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47.ただ言ってみたかっただけ
しおりを挟む光の精霊王の案内で、一人ふらふら進む私に、すれ違う聖職者たちがちらちらと訝し気な視線を投げてくる。
そりゃあそうよね。
明らかに部外者が、神殿の奥へ向かって歩いてるんだから。
見て見ぬふりの人はまだしも、あからさまに顔をしかめる人もいれば、二度見三度見する人もいる。だというのに迷子ですかって聞いてくれる親切な人はいないの。
ここは神がいる施設の筈なのに……。
居心地が悪いったらないわよ。
認識疎外を使えばいいのかもしれないけど、それもなんだかもう面倒くさいし……
それにしてもグリフ様にはお手洗いに行くと言ってきたのだけど、こんなに長く席を離れたら、いろいろ恥ずかしいわね。
でも今更戻るって言うのもねぇ。
そんなことをうじうじと考えながら、どう見ても居住区の階段を上り続けたわ。
現実逃避ってやつよ。
多分ゾンビみたいな顔で、息切れしながら登り切った最上階は、見事な模様の絨毯が敷かれた大広間。
展望台にもなりそうなワンフロアのその一番奥で、上機嫌な光の精霊王が手招きしてた。
『マチルダ、こちらへおいで』
ぐらぐらしている足を叱咤してようやくそこまで行けば、素晴らしく手の込んだ掘りの入った壁を指し示される。
『ここは、秘密の部屋に続いているんだ』
秘密の部屋。なんだか心躍る言葉ね。
でも何故私をこんなところへ?
『何故って、愛し子の願いだからだよ』
愛し子の、願い?
『そう、前の愛し子の最後の願いなんだ……まぁ、騙されたと思って壁に触ってごらん。きっと面白いよ』
意味深な言い方ね……でも面白いなら、って言うと思う?
なあんて、私、チョロインですから、簡単に誘惑に負けましたわ。
だって、どう見てもただの壁で、その向こうは完全に外なのに部屋があるなんて、そんな筈あるわけないでしょう?
これは見るしかないって、好奇心がもりもりわいちゃったわよ。
―――――気分は某冒険小説の主人公!!
で、光の精霊王の言うとおり壁に触れてみた。
とん、って。
そしたら、壁の一部に長方形の亀裂が入って乳白色の扉に変わったの。取っ手は赤銅色の飾りつき。
驚きながらも取っ手を引けば、扉は重さも感じないほどの軽さで開いたわ。
隙間からはこっち側の日の光とは明らかに違う人工的な白い光が洩れてくる。
すぐに入るのもなんだか怖くて、隙間から部屋の中をのぞいたけど、何にも見えやしなかった。
いやあね。
『マチルダ、覗きこんでもこちらからは何も見えないよ。そういう風に出来てるんだ』
光の精霊王が何故かそう笑って、
『大丈夫だから行っておいで。そこには君を傷つけるものは何も無いから』
なんて言う。
そしたら言葉に押されたのか、部屋に呼ばれたのか、手と足が勝手に動いたの。
取っ手を掴んでいた手が扉を引いて、足は前に進む。
光に飲み込まれるみたいに、私は部屋の中へ……入っちゃった。
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