にぶつかったの。あぁ、鼻血も出たのよ」
「なっ!」
笑いながらそう言うと、マリーが卒倒しそうな顔になった。
肩の怪我は治した方がいいかもしれないと思ったが、ちょっともったいない。
「ねぇマリー、こう手を吊るのってどうするのか分かる?」
「吊る、ですか? あぁ、腕を固定するんですね」
「そう、それそれ」
「……治さないのですか?」
考えていることが分かったのか、じと目で見られる。
「中身は治すけど、何日か吊ったら目立つかなって」
マリーのため息とともに、ドアがノックされる。
「はい、どうぞ~」
「お嬢様、お客様がいらしています」
顔を出したのはアーサーだった。
まぁ、この屋敷で、この部屋に来るのはアーサーとマリーだけだけど。
「客?」
「はい、デリック・アディソン様と名乗られました」
「デリック・アディソン?」
「お嬢様に謝罪したいそうです」
「謝る、ねぇ。……もしかして騎士科の制服着てた?」
「はい」
「……一人だった?」
「はい」
アーサーが頷く。
「騎士科って、お嬢様を殴った奴ですか? もしかしなくても」
マリーがあまりにも嫌そうに言うので、思わず笑ってしまった。
「そう、私を殴った人よ。……アーサーは彼を知っている?」
「アディソン家と言えば、代々騎士団長を輩出している家系です。ご子息のお顔を拝見したことはありませんから、今いらっしゃった彼がデリック様かどうかは分かりませんが、デリック様だとすれば今代の騎士団長のご子息のお一人かと。騎士団長の一族は皆黒い髪ですが、デリック様は赤い髪をされていることから、噂では使用人とのお子様ではないかと言われています」
記憶にある情報とあまり変わらない。
ゲーム的補足情報は、デリックは、髪の色の違いと、母と兄との確執に悩んでいた。
そんな時、キーラとの関係に悩み泣いているリーナと出会うことで、リーナと自分を重ね、健気に義姉を慕うリーナを、邪険にするキーラから守ろうと勝手に誓うのだ。
キーラには本当に迷惑な話だけど。
「どうなさいますか?」
「そうねぇ。……まだお父様たちも、リーナも帰ってないわよね?」
「はい」
「なら、この部屋へ案内してくれる?」
少し考えながらそう言ったが、アーサーは納得していない表情だ。
未婚の女性の部屋に、その女性へ乱暴した男を案内するなんて、あり得ないと言いたいのだろう。
でも、彼にはこの部屋を見てもらいたいのだ。
「話し合いには、アーサーの付き添いがほしいわ。そして、いつものような対応をお願い」
「……分かりました。お連れいたします」
「お願いするわね。マリーは固定の仕方を教えて、それといつものお茶を」
「はい、分かりました。お嬢様」
アーサーと違って、マリーは楽しそうに返事をした。
自室と言ってもキーラの部屋は、リーナが来てすぐ屋根裏に移されている。
使用人だって使っていなかった場所なのに、父と義母は当たり前のようにこの部屋を指定した。当然キーラが使っていた部屋や物はそのままリーナの物になった。
とは言っても、もともと貧乏侯爵家だから、ベッドと家具以外殆ど物は無かったけれど。
マリーが氷嚢を持ってきてくれ、着替えを手伝ってくれた所で、肩の打ち身を発見された。
「お嬢様、肩まで殴られたのですか?」
「こっちは殴られた反動で、壁にぶつかったの。あぁ、鼻血も出たのよ」
「なっ!」
笑いながらそう言うと、マリーが卒倒しそうな顔になった。
肩の怪我は治した方がいいかもしれないと思ったが、ちょっともったいない。
「ねぇマリー、こう手を吊るのってどうするのか分かる?」
「吊る、ですか? あぁ、腕を固定するんですね」
「そう、それそれ」
「……治さないのですか?」
考えていることが分かったのか、じと目で見られる。
「中身は治すけど、何日か吊ったら目立つかなって」
マリーのため息とともに、ドアがノックされる。
「はい、どうぞ~」
「お嬢様、お客様がいらしています」
顔を出したのはアーサーだった。
まぁ、この屋敷で、この部屋に来るのはアーサーとマリーだけだけど。
「客?」
「はい、デリック・アディソン様と名乗られました」
「デリック・アディソン?」
「お嬢様に謝罪したいそうです」
「謝る、ねぇ。……もしかして騎士科の制服着てた?」
「はい」
「……一人だった?」
「はい」
アーサーが頷く。
「騎士科って、お嬢様を殴った奴ですか? もしかしなくても」
マリーがあまりにも嫌そうに言うので、思わず笑ってしまった。
「そう、私を殴った人よ。……アーサーは彼を知っている?」
「アディソン家と言えば、代々騎士団長を輩出している家系です。ご子息のお顔を拝見したことはありませんから、今いらっしゃった彼がデリック様かどうかは分かりませんが、デリック様だとすれば今代の騎士団長のご子息のお一人かと。騎士団長の一族は皆黒い髪ですが、デリック様は赤い髪をされていることから、噂では使用人とのお子様ではないかと言われています」
記憶にある情報とあまり変わらない。
ゲーム的補足情報は、デリックは、髪の色の違いと、母と兄との確執に悩んでいた。
そんな時、キーラとの関係に悩み泣いているリーナと出会うことで、リーナと自分を重ね、健気に義姉を慕うリーナを、邪険にするキーラから守ろうと勝手に誓うのだ。
キーラには本当に迷惑な話だけど。
「どうなさいますか?」
「そうねぇ。……まだお父様たちも、リーナも帰ってないわよね?」
「はい」
「なら、この部屋へ案内してくれる?」
少し考えながらそう言ったが、アーサーは納得していない表情だ。
未婚の女性の部屋に、その女性へ乱暴した男を案内するなんて、あり得ないと言いたいのだろう。
でも、彼にはこの部屋を見てもらいたいのだ。
「話し合いには、アーサーの付き添いがほしいわ。そして、いつものような対応をお願い」
「……分かりました。お連れいたします」
「お願いするわね。マリーは固定の仕方を教えて、それといつものお茶を」
「はい、分かりました。お嬢様」
アーサーと違って、マリーは楽しそうに返事をした。
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