このやってられない世界で

０２

　私の、今の名前はキーラ。
　キーラ・オンリンナと言うらしい。

　オンリンナ侯爵家の長女で、今は父と義母、義妹の四人家族。
　四人家族になったのはつい最近で、キーラの実母が亡くなると同時に、父が義母と義妹を連れて戻ってきたためだ。キーラが生まれるとすぐ家を出て行ったくせに、帰ってくるのは早かった。
　父の存在を知らなかったキーラにしてみれば、青天の霹靂。
　突然目の前で繰り広げられる家族団らんに、母を亡くしたばかりのキーラはついていけなかった。
　その上、父は会った瞬間からキーラを敵視し、事あるごとにキーラを責める。

　義母も義妹も平民だったが、父の教育の賜物で、貴族の世界でやっているだけの知識と礼儀は持っていた。
　しかし、父の行いと、義母の出自はすでに社交界に出回っている。
　平民の後妻や年の近い娘に対するある程度の嫌がらせは仕方がないのに、二人に何かあると何故かキーラが責められた。
　虐待まではいかなかったが、彼らが連れてきた使用人たちからも冷遇され、どんどんキーラを追い詰めていた。

　家だけならまだよかった。
　キーラの新しい家族の影響はキーラの通う学園にも及んでいた。

　もともとキーラは目立つ存在ではない。
　侯爵令嬢と言っても、歴史が古いだけの没落寸前の家の娘だ。
　金があるきらびやかな生徒とは違い、母の面倒を見ながら、小さな領地の運営を家令とともに盛り上げようと勉学に励む、見目麗しくも存在感もない女。
　毎日家と学校を往復するだけのキーラを、はっきり言って誰も気にとめていなかった。
　ところが、義妹が学園に姿を現すとそのかわいらしさと純真さに、高位貴族の令息たちが心酔し取り巻きとなり、そのせいで急にキーラの名前が学生の間に広がったのだ。




――――義妹をいじめる極悪非道の姉として。





　そう、察しの良い方はもうお気付きだろう、あのまんまるおめめの美少女がキーラの義妹。
　名前は、リーナ・オンリンナ。
　いずれ聖女として覚醒する予定の、この物語のヒロインだ。


　ゲームか、漫画か、小説か、それ全部かは分からないが、この世界で一番運が悪く不幸なのは、キーラじゃないだろうか？
　生まれた時から貧乏で、母は病弱、父はいない。幼い時から家長の代わりで家を切り盛りし、稚拙ながらも領地経営もしてきた。なんとか侯爵家が完全な没落をしなかったのは、使用人の力もあったがキーラの非凡のおかげだろう。
　日々良くするために努力していたのに、何もしらない父やクラスメイトから嫌みや嫌がらせを受けるし、元凶である義妹から何とか距離を置こうと悪戦苦闘すれば、名も知らぬ上位貴族に睨まれる。
　平穏な生活もできない状況にキーラは辟易していた。
　何とかしなくてはと手をこまねいている間に、どんどん状況は悪くなり、半年がたったころキーラに限界が来た。




　そして、今日にいたるのだ。